第2話

 佐久間さんが言うには、私には妹がいるらしい。


「そう。君には2つ下の妹がいる。君にとてもよく似た顔立ちで、君と同じくらい心の優しい少女さ」


 佐久間さんはとてもイケメンだ。フワフワとした灰色の髪に、筋の通った高い鼻。元々の穏やかな雰囲気に、かけている銀フレームの眼鏡が理知的な感じをプラスしていて、これで白衣でも着ていれば私の好きな漫画の主人公そのものだ。


「……大丈夫かい?」


 いけないいけない。佐久間さんと話すといつもボーっとしてしまう。佐久間さんの顔しか見れなくなって、佐久間さんの声しか聞こえなくなる。前に1度、何か魔法を使っているんじゃないですかと冗談交じりで聞いた時は、少し苦笑していたな。

 そう、私には妹が1人いる。まるでピントのずれた眼鏡をかけているかのように、細部を思い出そうとするとぼやけてしまうが、「いる」事だけはしっかりと覚えていた。

 その事を伝えると、佐久間さんは優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。

 そうだ、その妹は私とよく似た顔立ちをしていると言う。なら、鏡で自分の顔を見れば、もしかしたら彼女の事も思い出せるかもしれない。


「うーん、鏡か……。僕としてはあまりおすすめはしないかな。それじゃあ根本的な解決にはならないし」


 佐久間さんが困ったような顔をしたので、私はその提案を即座に取り下げた。いつも微笑みを絶やさない佐久間さんがそんな顔をするという事は、それはきっと良くない事なのだろう。


「これを見てごらん。君が持っていた物だ。多分なんだけど、君の妹もこれと同じ物を持っているんじゃないかな?」


 佐久間さんが取り出したのは小さなアクセサリーだった。宝石の形をした赤色のガラス細工が、白い紐に巻かれて銀色の留め具に繋がれている。そこら辺の土産屋で売っていそうな、陳腐なアクセサリーだ。


 ……それはそうだろう。これは小学生の私が作った物なのだから。


「思い出したみたいだね。良かった」


 そうだ。当時小学生だった私と妹は、父に連れられアクセサリー作りの体験会に参加した。私が赤色のガラスを、妹が青色のガラスを選んでアクセサリーを作り始めた。まだ細かい作業が出来ない妹を手伝って、姉妹でお揃いのアクセサリーを作ったんだった。

 「お揃い!」と誇らしげにアクセサリーをかざして笑う妹の顔が、瞼の裏に浮かびあがる。なんで忘れていたんだろう。私はあの子の事をあんなに大切にしていたのに。


「それじゃあ今は眠りなさい。次に目覚めた時には妹と会わせてあげよう」


 佐久間さんがゆっくりと手を動かす。

 

 まどろみの中、チャイムの音が聞こえた気がした。来客だろうか? 

 まぁ、私には関係ないか。そう思いながら、私は押し寄せる眠りの波に身を委ねた。


 


 

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