"力”
~未知との闘い 恐怖に打ち勝つために~
「彼らは摩訶不思議な“力”を使っていましたよ、そうとても不思議なね・・嗚呼」
そう語るオリバー氏の瞳はどこか遠くを見ていた。
「我々の人智の及ばない“力”ということですか?」
「そう・・・彼らは、その“力”をこう呼んでいたんだ、少し発音が難しいが・・」」
オリバー氏はおもむろに口角を上げ、衰えた心肺機能を補えるよう背を少し仰け反らせながら発声した。
「―――――――――――――――――――ォオ」
それは発情期の猫が出す鳴き声そのものだった。
「そんな音を毎回?“力”の名を呼ぶために?」
「真の名前を隠すとか、そういった類ではなかったと思うよ、少なくとも私には彼らにとって“力”の呼び方が他にないように見えたね」
「それで・・・〈猫が発情したような発音の“力“〉は、どのようなものだったんです?」
「彼らはその“力”を自由自在に行使していた」
「膂力や五感の強化―周囲の探索や気候の変化をつぶさに察知したり、触れた相手を錯乱状態にしたり、果ては“敵兵を燃やす“ことが出来る奴もいたよ」
「本当に?」
私は思わず彼に聞き直してしまった。
戦時中に活躍した兵士の中には超人的な能力を持つ者がいたという。
しかし、それほどまでに人間離れした”力”を持っていたとは・・・。
特別に許された面会時間もあと少し。
最後にひとつ彼に聞いてみることにした。
「・・・・・彼らが、その・・・怖くはありませんでしたか?」
その問いに対して、皿國軍第10師団 元陸軍大尉 オリバー=ブラウンは、少し間を置いてこう応えた。
「自分には分からないものを使う連中なんだ、怖いに決まってるだろう」
「しかしね、彼らは味方だったんだよ、間違いなくね、たとい敵さんと同じ”サイト―教にかぶれていたとしても」
カニューラ―(鼻腔へ酸素を送る管)の周りの髭をさすりながら彼の瞳はまた、どこか遠く”異邦の地”を見ていた。
引用文献
オリビア=デュボー(2678)西道の神秘 明鏡止水の心,皿國,アメリゴハウス社
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