03 昧原雪瑚
仕事以外で会うのは、初めてだった。
彼。ドナー検査の会場。
「あの、あなたも、検査に?」
「ええ、まあ」
彼も、ドナーになるんだ。素敵。
「あなたは、なぜドナーに?」
「誰かを助けたいからです」
本心だった。今まで、誰かに助けられるばかりで、誰も助けられない人生だったから。せめて自分が死んだあとは、たくさんみんなの役に立ってほしい。それだけ。彼にも、たぶん伝わったはず。
「いい心掛けだと思います」
彼。何か、雰囲気が違う。
「どうか、したんですか?」
「いえ」
ドナー検査の結果が出た。
「あっ。すごい」
わたしの身体。頭のてっぺんから足の爪先まで、ドナー検体として使える判定。健康だけが取り柄だったし、これは嬉しい。
「わたし。ドナーになれました。嬉しいです」
「そうですか」
「あなたは?」
彼。表情が曇る。
「使用不可。脳機能が常人よりも過剰で、ドナーとしては一切適さない」
「わっすごい。頭がいいってことじゃないですか」
空気が、割れるような、感じがした。
違う。
彼の表情が。
心が。
ひび割れたのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます