028作目 虹の選択~恋愛ゲーム症候群~/@nora_gaeru
虹の選択~恋愛ゲーム症候群~
作者 @nora_gaeru
記号化されたヒロインたちが算術から滑り落ちていく
★★★ Excellent!!! 詩一
幼馴染の女の子を起こしに隣の家まで行く……なんて、まるでギャルゲーのようなスタートを切る本作。
対人恐怖症かつ二次元至上主義の主人公——悠樹は、幼馴染の尋といつもと変わらない日常を過ごしていく……はずだった。
しかし、どういうわけか学校内の三大変人に絡まれる、絡まれる。ただでさえ対人恐怖症の悠樹は疲れ果てながらも、一層ギャルゲー風味を増した日常に引きずり込まれていく。
ただのラブコメ? しかし悠樹の身に起きた過去の出来事が、「そんなわけはない」と告げている。
そして、中盤、瓦解する。——悠樹が、主人公が、読者が信じていた世界が壊れる。ガラガラガラと音を立てて。沈下、崩壊、暗闇へと落下していく。まさに『どんでん返し』だ。
同時にあらゆる伏線が回収されていく。しかも意外な経由で、隔たりを穿って。手繰り寄せた紐はすべて手中に収まっていく。
その中で悠樹は「どんな選択」をするのか。
個性とはなにか。人とはなにか。現実とはなにか。過去とは、未来とは……。
悠樹の身に起きるすべてのことが、読者に対する問いかけのように思える。
哲学的な思想を孕みながらも、それがすべて難しくない。ライトに噛み砕かれている。中高生を対象読者としていることで、ストレスフリーに読み進めることが出来る。ラブコメ×ミステリ×フィロソフィーが見事に融合したライトノベルに仕上がっていた。
この作品の一番の見所は伏線の回収にあり、それは感動と心地の良い刺激を与えてくれるものだった。だがそれは脳に対してである。心にはもっとまっすぐなものが突き刺さる。それは『愛』だ。ラブコメよろしく、中核にあるのは『愛』なのだ。
複雑怪奇に織り上げられた伏線の中心に『愛』と言う一本の線が通っている。これが作品そのものに説得力を持たせているのだろう。
このレビューを見て本作に進んだ方は、まず、あまりに不自然なところに用意された『あとがき』を目にするだろう。なにせ冒頭だ。実はこの『あとがき』すらもがすでに伏線。最後まで読んでもう一度『あとがき』を読み返すと『とんでもないこと』に気付かされる。
伏線の奇術師が織り成す奇書。どうか一言一句見落とすことなかれ。
『読んでいる途中に書いた紹介文』
【序盤の見所】(読んだところまでの見所)
・毎朝幼馴染を起こしに行くと言う羨ましい設定。
・羨ましすぎる悠樹さんを校舎裏に呼び出したくなる衝動を抑えながら読み進めると、ヒロインの尋さんの献身的なかわいさがどんどんわかってくる。長身ヒロインはあまり好みじゃあないんだけれど、それを越えてかわいいなって思える。
・癖のあるキャラクターが次々に登場する。本当に癖が強い。でも話してみたいなあって思える、魅力ある癖強さ。
以上は『蜘蛛女の美術室』まで読んだところまでの感想です。
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