07 仮名束
病院のほうから医者が来て、話しかけてきた。
さっき運ばれた患者がドナーで、移植が可能なこと。ドナーになる側は身体のほとんどがだめになったが、脳は無事なこと。諸々の書類へのサインと、手術後の本人確認に付き合ってほしいこと。
脳の半分ほどが移植になるらしい。どちらの記憶が残るのかは、分からないまま。ドラマや漫画のようだと、なんとなく思った。
「わかりました」
身体は恋人でも、心は、恋人じゃない。彼女には、ひどいことを言ってしまった。それだけは、謝ろう。それだけ。
死にたかった。
なのに、自分以外が、死んでいく。まるで、身代わりにでもなるみたいに。
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