04 狩名更

 耐えられなくなった。


「やめてください」


「え?」


「俺には好きな人がいます。昨日も彼女の胸のなかで眠りました。あなたみたいな、そんな、ちょっと気が合うだけの人と関わる気は、俺にはありません」


 言い足りない。彼女が何か言おうとしたのを、上から被せて喋る。


「あなたは、人として最低だ。勝手に人を好きになって。勝手に距離を縮めてくる。俺は。恋人がもうすぐ死ぬってのに。あなたは能天気に、恋愛ごっこをして。もうたくさんだ」


 彼女の顔は、もう、見たくなかった。


 ドナー検査会場を出て。

 街を歩く。どこへ行けばいいだろうか。


 恋人に逢いたかった。

 でも、今の不安定な気分で逢ったら。彼女に迷惑をかけてしまうから。逢えない。


 満たされない想いだけが、募る。


 携帯端末。


 震える。


 電話。病院から。


 彼女が、倒れて昏睡状態になったという、報告だった。

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