第23話 帰還
脚召喚、2回。腕召喚、1回。
さすがにこれだけ叩き込めば、ゴーレムの動きも鈍ろうというものだ。
まあ、もともと動き鈍いけど。
ところでこの攻撃魔法……ええと、うん、攻撃魔法だが、ゼクストゼーレのどの部位が現れるかはやっぱりランダムらしい。3回試して右脚が2回と左腕が1回。
出すも引っ込めるも一瞬で(空間魔法から出し入れするだけだし)、連射は効かない。一部位出しつつ同時に他の部位を出すこともできない。つまるところ、一発殴ったらいわゆるリキャストタイムが発生するということ。
連続で出せたらオラオララッシュができたのに、残念である。
とはいえリキャスト自体はそんなに遅くなく、感覚で2秒ほど。腕だけでなく脚まで乱れ飛ぶというギャグじみた見た目にさえ目を瞑れば、攻撃手段としては悪くない。
「おのれ……」
そしてその優秀さは、またも希望を歯噛みさせた。
生活魔法といい攻撃……攻撃魔法といい、どうしてこう、絶妙に希望の希望とマッチしないのだろうか。
ドカーン! って感じだし、迫力はあるし、攻撃範囲も広い。ここだけなら間違いなく希望の希望そのままだというのに――!
「せ、え、の――!」
このやり場のないもやもやとしたナニかは、とりあえず目の前のサンドバッグにぶつけるに限る!
「くらえわたしの攻撃魔法――!」
そしてついに現れる右拳! 右ストレートでぶっとばす!
顕現したゼクストゼーレの右腕は、立ち上がりかけたゴーレムの胸を、寸分違わず打ち貫いて――
ずど――――ん! と。
もの凄い轟音が響き渡った。
倒れたゴーレムの身体がひび割れ、崩壊する。耐久力の限界だったのか、コアっぽい部分をクリティカルに打ち貫いたのかはわからないが、どうやら倒せたらしい。
舞い上がる土埃と共に、その巨大な体躯が光の粒子となって消えていく。
先ほどのクラなんちゃらかんちゃらやデカい蚊もそうだったが、このダンジョンで倒した魔物は死体が光の粒子――魔力に還元されるようだ。
「おお……やった」
思いっきり殴り飛ばして撃破してしまったが、よく考えたら殴りかかってきたのは向こうが先だ。
うん、わたし悪くない。
土埃はすぐに晴れ、視界がクリアになる。
ゴーレムがいた場所の向こう側には……たった今到着したのであろう、シルヴァたちの姿があった。
*
ゼクスたちが希望を先行させた部屋に辿り着いたとき、部屋の中央には巨大な岩壁が陣取っていた。
見ればわかるが、アレがこの部屋の主であるゴーレムだろう。
「せ、え、の――!」
そのゴーレムの体躯の向こう側から、ひどく聞き覚えのある声が聞こえた。
どこか力の抜ける声は、とりあえず盾になれと送り出した少女のものであろう。
「くらえわたしの攻撃魔法――!」
「え?」
今、あの子はなんと言った?
攻撃魔法? そんなもの、あの子に使えるわけがない。
魔力だけは有り余っているから、パーシーの魔法を見よう見まねで再現して――いや、それもありえない。
そんなゼクスの疑問は、一瞬で解決した。
ずど――――ん! と。
やはりひどく見知った白い腕が、唐突に現れて。
ゴーレムの胸元を思いっきり殴り飛ば……あ、アレただぶつかっただけだわ。
ともかく、運よくコア部分に直撃して一撃で破壊。ゴーレムを轟沈して見せた。
「……ええと」
なるほど、と思わないでもない。
理屈はわかる。よくまあこの状況でそんなことを思いついたものだ、とも。
荒っぽい使い方であることにはこの際目を瞑ろう。今、ゼクストゼーレの所有権は希望にあるのだし。
それはそれとして、これだけは言える。
きっと「彼」、大笑いしてるわ。
*
「クルト!」
シルヴァたちに連れられ、ロランが駆け寄ってくる。
「おう、ロラン! ちゃんと助けを呼んでくれるって信じてたぜ!」
「信じてたぜ! じゃないよ! 怪我はしてない!?」
「平気、平気。あんなウスノロに捕まるかってんだ」
へへん、とばかりに鼻をこするクルト。に、エルウィンの鉄拳が突き刺さった。
「ってぇ!?」
「こっちがどれだけあなたを心配したと思ってるの」
「うっ……わ、悪かったよ」
叱られる腕白坊主を尻目に、希望は希望でシルヴァたちと合流していた。
「怪我はないか」
「あ、うん。だいじょぶ」
「そうか。それと――お前が攻撃魔法と言っていた、アレだが」
「あー……」
視線を移す。
ゼクスが、空間魔法から出しっぱなしになっているゼクストゼーレの腕をめっちゃ見ていた。
いやだってまだ片づけるなって言うんだものあの子。
「あの巨人の腕だけを収納から取り出して攻撃したのか」
「うん。なんかえいってやったらできた」
生活魔法もそうだが、えいってやったらできることがめちゃくちゃ多い気がしないでもない。
希望の魔法、空気読みすぎである。
視覚的な部分でも空気を読んでくれたらもっとよかった。
「えいってやったらできるのはいいけれど、今度はもう少し大事に扱ってちょうだい」
腕の様子の確認が終わったのか、ゼクスが近づいてきた。
「一応損傷はなかったけれど、指の関節とか、構造的に脆いのよ」
「え、でもなんか自己修復とかするんじゃなかったっけ」
初めて乗った時、頭に叩き込まれた情報にそんなものがあった気がする。
自己修復というか自動メンテナンス機能というか、空間魔法自体が調整ドック的な感じになっている風なことを認識したような?
「そうだとしても、避けられる損傷は避けるにこしたことはないでしょう?」
「むむ。それは確かに」
頻繁に使う機会があるとは思えないが、いざ必要になった時に指が壊れて武器が使えない、とかなったら笑えない。
「ゼクストゼーレはIMLで動くから、身体強化と同じ感覚で魔力保護が効くわ。呼び出すだけじゃなくて、魔力保護と攻撃モーションも組み合わせるといいんじゃない?」
「あいえむえる」
まってね。まってね。
なんかそれも聞いた覚えがある。
ええと、基本動作のシステムで、Image Motion Link system……だったか。要はアレだ、考えた動きをそのまま機体の動作として反映させるシステム。
小難しい操作とか特に必要ないけど、代わりに割とリアルな想像力が要求されるやつ。
ロボの体躯を、自分の肉体と同じように扱う感覚が必要だとかなんとか。一応、補助システムでサポートはしてくれるみたいだけど。
「つまりこう、パンチ! とイメージしながら呼べばパンチしてくれると」
「あなたの想像力が足りていればね」
「ついでに壊れないように、魔力でバリア張ってパンチできると」
「あなたの魔力次第だけど……まあ、大丈夫でしょう」
「おお……」
これで腕の形をした鉄の塊じゃなくてパンチを呼び出せる!
…………いや待て、わたし別にパンチしたいわけじゃないわ。
「つまり、どういうことだ?」
「希望にも攻撃手段が増えたという理解でいいわ。大味だけど」
大味言うな!
わたしの魔法だいたい雑なの気にしてるんだから!
「そうか。喜ばしいな」
純粋に喜んでくれるヴァッティさんが眩しい。
ありがとう。でも、ぐぬぬ。
「さて。とりあえず当初の目的は達したわけだし、あとはここから出るだけでいいのかしら?」
「ええ。本当にありがとうございました。わたしだけではこの子たちを助けられなかったと思います」
ゼクスの言葉に、エルウィンが頷いた。
「まだ帰り道が残っている。一息つくのは無事にここから出られてからにしよう」
「あ、希望。帰りはその愉快な魔法……魔法? 使わないでね」
「え、それはいいけど……なんで?」
「通路が狭いからよ」
あ、通路壊すかもしれないからか。
あれ、やっぱりわたしの攻撃魔法使いにくくない?
「では、すみませんシルヴァさん。帰りも先導していただいてよろしいですか?」
「ああ。ノゾミ、ゼクス。後ろは任せていいだろうか」
「いいわ。最後尾はわたしが。希望はシルヴァの後ろについて盾ね」
「え、あ、うん」
あれよあれよと帰りの立ち位置が決まってしまったが、そうか。やっぱ盾か。
うん。まあ、予想はしてたけどね!
ともあれ帰り道には大きな障害もなく、希望たちは無事に王都地下水路からの脱出を果たした。
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