第2話 柊 琴乃
本日、絶好のサボり日和に1限目から校庭脇の木陰にいた。
「宿題も忘れたことだしな~本日はここに限るな」
ゆっくり腰を下ろしバックを枕に横になる。四月とはいえ桜は咲いておらず校舎からわずかに講師の声が聞き取れた。
(スマホでもいじるか)
ポケットからイヤホンを取り出し耳に押し込む。聞き慣れた曲にすぐさま眠気がやってきたのがわかった。
目をつぶり現実逃避に入る準備をしていると「ねぇ君」とかけられる声に上体を起こした。
見るに声の主は[柊 琴乃]で間違えなかった。
紹介するならば学校でひときわ異彩を放つ才女である。ブロンドへヤーをなびかせて歩く姿は誰も寄せ付けず、どちらかといえばぼっちな自分よりの存在だと認識していた。
こちらから話を切り出す前に「君に会いに来た」と言われ裕樹は首を傾げる。
先生から聞かされてから数日たったとはいえ、まさか才女が授業をサボってまで自分に会いに来るとは思ってもみなかったので反応に困った。
「君ここがどういう学校だか知ってる? 」
「知ってるも何もここは、このあたりじゃ進学校だと有名じゃないか。ましてその優等生が俺に何の用だよ」
「ふーん。私のこと覚えてないか…… なら直接合わせたほうが早いかな。君が記憶を失う前の大事な人に」
「意味深だな。大事なものなんて俺に」
そこまで口にすると、とある人物が脳裏をよぎった。薄い口元が特徴でポニーテールに髪を束ねたそんな女の子。いつも語調が軽い感じの笑顔……
「思い出した? 大原 美羽さんのこと?」
名前を耳にしただけで軽い頭痛を覚えた。
「知らない名前だな。君の妹とか……」
「なぜわかったの?私は妹とはいってないよ」琴乃はくすっと笑った。
「話ぶりがそっくりなんだよ。軽い感じで私なんでも知ってます。みたいな物言いが」
眉間にしわを寄せてみるが相手は動じるどころか真横に腰を下ろした。
「君は現実に引き戻され記憶を失ったのよ。半年近くこの学校に通っているのにまだわからないかな~」
「あの妹にしてこの姉ね。説明不足にもほどがある」
「なら今夜、肝試しをしましょう。きっと楽しいわよ。春に肝試しなんてわくわくしない?」
「わかったからどうせ先生の差し金だろ? 付き合うから今日はほっといてくれないか」
「それは無理な相談。先生から大空 裕樹の更生を頼まれているのであります」
親指を立てる琴乃。
「今夜0時校舎にて」
そういった琴乃はスカートをはたき軽快に校舎へ走って行ってしまった。一限目の終わりを知らせるチャイムにつられ教室に戻る。周りからの視線が痛い。不良って言い方はあれだが素行不良をかさせているだけあり見る目も冷たい。
三限、四限目休みと角を曲がるたびに琴乃に出くわし、監視されている気分を経験したのち、一日を終えることができた。
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