その3

 彼女との出逢いは図書室でした。


 高校へ入学してからの、国語の授業の一回目。

 この国立国立こくりつくにたち高等学校は校庭に応急修理実習用として欧州の地を駆け巡っていた旧世紀の重戦車がさりげなく置いてあるような変な高校なので、やはり授業内容も普通じゃなかった。いきなり初回授業の最後に来週までの読書感想文の提出を強要するなんて、普通じゃないだろう? 少なくとも僕が今まで通ってきた小、中の一回目の国語授業ではそんなことはなかった。

 というわけで僕は入学早々、図書室なる場所に来るはめになったのだ。

 一応、読みたい本は一冊だけあった。多分こんな機会でもなければ一生読まないだろうなとは思っていた。だからせっかくの機会なので図書室へおもむいて、その本を探してみようと思った。多分そんなことがなければ、この高校への在学中、図書室なんかには絶対に来なかったと思う。

 国立こくりつの学校だけあって、無駄に潤沢な予算のある我が国立くにたち高校の図書室は、都心の図書館並にでかい。国営学校でもあるので、蔵書の保管庫としても機能しているらしい。

 しかし僕には中世時代の希少な絶版本なんて興味ない。近代に出版されたあの本一冊見つかれば、こんな無駄に広い場所とはおさらばだ。

 本棚の角に申し訳程度に付けられた種類分けの表示。それを頼りに一時間ほど彷徨って、ようやくその本を見つけた。

 一時間――多分僕の図書室における在室最高記録だな。しかもその記録は強制的に更新される運命にある。

 目的の本は本棚の最上段。男子としてはかばかしくない僕の身長では、ちょいと……いや、全然届かない。つまりは脚立か踏み台というお助けアイテムが僕には必要で、それをゲットする時間が自動的にプラスされてしまっているわけだ。

 まったく、こんな本しかないところなんて、とっととおさらばしたいのに――そう心の中でぶつくさ言いながら、なにか台になるのものは……と、キョロキョロしていると

「……あの……困ってます?」

 上の方から声が流れてきた。静かな図書室の中で、誰の気分も害することなく伝わるような、静謐な声。

 僕はその囁き声ウィスパーボイスを聞いて咄嗟に声のした方に振り向くと

 ……胸?

 僕の目の前には、国立高校の女子制服に包まれた女の子の胸部があった。制服を内側から押し上げる豊満な脅威……いや、胸囲が僕の視界に飛び込んでくる。まるで連装ミサイルポッドのような余りにも形よく張り出したそのバストは、本当に脅威と呼んでもおかしくないくらいの迫力。この噴進弾の直撃を食らって死んでもいいや――そう思ってしまうくらいな。

 しかし、なんなんだこの状況は? なんで女の子の胸だけが目の前にある?

 胸だけ……? だったらその上には顔があるってことか?

 僕は無造作に上を見る。

「……」

 多少は何らかの覚悟はしておくべきだったかもしれない。気持ちの準備がなされぬまま、それは僕の視界に飛び込んできた。

 大きな瞳、長い髪。美少女と呼んで充分お釣りが来る造作の女の子の顔がそこにあって、僕のことを少し不安げな表情で見つめていた。

 この状況を第三者視点で説明するならば、僕は自分より背の高い女の子に見下ろされている格好になる。しかし、当事者である僕にはその状況が直ぐには飲み込めず、頭の中が混乱する。

 え……なんでそんな高い位置に女の子の顔があるんだ……? えぇ? 宙に浮いてる? 飛んでる!?

 その時の僕は、僕の位置よりも随分高い位置になる女の子の顔が、ちゃんと地面に足をつけている女の子の顔だとは、素直に思えなかった。

 そんなにも高い位置に顔があるのは、彼女が空を飛んでいるから――そんな風に認識してしまったのだ。ここは古い時代の戦車が普通に置いてあったり、宇宙人の秘密基地でもありそうな怪しげな雰囲気全開の裏山を構える、あまり一般常識が通用しない場所。そんな場所なのだから空を飛ぶ女の子の一人くらいいても良いのでは? と思ってしまう力がこの国立高校にはある。

 更に彼女が立っている位置もまずかった。彼女は窓ガラスを背にして立っている。

 放課後の時間帯。夕暮れ時に入った空はオレンジ色の光を放射し、斜めになった橙色が、彼女の体の線を幻想的に浮かび上がらせている。

 だから僕には、天使か何かがそこに浮いているように――見えていた。

「もしかして……この本を……探して、いますか?」

 女の子がひょいっと踵を上げる。フワリと少し空中を移動したように僕には見える。そのまま腕と足を伸ばして、僕の身長では永遠に届かない場所にある本に女の子はしなやかな指をからませ、棚から引き抜いた。

「はい、どうぞ」

 それはまるで、本当に天使が背中の羽を一生懸命羽ばたかせ、高い位置にある本を取ってきてくれたような……少なくとも僕にはそう見えた。届かないはずの本が、今は僕の手の中にある。なんだろう――これって、魔法なのかな? さすが国立高校、魔法も普通にあるんだな。

「あ……ありがとう」

 この世ならざる美しき者に礼を言うように、僕は何も考えられなくなった頭の中に唯一浮かんできた言葉を、ただ単純に並べた。

 そしてその直後に訪れる、世界の鼓動――彼女の笑顔。

 嬉しいようなホッと安心したような、それでいて複雑じゃない、もの凄く真っ直ぐで透明な微笑み。

 玲瓏――ブリリアント。僕の頭にその言葉が過ぎる。

 かわいい、すごくかわいい。心からかわいいと思える、綺麗に透き通った笑顔。

 僕はその瞬間――恋に落ちた。


 それが石動冬子いするぎとうこさんと、僕、妖乃森春人あやのもりはるとの出逢いでした。

 石動さんは背が高いです。

 身長178センチ。ついでに体重は70キロ。

 背の高さを気にしている女の子は自分の全高なんて言いたくもないだろうし、全ての女性は普通だったら自重を軽々しく口にしたりはしない。

 でも石動さんは、話の流れで自然に出た僕の質問に、入学直後に行われた身体測定で得られたホカホカの最新情報を教えてくれたのです。そんな大らかな部分が、やっぱり可愛いんだよなぁ。

 彼女はその70キロという重量を何とか切って60キロ台にしようと、日々奮闘しています。でもお菓子が大好きなので、毎日体重計に負けっぱなしみたいです。

 石動さんのプロポーションははっきり言って、そんな風にして体重の軽減など気にしないで良いほど整っています。

 彼女の70キロという体重は石動さんの身長からすると普通だと思うし、その胸や太腿などの美しきボリュームを差し引けば、ある意味軽いくらいだとは思うけれど、石動さん自身はどうしても譲れないみたいです。70キロは女の子としては重過ぎる――そう悩んでいるっぽいです。

「もうちょっとお腹が引っ込んだらなぁ~」

 もぐもぐとチョコを咀嚼しながら、石動さんが下腹のあたりをさすっています。でもほんの少しだけ膨らんだその下腹は、女性としてのまろやかさを強調する要素として絶妙な張りを見せているのが制服の上からでも判るのですが、年頃の女の子としてはそんな要素なんか全然いらなくて、ぺったんこなお腹こそ欲しいのでしょうね。

 女性にとってダイエットとは永遠の課題ですので、男が口出ししてはいけない領域なのだと思います。そうやって数百グラムの攻防を毎日繰り広げている石動さんの姿もまた可愛いので、そっとしておくことにしましょう。


 石動さんとの衝撃の出逢いの直後、僕のクラスで委員会決めが行われました。

「図書委員」と担任が告げた直後、僕は「はい!」と、天上を突き破る勢いで手を上げたのですが、僕の他にも名乗りを上げた者がちらほら。

 意外に図書委員って人気なのか……いや、他のヤツは図書室で都合良くサボれるからと手を上げているに違いない。

 ぐぬぬ、僕は図書委員になれば、天使と見間違えてしまったくらいに可愛い、あの背の大きな女の子に逢えるに違いないと崇高な気持ちで立候補したというのに……いや、女の子に逢いたいからなりたいなんてヨコシマな気持ち全開だけれどもっ、それでもサボり目的のお前たちなんかには負けるわけにはいかないのだ!

 というわけで国立高校では、委員会決めで定員以上の人数が殺到した場合、伝統にのっとり決闘になります。入学ガイダンスでそう説明されました。なので各人、売店で買ってきた決闘専用白手袋(定価100円税別)を、ぽいスっと投げつけ合い、戦いが始まります。

 決闘はどちらか立っていた方が勝者。最後の一人が残るまでトーナメントは終わりません。

 決闘の内容はここでは詳しく語れませんが、想いの強さでは誰にも負けない僕が、ボロボロになりつつも辛くも勝利を収めました。どんなもんですか。

 そんなこんなもあり、絆創膏やら包帯でグルグル巻きになった僕が、放課後に図書室におもむくと、予想通りあの背の高い女の子、石動さんも新図書委員として図書準備室にいたのでした。

 ただその予想は少し斜め上にいっていたらしく、石動さんも何故か僕と同じく包帯ぐるぐる巻きで、どこぞの巨大ロボットアニメのヒロインみたいにアンニュイな感じになってました。彼女も彼女で図書委員には譲れない想いがあったみたく、決闘に臨んでここへ辿り付くチケットを勝ち取ってきた様子です。

 そういうわけで僕たちは再び出逢い、同じ図書室で同じ委員会活動をすることになったのでした。

 一冊の本を奪取したらその本を返却に来る時以外は、もう永遠に来ないと思っていた場所。でも僕は自分が傷つくこともまったく厭わず、再びここへやって来ました。恋をするって……スゴイですね。当分片思いのような気もしますけど。


「石動さんって、モデルとかって興味ないのかな?」

 僕は石動さんに訊いてみたことがあります。

 背が高くてプロポーション抜群でしかも美少女の石動さん。モデルとかやったらすごく似合いそうだな、とは、誰でも思うと思います。

 しかし、図書室の主とも言える司書教諭の大化物おおかぶつ先生が用意してくれたお菓子をバリバリ頬張っていた石動さんは、ポテトチップスを噛み砕いている途中のまま、ふるふると小刻みに首を横に降るのでした。

 それからですかね、石動さんが極力目立たないように行動しているのに気づいたのは。

 石動さんは運動神経も良いみたいです。大きな胸とむちむちな太腿の所為で鈍重なイメージがありますが、本気を出せば意外に素早く動けるみたいです。

 自分の授業が自習になってしまい暇になった時、ちょうど校庭で石動さんのクラスが体育でバレーボールをしているのを窓から見たことがあります。

 石動さんは大きな体を縦横に使って大活躍――しているように見えましたが、なんだか変にギクシャクしています。無理に力をセーブしているような感じで、その反動からか何もないところでずっこけたりしていました。でも自分の所為でチームが負けるのは申し訳ないと思っているらしく、手を抜いてわざと負けたりはしていません。そんな生真面目な部分が、いかにも石動さんらしかったです。

 そんな彼女の下には、その隠された運動神経の秘密を見抜いた運動部のスカウトが、毎日のように勧誘にやって来ます。

 図書委員の仕事で書棚の間を回っていると、隅の方で本を抱えた石動さんが、運動部らしき生徒に囲まれているのを良く目にします。これだけ大きくてそれなりに動ける逸材が手付かずで転がっているのです。バレーやバスケなど高身長が第一条件な部活は元より、あらゆる運動部がスカウトにやって来ます。

 でもその全てを石動さんは断り続けています。

 幼少時から背の大きかった石動さんは、奇異の目で見られることに疲れてしまったらしいです。だからもうスポーツとかモデルとかで活躍して目立ってしまうことが嫌なのですね。

 それに彼女はもの凄い怖がりなので、相手を撲殺するぐらいの勢いで球が飛んでくるハードなスポーツの世界の中には、いられないのだと思います。

 彼女の中身は、本当に普通の女の子です。

『背の大きい人間は、その体格を生かしてすべからずスポーツに従事すべきだ』

 普通の人間はたいがいそう思っています。

 でも石動さんと接していくうちに、全ての背の大きい人間をそんな色眼鏡で見てはいけないんだなと、改めて思うのでした。


「将来の夢って、ある?」

 僕は石動さんに訊いてみたことがあります。

 体格の良さは使わずに、生きていこうとしている彼女。

 この国立高校を卒業したら、いずれは彼女も社会に出て行くことになる。

 石動さんもやっぱり普通のOLになるんでしょうか。

 大きな背を丸めて、同僚にお茶くみをしている石動さんの姿――ああ、想像できない。

 余計なお世話なのかも知れないけれど、石動さんの未来図がまったく見えない僕は、彼女が自分の将来をどのように考えているのかを、尋ねたのでした。

「……司書、に、なりたい」

 そして僕の質問に、彼女ははにかみながら、そのウィスパーボイスで答えてくれたのでした。

「司書? 司書って……大化物先生の仕事の一つだよね?」

「うん、そう」

 図書準備室の一角をほとんど占有スペースとして使っている大化物先生は、古語研究員として普段は働いているのですが、本当のメインのお仕事は司書教諭です。

 司書教諭――司書とは、図書館で図書の収集・整理・保存・閲覧などの専門的事務を行う職のこと。学校図書館(図書室のこと)で勤務する場合には生徒への生活指導も仕事に含まれるので教員免許も必要になり、大化物先生のように司書教諭という役職になります。簡単に言うと本のソムリエみたいなものです。

「そう……なんだ」

 高校一年にして、既に将来の行き先を決めていた彼女。

 それはすばらしいことだと思います。

 でも……なんだろう。

 なんだかしっくりこないもやもや……闇に包まれてしまったような。

 そう、闇。

 石動さんは、もう目立ちたくないと思っています。

 図書館という閉鎖空間に自分の身をおいて、屹立する書棚の後ろに身を隠し、受付に座っていればその背の大きさも目立たない。

 石動さんはそうやって自分の人生を闇の中に隠してやり過ごそうとしている……僕には彼女が選んだ未来図が、あまりにも黒く描かれすぎているように思ってしまい、素直な応援の言葉が紡げませんでした。

 彼女は一生、図書室という穴倉の中で暮らすことを望むのか? 彼女はその目立ちすぎる自分を世界から消すために、自らを封印するのか?

 ……。

 しかしそれは間違った考えだということに、しばらくして気づきました。


 ある日のこと。

「冬子、どこどこ?」

「こっちだよ。それと図書室では静かにね」

「は~い」

 石動さんが誰かと会話をしています。なんだろう? と思って近くまで行ってみると、石動さんの隣りに小さい……いや、普通サイズの女の子が一人。

「まったく、議事録に使う資料を探すのも一苦労だよぉ」

 それは石動さんと同じクラスで別の委員をしている娘の様子。話の口ぶりからすると、生徒会の人かな?

「あ、コレだよ」

 石動さんは目的の本を発見したらしく、視線でその本の所在を伝えます。しかしそれは本棚の最上段に刺さっています。普通だったら、やれやれと思いながら踏み台になるものを探すところですが

「はい、どうぞ」

 石動さんは長身をひょいっと伸ばすと、なんの問題も無く目的の本を回収、生徒会の女の子に手渡しました。

「やっぱり図書室に冬子がいてくれると、助かるな~」

「どうしたしまして」

 女の子の謝辞に対する、石動さんの微笑。

「!」

 その笑顔を見た僕の心臓がドクン! と大きく跳ね上がりました。

 それは、初めて石動さんに出逢った時に見せてくれた、とても、とても透明な笑顔。僕が恋をした、あの笑顔。

 自分が役に立って良かったと、心からホッとする、ただ純粋な微笑み。

 そう、この場所には――石動さんの力が必要だ! 必要なんだ!

 自分の長い腕を、静かにしなやかに振り回し、脚立を操作する煩雑な音も一切立てないで、誰にも迷惑をかけず無音のまま、全ての仕事をこなして行く。

 自分の体を――自分の力を思う存分発揮できる場所として、石動さんはこの場所を選んだんだ!

 そしてそれは彼女がこの国立高校に来る前から決めていたこと。だからこそ石動さんも決闘に臨んで戦い抜き、自分の居場所を得るためにボロボロになりながらもここへたどり着いたんだ!

 この図書室――図書館こそ、石動さんの居場所なんだ!

 それに気づいた瞬間、どくん! と再び心臓が大きく鼓動した。そして次にはギリギリとした傷みが胸を襲った。僕はたまらなくなって、自分の体を両腕で抱きしめるようにして、その傷みに耐える。でも、耐えられそうにない。

「だ、だいじょうぶ!?」

 僕の変な挙動に気づいた石動さんが、女の子と一緒に近づいてくる。石動さんが心底心配そうな瞳で、僕を見る。気遣うように、肩や背中に手を置いてくれる。痛い! 嬉しい! 余りにも柔らかな傷みが、僕の胸を締め付ける!

「だいじょうぶ……だよ」

 僕は努めて平静を保ってそう言うけれど、全然だいじょうぶじゃない。多分この傷み、一生治らない。石動さんがこんなに近くにいたら、一生治らない。

 だってこれは――恋の病。病魔に襲われている自分自身だからこそはっきり判る。

 石動さんと手を繋ぎたい! 石動さんを彼女にしたい! 石動さんとデートに行きまくりたい! 石動さんを――奥さんにしたい! 僕の胸の奥で恋の衝動が大爆発している! 痛い! 痛いよぉ!

 でも……僕の中の一番大きな気持ちは――自分の夢に向かって全力で突っ走っている石動さんを邪魔したくない。

 僕みたいな余計なものがくっ付いて、彼女の夢の妨げになるのは……嫌だ。キミに逢いたかったって理由だけでここにやってきたヨコシマな僕じゃ、石動さんにつり合わないよぉ……。

 だから僕は、我慢する。限界を超えて病の果てに死んでしまうようなことになったとしても、僕は耐える。痛い、苦しい……でも……ダメだ。石動さんが自分の夢を叶えるまでは……痛い……でも

 ……

 片思いの時間は、限りなく永遠になってしまって……

 でも、石動さんのことが、大好きだから……僕は……


 密やかに軽やかに、そして楽しそうに。

 石動さんの大きな体が図書室の中で舞っています。

 本を両手に携えて、長い髪を靡かせて、むちむちとした太腿を惜しげも無く覗かせて、スカートを勇ましく翻し、軽やかに美しくステップを踏む。

 長身を縦横無尽に使っててきぱきと仕事をこなして行く姿は、本当に輪舞を躍っているみたいに可愛いです。

 そう、可愛い。

 これだけ背の大きい美人な女の子だったら「綺麗」という感嘆がまずは思い浮かぶのだと思いますが、僕は石動さんに対しては「可愛い」という感覚しか生まれません。

 それはあの時の笑顔を見てしまったから。

 自分の力がちゃんと役に立ったと、ホッと安堵する笑顔。

 あれは綺麗とは表現できません。可愛いとしか言えません!

 そしてその玲瓏な笑顔にいきなりハートを撃ち抜かれた僕も、石動さんのことは永遠に「かわいい」としか見ることができなくなっているのです。

 え、でも、石動さん……ホント、可愛いですよ。え? そう思ってるの、僕だけ? ……くすん。


 彼女はその体格の良さは、全く使わないようにしているわけじゃないのでした。

 彼女が彼女の想う、自分の長身を最高に生かせる場所を、既に見つけていたのでした。

 そしてその先に待つ、本物の司書としての資格を得るために、彼女は今、司書として大先輩になる大化物先生に色々と訊いて勉強しています。ゆっくりとですが、しかし確実に自分の未来図を完成させるために、石動さんは未来に向かって歩いています。

 ……なんてカッコ良いんだろう。

 この言葉をそのままストレートに彼女に伝えたら、それは彼女の長身から来る印象を誉めそやす結果にしかならないでしょう。

 でもそのカッコ良さは、彼女が見つけた「生き方」に対するカッコ良さ。

 だから僕は石動さんが勘違いしないように心の中で「石動さんってカッコイイ!」と絶叫します。

 石動さんに対する僕からの「カッコ良い」はこれで充分です。多分これで石動さんには伝わるし、僕も満足できます。

 え? そういう誉め言葉は、ちゃんと直接女の子に言ってあげた方が相手も喜ぶって? いやいや、石動さんにはこの言葉はダメですよ。

 だって石動さんは、カワイイんだもの。


 ――FIN――

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