13.パトリック



 やがて道路は横幅が大きくなって、住宅街と思われるところへ入った。多くの家が立ち並ぶ。しかし、人気はない。がらんとしている。廃墟化してしまった街、ロストシティとはこのことか。


 道路の真ん中に乗り捨てられた車を見つけた。シルバーのセダン。引っ掻いたような傷が多くみられる。一見故障車には見えなかった。しかしウルティムス、いや、カイザーが手首のアーマーでガラスを叩き割って中へ入り、エンジンをかけようとしたらダメだった。世界中の精密機械に影響が出ているとすれば、それはたしかに世界の崩壊につながる。ほとんど情報がない中、ただ西に進むことに不安を覚えた。はっきりとした現状はカイザーにもわからないようだ。


 それから歩いて間もなく、白を基調とした一戸建ての前を通った。そこで、僕は動くものを見た気がした。家の手前、駐車してある車と家の隙間に何かが通ったのだ。気のせいかとも思ったがそうではなかった。それは、再びサッと現れて消えた。こちらからは死角になるところに移動して身を隠したようだった。


「何かいる!」

「偵察してくる」


 カイザーがそう言った直後、般若面で顔が隠された。そして、ピキピキという音がして彼の身体が透明な装甲に包まれた。そのクリアな物質は骨組みのパワードアーマーの隙間に張り巡らされた。


 彼は少し前にこれを僕に詳しく説明している。これは形状記憶防弾ガラスだということだ。事前にプログラムしておくことで、組まれた金属の骨組みである柱に沿ってガラスが再構成されていく。彼は、もともと軍関係者らしく、そこで開発された技術を利用しているということだ。


 ここに述べたような仕組みであっという間に戦闘態勢に入った彼は、ドゥーンという鈍い音とともに姿を消した。


「ウルティムス?どこ行っ・・・」


 車の影で物音がしたかと思うと、次の瞬間隣に現れた。直後、バリンッという大きな音がして、先に張ったガラスアーマーが割れた。


「え?」


 思わず声を上げてしまった。

 般若面が二つに割れて素顔が現れる。彼の腕には犬が抱かれていた。


「隠れていたのはこの子だった」


 犬は腕の中で、キャンとか細く鳴いた。白い体毛のせいか薄汚れが目立つ。この犬種は秋田犬だったか?不思議と痩せてはいない。餌となるものは近くにあるのだろうか。


「物陰に隠れてメランの攻撃を逃れたのだろう。飼い主は死んでしまったのか」

「カイザーは瞬間移動ができるの?」


 僕は犬を撫でながら聞いた。


「瞬間移動ではない。このスーツには・・・」


 ガチャッと扉の開く音がした。ビクッと身体が反応する。

見ると、この家の玄関の前に人が立っていた。上半身裸で、皮膚には腕から首にかけて、肌を埋め尽くすほどの黒い文字が書かれている。アルファベットに中国語、アラビア語。意味を持つかわからない文字の羅列が書き殴られている。胸の上あたりに大きくアルファベットで書かれた『SUFFER(苦しみ)』に目が留まった。その上にはくしゃくしゃと乱れた黒い長髪。

そして、気づいた。その者には顔がなかった。


「うあああああああ」


 僕は後ずさった。アンクスだ。カイザーの腕から犬がサッと降りた。そのアンクスを見てすぐに、彼が再び般若面の透明装甲に身を包んだ。


 ドゥーン。


 一瞬でアンクスの背後に回ると、その首を抑えて地面に叩きつけた。

 その時、アンクスの身体がピクピクと動いた。それはやがて大きくなり、そして笑い声が聞こえてきた。


「ハハハハハハハハハハハハハハ」


 カイザーがやつの顔に手を当てると、そこから何かを剥いだ。

 アンクスに顔が現れた。男性だった。三十代後半に見える。目を見開き、口を大きく開けて笑っていた。拍子抜けだった。カイザーの手には肌色のペラペラとした薄いものが握られていた。マスクだった。顔に貼ることで自身をアンクスのように見せるもの。やつは変装していたのだ。彼はそれを足元に捨てた。


「つまらないものを・・・。何している」


 カイザーはその男を放した。


「なあに。遊びだよ。あ、その犬は俺のじゃないからな。ずっと居座るんだよ、まったく・・・」


 男はケラケラと笑いながら立ち上がった。よろよろとふらつきながら玄関に向かうと、扉を開けて中へ消えた。

 犬はまた物陰に戻っていった。僕らは彼の後を追って中へ入った。


 僕とカイザーは男に続いた。家の中はひどい有り様だった。家の中いっぱいにものが散らかっていた。ズボンや下着、ビールの缶、たばこの吸い殻などがあたりかまわず散乱している。棚からは食器がこぼれ落ち、押し入れや戸棚は開いたまま。それは床にもおよび、足の踏み場などなかった。また、それだけではない。壁や床には至るところに落書きがしてあった。意味不明な数字や文字がほとんどで、何が書いてあるか読み取れない。ごみ屋敷だった。男は、落ちたものを気にせずに踏んで歩いた。僕たちは男に倣って部屋に入った。


 僕らはリビングに通された。物が散乱しているのはここも同じ。壁には穴が開き、窓ガラスは割れている。壁には時計がかかっていた。時間は止まっている。六時四十二分、十二秒。しかし、男はこの部屋を生活の拠点にしているらしく、ソファとテーブルの上には比較的物が少なかった。ソファには大きな鉄のバールが投げ捨てたように転がっていた。


 男はソファに横になった。上半身の落書きがよく見えた。文字や絵が大小様々。しかし、書かれた内容はほとんど読み取れない。

 僕は部屋の奥にキッチンを見つけた。水道をひねる。水は出てこなかった。そんな都合よく手に入るわけがないか。


「水なら横の戸棚にペットボトルがある」


 男が言った。彼に従って戸棚を探すと、たしかに大きなペットボトルがあった。五本置いてある。キャップをとると、大急ぎで喉に通した。潤いが体中に染み渡る。一気に体力が回復した気がした。一瞬で飲み干してしまった。


「ありがとう」


 生き返る。全身の細胞の動きが活発になった気がした。


「君たちは西に向かっているのか。世界を救うために?」


 そう言うと、男は鼻で笑った。床に落ちたルービックキューブを拾うと、いじり始めた。喉の渇きを潤すと、僕は二人の元に戻った。


「君、名前は?」


 カイザーはこの男から何かを聞き出そうした。見るからに狂人だが、アレンと別れてから初めての人間。貴重な情報源ではある。


「俺?パトリック。で何だ?名前を聞いて俺に興味あるふりでもしてるのか?」

「パトリック。君はずっとここに?」

 パトリックはルービックキューブを回しながら答えた。

「そんなことお前に関係あるか」

「他の住民はどこだ」

 パトリックはカイザーを睨んだ。不快で、人を見下す目。

「お前はバカなのか。例の爆発でみんな消えちまったよ」

 それから付け加えた。

「あ、そこの街の人たちは違うけどな」

「そこの街の人?」

「そこだよその通りを行ったところ。くだらないやつらが死んでいく」

「詳しく教えろ」

「天罰だよ。物に支配されたやつら。クスリやら女でひたすら金をかき集め、ブランドもののバッグや時計を集めてる自己満足野郎のことが知りたいか?それならこの先を行くといい。」


 パトリックが目を細めると、その装備を見て言った。


「そんなもんで何をしようとしてるんだ。あがくのはよせ。身を任せろよ。この全てが終わった世界で悪あがきはバカのすることだ」


 カイザーは僕に、行くぞ、というと、この部屋を出て行った。もうここに用はない。僕としては、水を飲むことができてありがたかったが。

 僕もここを出ようと玄関の戸に手をかけると、急に後ろから襲われた。胸ぐらをつかまれた。パトリックだった。


「お前は生きているか?」


 パトリックの顔が視界いっぱいに近づいた。目を見開き、唾を飛ばしながら彼はしゃべった。


「生きているんだな。それならいい。苦しんで、苦しんで、死ぬまであがくことだ。いいな。この狂った世界で信じることができるのはお前自身だけだ。逃げるなよ」


 信じることができるのは自分だけ。彼は何かを訴えようとしていた。それは僕に足りないものか。それとも、既に僕の中にあるものか。僕は生きているのか。既に混乱している頭に何か叩き込むのは無理だと思った。

 怖くなった僕は、力任せに彼を突き飛ばした。すると、彼は思ったよりも飛んで、背の壁にぶつかった。


 彼は笑った。


「いいぞ、その調子だ」


 外へ出ると、カイザーが立っていた。身動き一つせず待っている。


「ごめん、遅くなった」

「大丈夫か?進むぞ。スカイライナー探しはまだ続く」


 この先の街では、本当に殺人が起きているのだろうか。ピキピキッという音がして、カイザーの身体が透明装甲に包まれるとともに、般若面を被った。



「四月二四日 水曜日

 今日は水曜日。授業が午前中で終わったから午後からバイト。レストラン。注文され、作り、ウェイターの待つカウンターに出す。この繰り返し。明日は給料日!いっても3万ちょっとだけどはやく欲しい。口座に2万しかないし、来月の頭にはドリームス一年分の引き落とし1万があるから。いつもぎりぎりの生活。でも、食費とわずかな遊び代で十分だからバイトを増やそうとも思わない。これ以上無駄に動きたくない。」



12.ニンジャ



僕たちは高層マンションの立ち並ぶ通りに来ていた。白や灰色のパッとしない建物ばかりが並ぶ。まるで白黒映画の世界に来たようだった。人影もない。

突然、叫び声が聞こえた。男が恐怖におびえる声。そう遠くない場所からだ。僕たちは右手にあるマンションのエントランスに駆け込んだ。ロビーはそう広くなかった。正面に受付デスクがあり、右には各部屋のポストが並んでいる。その反対、左には通路が続いているようだ。

 パン!

 乾いた銃声が響いた。ここからそう遠くない場所からだ。

カイザーが通路につながる左側の壁に背中をくっつけて、ぼくに手のひらを見せる合図を送った。ここで待てと言っている。そして、

ドゥーン。

低く響く音とともに彼は消えた。

このマンションの中を進めばその通りに出られるかもしれない。そう思ったのは僕も同じだった。しかし、僕を置いていくなんて聞いてない。

バン!

二度目の銃声が聞こえた。僕は慌てて壁に背中を寄せて身を潜めた。音が一度目よりも大きい。明らかに近づいている。何が起きているというのか。

バリン!

ガラスの割れるもの凄く大きな音がした。それからバッと目の前にカイザーが現れた。割れた透明装甲が床に飛散し、彼は崩れ落ちた。

「どうした!」

僕が寄ると、彼は落ち着けと言って僕を遠ざけようとした。なんとか彼の腕を掴んで立ち上がらせると、外の様子を聞いた。

「暴力団同士の抗争だろう。こんな時に何してるのか。私の勘は間違っていたようだ。ここにスカイライナーはいない」

「隣の通り?」

「いや、隣のビルだ」

僕はカイザーから短剣を渡された。

「今さらだが、護身用に持っておけ」

「見つからないようにおさまるまで待機してない?」

「いや、移動する。やつらの数は多く、どこに隠れているかわからない。この建物にもいるかもしれないから抜け出さないと」

すると、カイザーはピキピキという音ともに再び透明装甲に身を包んだ。

「大丈夫、安全な道は把握している」

 僕たちはロビーを出て、カイザーの見てきた安全であろう通路を通るため、右折し、左折した。彼の話では、その後通路をまっすぐ進んだ突き当りにある扉が裏口になっており、そこから外に出られる。しかし、その通りにはいかなそうだった。

その通路途中にある部屋のドアが開き、黒い背広を着た男が現れた。僕たちはその手前にある柱に隠れた。

 男の革靴、コツコツという足音が近づいてきた。背筋が凍る。カイザーが腕の端末を操作する。僕はその手を止めさせた。やめてという風に首を振る。男の足音が止まったのだ。

声が聞こえた。

「厳戒態勢でと言ったはずだ」

「いや見くびられたのではない。やつのせいだ」

 足音が部屋に戻っていった。緊張が緩む。

「もう一度見てくる」

 ドゥーンという音で彼は姿を消した。

 すると、後ろの方から足音が聞こえた。

タッタッタッタ。

速い。

こちらに向かってきていた。隠れる場所は・・・柱の反対側に隠れたところで、部屋から先の男が出てきたら終わりだ。身を隠す場所を見つける暇などなく、僕は後ろを振り返った。

角を曲がって足音の主が通路に現れた。坊主頭の男だった。怯えた表情をした青年。それが、僕を見つけて余計に深刻になった。はち合わせしてしまった。

「お前は?」

男にそう言われた、次の瞬間。

青年の前方、僕の背後から黒い小さなものが飛んできて彼の首に刺さった。彼はバランスを崩して僕の目の前に倒れた。

「ああああああ」

一瞬の出来事に頭がついていけなかった。男は無我夢中で首から黒いものを抜いた。すると、首から血が勢いよく噴き出てきた。一瞬で通路は真っ赤に染まった。

「うう・・・」

彼はゴロンと体を回転させて仰向けになると、両手で首を抑えながらこちらを見た。飛んできたのは鋭い刃が四方向に突き出たもの。手裏剣だった。

「お前は誰だ?」

僕はそれの飛んできた方向を振り返ったが、そこには誰もいなかった。

「お前は、俺の敵か?」

坊主頭は僕にそう聞いたが、何もできなかった。彼を助けるということより、自分の身に危険が及ぶという恐怖が勝った。ボタボタと流れ出る血液の量は変わらず、青年はあっという間に衰弱していった。やがて、動かなくなった。待っても、カイザーは戻ってこない。気づけばそこは血の海になっていた。

僕は落ちた手裏剣を拾った。血が付いた鋭利な刃。僕は顔に近づけてよく確認した。

すると次の瞬間。それはパッと僕の手の上から消えた。物凄い速さで廊下奥の部屋の方へ飛んだ。その方面を見ると、黒い姿をした者が立っていた。手裏剣はその手の中に吸い込まれるようにおさまった。その姿はニンジャだった。

紺色の装束を着た格好で、口と鼻は同色のマスクの下に隠れている。小柄だが、堂々とした様子だ。露出した目は鋭く、見下すようにこちらを見ている。間の通路の壁は、血が飛び散った跡が残っている。

「待ってくれ!」

僕は叫んだ。

「人違いだ!やめてくれ!」

だが、彼には無意味だった。命乞いなど通用しない、そんな声が聞こえるようだ。ニンジャが腕をブンと振った。手から手裏剣が放たれ、カーブを描いて僕の顔面に向かってきた。

ダン!

手裏剣は顔をギリギリですり抜け、壁に突き刺さった。間一髪のところで避けたのだ。すると、手裏剣は壁から抜け、再びニンジャの手の中へと吸い込まれるように戻っていった。殺られる!

一度はかわすことができても、それが続けられるとは思わない。

僕は彼とは逆方向に走りだした。右折して左折。来た道を全力で戻った。ロビーまで戻ってきた。後ろを振り返る。彼は追ってきてなかった。正面扉から外へ出ようか迷い、近くにあった階段を駆け上がることにした。

全力で走った。怖かった。恐怖が僕を走らせた。全力で走って止まらなかった。

息が切れる寸前で、屋上に到着した。外へ出ると、ガラスの割れる大きな音がした。今まで聞いた中で一番大きな音だった。

カイザーが倒れていた。僕は駆け寄った。ガラス片があたりに飛び散っている。

「大丈夫?」

「酷使しすぎた。それだけだ」

彼は平気だというように僕をなだめてから、ゆっくりと立ち上がった。

「どこ行っていた。僕は、ニンジャに襲われていたっていうのに」

「ニンジャ?」

カイザーから視線をそらしたところで背筋が凍った。

数メートル先で、ニンジャが仁王立ちしていた。

ニンジャはゆっくりと近づいてきた。僕は短剣を構えた。カイザーは透明装甲を再構築せず、手を両手にあげた。武器はもっていないことを伝えようとしている。

「彼は危険だ」

僕はカイザーに耳打ちした。しかし、彼は大丈夫だというように首を振った。

ニンジャは手前にいたカイザーに接近した。そして、彼の腕を掴み、袖を捲った。それを見て僕は驚いた。腕が金属だったからだ。義手だったのか。シルバーの棒が組み合わさっている。ニンジャが腕を下ろさせると、それに合わせて機構がスムーズに動いて人の手の動きを再現した。

「どうした?」

そう言うカイザーの言葉を無視し、ニンジャは彼の顔に触れた。だが、ここで奇妙なことが起こった。ニンジャの指先、正確にはグローブをした人差し指が、カイザーの顔にめり込んだのだ。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。そして、次第に背筋に冷たいものがジワッと広がった。カイザーの顔がフラッシュした。そして、消えて、現れた。無表情だった。

ニンジャは即座に背中から刀を取り出すと、素早く二、三度振った。カイザーが倒れた。顔が、まるでテレビを消したようにビビッと消えた。刀の刃は橙色に光っていた。彼が柄の部分を強く握ると、その色は消えて見た目は一般の日本刀になった。

彼は刀を鞘にしまった。と、バン!という音を立てて、倒れたカイザーの胸のあたりから火花が散った。

次いで、ニンジャは僕の左腕を掴んだ。想像以上の力で抵抗ができない。そして、パーカーの袖を捲った。またしても驚いた。

僕の左腕、前腕に印があった。それも大きく。直線で切られた円、それから四方向に十字に出た直線。そして、それらを取り囲むような円。これはいつからあった?最初から?だとすると、森で目覚めた時から?勘違いかもしれないが、どこか見覚えがある気がする。

この印を確認すると、ニンジャは僕の手を離して、手から短剣を取り上げた。そして驚くべきことに、僕を殺すことはなかった。

「いつからこいつと一緒にいた?」

ニンジャの声だった。想像していたよりも低い。中身は若い男だと勝手に思っていたが、声から想像するに年齢は二回り以上も上だ。

「いつからだ?」

彼が声を荒げた。殺される、そう思った。殺されることは避けられたのだろうが。本気で怒っている。しかし、状況を把握できない。頭がパンクしそうだ。

「丸一日ほど?」

「何を聞いた?何をされた?」

一気に質問をぶつけられても困る。余計にわけがわからなくなりそうだ。僕は手のひらでを向けて彼をいったん静止させた。

彼?からは様々なことを聞いた。何も知らず、目が覚めたら戦争に巻き込まれた。その後に助けてくれた者を疑うはずがない。だが、特に何もされていないとは思う。ニンジャは手にした短剣を眺めた。

「体はマシン、顔はホログラム。奴から聞いたことは全て忘れろ」

嘘だろ。

衝撃だった。カイザーとはずっと一緒にいた。頼りにしていた。信じ切っていた。目覚めてから一番長い時間ともに行動していた。その彼は、偽物だった。僕の頭は爆発しそうだった。誰を信じればいいというのか。

「味方ではないの?アンクス?」

ニンジャは、GPSだ、と呟くと短剣をその場に捨てた。GPSで監視されていたのか?彼は続けた。

「スパークスの最新のバージョンのものだ。奴はスカイライナーではない。お前は騙されていたんだ。まあいい。良かったのは、お前がまだ何も知らなかったことだ。何も聞かれず、そして殺されることもなかった」

ニンジャは歩き出した。

「もう一つ良かったことがある。お前はスカイライナーだということだ」

僕は困惑して黙った。しかし彼は気にすることはなかった。

「ちょっと待ってくれよ」

ニンジャはそそくさと自分の武器をしまった。そのテキパキした行動にイライラした。僕を置いていかないでくれよ。

すると、空が青くピカッと光った。そして、近くでドスッという鈍い音がした。

アレンだった。服が破け、体中が傷だらけだ。トレードマークだったカウボーイハットはなかった。戦いの激しさを物語っていた。彼は、疲れた表情を見せていたが、こちらを見ると事情を察して謝った。

「すまんな。俺も騙されていたよ。会って間もないやつと行動させたのは間違いだった」

そして、軽くニンジャに挨拶した。どうやら、彼らは知り合いらしい。

「お前はまた暴力団の抗争とやらに首をつっこんでいたのか。おせっかいな成敗はよせって」

「いいじゃないか。スカイライナーを見つけた」

「彼は・・・そうだな。俺のミスを帳消しにしてくれたってことかな」

アレンは見た目以上に元気なようだった。ニンジャはアレンに対しても鋭い目を向けている。こういう人なのだと思うことにした。彼とは正反対な柔らかい表情で、アレンが言った。

「メランはすぐそこまで来ている。場所を知っているに違いない。俺たちの方が早く辿り着く必要がある。でも、もう一つ問題が」

「スパークスか?」

「そう。やつらも多く見かけたが、恐らく場所を知らない。だから、俺たちに潜り込んで情報を盗み聞きしようとしたんだ」

そう言うと、アレンは倒れて停止したカイザー、ウルティムスを見た。

「これは彼らの最新兵器。遠隔操作で扱うものだ。非常に良くできていた。この先も警戒せねば」

そこで、僕が割り込んだ。

「ちょっと待ってくれよ。なぜ話を次々と進める。僕にも説明してくれ。もう、わけがわからない」

発狂しそうだった。次から次へと事件が起こる。知らない世界に急に放り出されたみたいだ。考えても仕方ないことだが、自分が記憶喪失であることにも腹が立ってきた。

「ええと、まず、この・・・カイザーが敵だったというのは・・・彼の目的はなんだったんだ?」

アレンが答えた。

「世界の終焉を目撃すること。こいつの所属するグループはメランに狂ったやつらだからな。悪魔崇拝と同じだ。メランの邪魔をする者を排除したがる」

「リセットすることでこの世界を一からやり直そうと考えるやつら」

付け加えたニンジャがフッと笑った。僕は質問を重ねた。

「世界の終焉とはなんだ。何が起きる?」

「この世の崩壊。無になる」

「じゃあ、それを防ぐにはどうすればいい。スカイライナー?が止めるのか?」

「そういうこと」

ニンジャが答えた。

何から整理していけばいい。限界だった。俺は普通の人間だ。

「もうやめてくれ!一人にさせろ!」

僕は叫んだ。アレンが何か言ったが、耳を塞いだ。聞きたくない。もう誰にも騙されたり、死ぬような目には合わされたくなどない。

一人、室内に向かった。アレンに腕を掴まれたが振りほどいた。面倒な目に合わせないでほしい。

建物の中へ入り、階段を降りると、さらに下へと続く次の階段で腰を下ろした。

この俺に何をさせたいのか。今、この世界はどうなっているのか。インターネットが欲しいと思った。検索すれば、すぐに教えてくれる。

カイザーはロボットだった。そいつは僕についていき世界の果てを探そうとした。スカイライナーも。どんな戦いも、敵の正体がわからないことが一番危険だろう。まずカイザーの所属するグループについて知るべきだろう。また、スカイライナーと世界の果てについても知るべきだろう。そうでなければ、この世界で隠れて生きていくしかない。

下の階から音がした。ビクッとする。今度は何だ。先の暴力団の抗争か。ひとまず、立ち上がろう。そう思った時、肩に誰かの手が置かれた。

「あっ」

ニンジャだった。マスクに人差し指を当てて静かにするように言った。そして、僕の背中に隠れた。何をしているのかわからなかった。彼は、腰から刃物を取り出した。

前に振り向くと、拳銃が突きつけられていた。目の前にいたのは、紫のスーツの身を包み、黒髪をオールバックで固め、口まわりには皺を深く刻んだ大男だった。これほどの大男がどうやって音を立てずに目の前に移動したのか。しかしそんな心配をする前にその男は倒れた。僕の後ろに隠れたニンジャが瞬殺したのだった。男の額にはクナイが刺さっているのが見えた。

「ありがとう」

感謝を伝えると、彼はうんざりしたような乱暴な声で言った。

「もう一人で行動しないでくれ。こっちが不安だ」

二人で、アレンのいる屋上へと戻った。彼は少し笑うと、明るい調子で言った。

「この世界は危険だ。しばらくお前は同じ行動をとらないと」

落ち着けということか。僕は、その言葉は無視して質問をぶつけた。

「カイザーのいたグループの目的は何で、スカイライナーとはどういう関係があるのか、はっきり教えて」

ニンジャが答えた。

「先に話したこと以外は私にもわからない。スパークスはメランを絶対的な神だとして、同じように世界を終わらせることが目的だ。もちろん、スカイライナーとは正反対。私たちは夜明けを望む者だから」

僕は続けた。

「スカイライナーはどういう者で、何をすればいい」

これにはアレンが真面目な顔で言った。

「世界の果てにメランよりも先に向かうんだ。そして、メランを迎え撃つ。そして、夜明けを迎える。それが、俺たちであり、俺たちの使命だ」

そこまで聞いて、カイザーの言っていたことは嘘ばかりではないと思った。なんとなくわかってきた。少し希望が見えた気がした。

「僕たちはヴァメイトで集まり、メランとスパークスと対峙するわけか」

すると、アレンが眉をひそめた。違ったか。ニンジャが聞く。

「ヴァメイト?それは、ウルティムスから聞いたのか?」

「ああ。そうだけど」

カイザーはやはり何か僕に吹き込もうとしていたのだろうか。だとしたら何をしようとして・・・

ニンジャとアレンが、カイザーの身体中をくまなく探し始めた。

「そういうことか。ただの読み違いだ」

そう言うと、アレンはカイザーの腰から、棒状の物を取り出した。朽ちかけた短剣だった。武器にしては古すぎる。どこで拾ったのか。

「スパークスのメンバーには学者も多数含まれると聞いた。論理的思考が好きな者ほど、世界の終わりとやらを素直に受け止めるからな。メランの現実離れした力に陶酔してしまったんだろう。神は絶対。神の行動は世界を導くってな」

そして、アレンは短剣の刃の部分を指で示して見せてきた。わずかに文字が読み取れる。

「どこで拾ったのかわからないけれど。考古学専攻者がこれを分析して、読み取ったんだろうが。VAMATOではない。始めのアルファベットは・・・Y?」

「それならYAMATO、ヤマトだ」

「どこにある?」

「大和国。ここから南西に三百キロほど行ったところだ。世界の果て」

そこまでわかったところで、最後に疑問が残った。

「それじゃあ、メランというのは・・・」

アレンがニヤッと笑って言った。でも、目は笑っていなかった。

「この今の状態をつくった、かつての世界を終わらせた張本人。俺たちの最大の敵だよ」

そこで、どこからかガサガサという音が聞こえた。どこか遠いところから聞こえてくる。大勢の生き物の気配を感じた。僕だけじゃなかった。ニンジャもアレンも察知していた。

僕たちは、屋上から眼下に広がる世界を見下ろした。この建物は他のビルよりも高く、周りがよく見渡せた。

北東の方向。ここから見える景色はビルが立ち並ぶ、荒廃したロストシティ。その先、肉眼で確認できるギリギリのところに黒い点が集まって、蠢いていた。そしてそれは、こちらに向かって少しずつ動いていた。背筋が凍った。何だ。あれが生き物だとしたら、相当な数だ。そして、気づいてしまった。

アンクスだ。間違いない。それも、何百、何千という数だった。

「ものすごい数だ」

「ああ。かなりの数を減らしたつもりだったけど、こりゃ多すぎる」

「これが世界中から、大和に向かっているの?やばいよ。僕たちに勝ち目はあるのか」

緊張感が高まった。やばい。来る。世界の終わるが来る。

アレンが言った。

「世界は終わった。みんなそう思っている。でも、まだだ。まだ、終わってない」

いつの間にか、太陽が沈もうとしていた。いつも一日が終わるのは早い。早すぎるよ。

「あと四回。四日後、太陽が沈む時まで俺らの戦いは終わらない。だが大丈夫。落ち着いてゆったりと構えろ。夜は明ける」



「五月二日 木曜日

 今日は学校から帰宅後、速攻で帰宅。面倒でも授業をさぼることはない。姉は彼氏の家かわからないけどいなかった。ネットで時間をつぶした後、ドリームスで映画「スピーダー」を見た。時間を操る能力を得た男の悲しい物語だった。そこで、「ジャネーの法則」を知った。歳を重ねるにつれて人生の体感時間は減っていくというもの。たしかに、小さい頃と比べて、時間の経ち方が早くなった気がする」




11.スカイライナー



 スカイライナーはこの世界に七人。


 これは、アレンから聞いた。皆、左腕に印があるそうだ。そして、大和にあるステムを四日間守り抜く。それこそが、僕たちの使命。あと四日で世界の命運が決まる。それは、スカイライナーの一人、デックの伝えらしい。思い返せば、僕が森で目を覚ましたあの時から三日経っており、世界の終焉はあれから七日だということになる。


 神は七日で世界を創ったという。滅ぼすのも、七日なのだろうか。世界が終わったら、神はどうするのか。世界が終わった時、僕はどうなるのか。


 僕たちはまず、西へ向かわなければならなかった。一刻も早く大和に行き、やつらを迎え撃つ準備をせねばならない。アレンが倒れたカイザーを顎で指した。


「そいつも持ってくぞ。分析にかければ、何か情報を引き出せるかも」


 三人は固まった。アレンのリストガードが青く光る。やがて、僕の身体もその光に包まれた。そして、体が宙に浮いた。他の二人も浮いている。青い光とともに三人は空へ。そして、西へと勢いよく飛んだ。


 その直後、背中に強い衝撃を受けた。


 一瞬、時が止まった。


 ビル群が上の世界一面に広がる。そして眼下には、オレンジ色に染まった空が広がった。コントロールを失った体は、逆さまになっていた。激痛が体中に走った。


「ああああああ」


 何もできない。ただ宙をもがいた。やがて、空と街が交互に下に現れた。そして重力に引かれて、僕は落下した。僕は目をつぶった。体が硬いものにぶつかる衝撃を感じ、動けなくなった。


 長い間、僕はさまよっていた。無音で何もない世界。何も考えず、フワフワと浮かんでいた。やがて遠くに光が見えた。ゆっくりと近づいてくる。それは自分のためにやってくる、そんな気がした。しかし同時に、うるさくてガヤガヤしたものもやってきた。それは近づかなくていい。そう願っても、それは止まらなかった。距離が小さくなってくる。それにつれてだんだんとうるさくなってきた。続いて、フワフワと宙に浮いていた自分に重みを感じ始めた。中心の重みが体の端まで伝播していく。その重みは、ある時を境に、痛みに変わった。痛みがだんだんと大きくなる。やめてくれ。痛い。


「痛い」


 僕は目を覚ました。打ち身だか切り傷だかわからない強烈な痛みで神経がやられそうだ。目を開けた。暗かった。目を開けているはずなのに、光を遮られている感じがする。夜はこんなに暗かっただろうか。仰向けになっていることしかわからない。体を起こそうとする。すると、足と手に激痛が走った。


「うう・・・」


 僕はアレンに続いて飛んでいるところを墜落したのだ。何をされたというのか。首だけを曲げて体を確認した。しかし、暗くて何も見えなかった。僕は諦めて楽な体勢にした。


 次第に目が暗闇に慣れてきた。遠くに隙間があり、そこからわずかに明かりが漏れている。月の光だ。自分が建物の中にいることがわかった。窓は割れ、その隙間からの月明かりが室内を照らしている。周りには、ガラスや木片が散っている。そして、流れている赤い液体を見て初めて、自分が出血していることに気づいた。思えば、目覚めた時から生ぬるい液体が足を伝った感覚があった。


 そして、大きくて重い木製の何かが自分の身体の上に倒れているせいで動けないことに気づいた。顔を横に傾ける。床には本が数冊落ちていた。そのことから本棚だと推測する。本棚が上を向いた状態でのしかかってきているのだ。ずっしりと中身が詰まっているのか、びくともしない。僕は、全身の力を込めて棚を持ち上げようと力を込めた。しかし、左腕が悲鳴を上げた。痛い。


「ダメだ!」


 腕がミシミシいった。骨を折ってしまっているかもしれない。これ以上左腕に負担をかけたくなかった。


 その時、外が一瞬明るくなった。青い閃光。続いて、何かが崩れる音がした。そしてまた閃光。アレンだ。彼が戦っているのだ。


 生きなければ。


 そう感じた。一刻も早くここから抜け出さなければならない。もう一度、左腕を使わずに持ち上げようとする。やはり動かない。そこで、ふと中身を抜いて軽くしてみれば何とかなるのでは、という発想が浮かんだ。右側だけ持ち上げて棚を傾け、本を落として軽くしてから持ち上げる方法だ。早速試してみる。右腕と右足を使い、全力で持ち上げた。しかし、本が動く感じが全くしない。一度力を緩めてからもう一度。しかし思うようにいかなかった。


 諦めて、力をサッと抜いたその時、右側に傾いた棚から本が数冊ボロボロと落ちた。これだ。力を入れて高く持ち上げては抜き、入れては抜く。そうして、何度か試すうちに、本は何冊も床に落ちて転がっていき、次第に棚は軽くなってきた。これでいいと思ったところで、体をかがめながら這うようにして棚の下から抜けようとする。すんなりといき、体は完全に自由となった。


 立ち上がろうとして、先まで感じていなかった部分、足首や背中が痛み始めた。全身の怪我を把握しきれない。まず、止血しよう。出血は左腕からだった。近くにちょうど良い長さの木片と布を見つけると、まず出血している部分を右手と口できつく結んだ。それから、左の上腕と木を布で結び付けて固定した。


 ここは高層マンションらしく、倒れていたのはこの建物の四階だった。今は住人はいないようだ。足を引きずりながら部屋を後にすると階段が現れた。体をかばいながら慎重に降りる。


 ドドン!


 また外から音が聞こえた。低くうなる地響き。敵はスパークスか。それともアンクスか。


 一階に着いて外に出ると、数メートル先に何者かの倒れた影を見つけた。できる限り姿勢を低くしてそこへ向かう。見ると、それはウルティムスだった。首から上の無いマシン。こいつも落ちたということは、ニンジャもいるはずだ。


「何してる」


 声が聞こえて振り返ると、マンションの脇に止まっている車の陰にニンジャがいた。ここは道路の真ん中。敵が近くにいるのなら目立ちすぎる。僕は、ニンジャの元、もしくは建物の陰までウルティムスを運ぼうとした。しかし無理だった。重い。傷だらけの自分には負担がかかりすぎる。ニンジャがこちらに向かってきた。


「どこ行ってたんだ」


 それから、左腕に気づいた。


「どうした、その腕は。お前は先に行ってろ。これは私が運ぶ」


 その時、僕の頭上ギリギリを何かがかすめた。そして直後、高層マンション向かいのショップの正面ウィンドーの大きなガラス窓が大きな音を立てて割れた。そして間もなく、店全体が大きな炎を上げて爆発した。


 僕は逆方向、何かの飛んできた方向を見て驚愕した。

 見覚えのある黒くて背の高い影。その周りに渦巻く漆黒の霧。黒い頭巾。そしてあの不気味な白い包帯面。すぐにあの時の記憶がよみがえった。小さな森の集落。小さな家の中で目が覚めた時に現れたやつと同じ化け物だ。あの時と違う点は、大きな黒い鎌を持っているところだ。


 僕は自分のできる限りの速さで近くの物陰に隠れた。マンション脇の物置だ。ここからあの包帯面との距離は五百メートルあるかどうか。すぐにここを離れてやつを巻かなければあっという間に捕まってしまうだろう。あの化け物はここまで追ってきていたのか。だとすれば目的は僕たちだ。僕たちをどうしようというのか。やつは何者だ。


「メランだ」


ニンジャがウルティムスを引きずって戻ってきていた。


「やつがメラン。この世界の破壊者」


 頭が真っ白になった。皆が恐れる存在がすぐそこにいる。それだけではない。僕は前に一度、顔をあわせているのだ。あれが、メランだったのか。


「やつが、か」


 そう呟いた時、僕たちの上空が青白く光ったかと思うと、アレンが現れた。全身が青い光に包まれていた。


「一度会っている・・・目を合わせないようにしないと」


 僕がそう言うと、ニンジャが眉をひそめた。


「そんなはずはない」


 アレンが、空から青い光を包帯面に向けていくつも放った。光は大きな爆発となった。


 ドドン!


 やつの姿は見えなくなった。爆風を感じて、僕は身をかがめた。間違いない。やつとは一度会っている。


「数日前に僕はメランと顔を合わせた。間違いない」

「ありえない。やつの姿を見て生き延びた者はいない。アレンくらいだ」

「僕もだ」

「もういい。そんな言い争いをしている場合ではない」


 メランの方を見ると、大きな煙が上がっていた。そのせいで姿が見えない。でもあれで死ぬとは思えない。きっとやつは生きてる。


 間違いない。たしかに死にかけたよ。意識が遠のいていくのを感じた。でも僕は生き延びた。耐えたんだ。


 煙が薄くなり、やつの姿を探した。しかし、そこには姿がなかった。


「やつはいない。どこだ」


 ニンジャが周囲を確認する。いない。と、その時。


 ドドン!


 レンガが砕ける音とともに、身を隠していた物置が破壊された。衝撃で、僕は後方へ飛ばされた。


「うう・・・」


 傷ついた体にさらに追い打ちをかけるようにして激痛が走った。左腕をかばう様に倒れた。出したことのないうめき声が出た。なんとか目を開けると、わずか数メートル先にやつの姿が見えた。漆黒の身体は前と変わらず傷一つなく、長くて細いが丈夫な足でずしりずしりと着実にこちらに向かっている。


 上から光が降ってきた。僕たちが近くにいるのを考慮した、アレンらしい攻撃だった。もちろんやつには効果はない。アレンの攻撃が直撃してメランは少し体をふらつかせると、煩わしそうに頭上に向けて大鎌を振った。すると、刃から黒い霧のようなものが物凄い勢いで弧を描くように飛び出し、宙に浮いていたアレンに直撃した。彼は、力を失ったかのように落下して、姿が見えなくなった。


 続いてニンジャが応戦する。やつの胸に手裏剣が刺さった。そして、爆発した。しかし、やつを覆う煙が舞っただけだった。表情一つ変えずにこちらに向かってくる。続いて手裏剣よりも一回り大きい円盤状のものがメランの方へと飛んだ。小型のドローンだ。それはシャキンと円弧部分を刃にすると、やつの身体すれすれを滑空して二、三度やつの身体を傷つけた。そしてその後、メランの腹部を貫通した。しかし、残念なことにやつは全く動じなかった。少し鬱陶しく感じたのか、やつは大鎌を振り回して円盤を叩き落そうとした。すると円盤は、しばらくその場を旋回した後、ニンジャの方へと戻っていった。


 僕はその間に近くに倒れていたウルティムスのところまで這って行った。そして、ボディに何か使える武器が付いてないか探した。攻撃はできなくても、自分の身は自分で守れるようにしないと。銃でも弓でもいい。できるだけ強力なもの・・・そこで僕は見つけた。あるじゃないか、使い方はわからないが。


 メランの方を見ると、やつはニンジャと対峙していた。ニンジャは、背中から日本刀を取り出して、刃部を橙色に光らせた。そして、近づいたメランに向かって刃を振り下ろそうとした。刀はメランの持つ大鎌とクロスした。そして、互いの武器の動きが止まった。ニンジャの顔近くに止まって浮いている円盤の、モーター音だけが聞こえる。


 頼む。耐えてくれ。僕は大急ぎでウルティムスから無骨なパワードアーマーを外した。これを使うしかないかも。顔部分の般若面は欠けて半分になっていた。思い切って外してみる。バキッという音がして仮面は難なくボディ部から外れた。そして、自分の身体に装着した。軽く説明を聞いただけだ。操作方法なんて知らない。僕は、左腕に着けた端末を操作をいじってみた。しかし、何も起こらない。


 顔を上げた。二人の武器はまだ静止していた。ニンジャがやつの力に耐えているのか。違った。ニンジャの身体は動かなくなっていた。彼の目はメランの包帯面を正面から睨んでいた。まずい。急がなくては。僕は端末を叩いた。頼む。動いてくれ。


 二人の方を見ると、メランはこちらに向いていた。大鎌を握って下に向けた状態で僕に狙いを定めて歩き始めている。鎌の刃先は赤く濡れていた。後方には、ニンジャが倒れている。全く動かない。ピクリともしない。全身の力が抜けたように手足を放り、目は地獄を見たかのように見開いていた。


 終わった。


「うそだ・・・」


 メランを、後方から飛んできた円盤が襲った。が、メランはそれを察して、そちらを見ずに鎌をぶつけて円盤の刃を防いだ。衝突した円盤はコントロールを失って地面に落下した。やつは真っすぐに僕を見た。ニンジャも、やつの前では無力だった。


 そこで、体が重くなっていく感じがした。見ると、体中のパワードアーマーの外骨格を通じて、全身がガラス状の物質に包まれていた。きた。顔は透明の膜のようなもので覆われた。僕は端末のサイドに付いているボタンを力強く押した。すると、周囲の音が遠ざかっていく感じがした。同時にメランが大鎌を横向きに振った。


 ドゥーーーン。


 聞き覚えのある低い機械音が響いた。


 僕は咄嗟にしゃがんで刃をかわし、同時に横回転して移動した。そしてメランを見た。ありえないことが起こっていた。


 世界が遅れていた。メランは未だに鎌を振っており、僕の足元には、普通では倒れてしまうはずの回転速度で円盤が縦に転がっていた。火花を散らし、ゆっくりと軌道を描いている。


 スローモーションの世界だった。腕の端末をみると、2/3と表示されている。横にあるボタン下には時計が付いていて、見ると秒針が一周する速度が明らかに遅くなっていた。


「そういうことか」


 パッと顔を上げると、メランが目の前まで迫ってきていた。慌てて体を反らして鎌の攻撃を防ぐと、やつの後ろに回って端末横のボタンを押した。再び、ドゥーンという音がして、さらに音が遠ざかった。表示は1/2。秒針はさらに遅い。一周するのに二秒かかっている。メランをみると、僕の姿を見失ったことに気づき、こちらに向き直ったところだった。


 僕は走ってニンジャに最後の別れを言いに来た。一度端末を操作してこのスローモーションモードを解除した。一瞬、体が締め付けられるような感じがして、息がしづらくなった。


「別れなんて早すぎる・・・絶対、やつを倒して見せるから」


 そして、彼の目を閉じてあげると、彼の傍に落ちた日本刀を拾った。握ると、刃が橙色に光って熱を帯び始めた。背後には、すぐ傍までやつが迫ったが、やつが大鎌を振り下ろした時には、僕はそこから姿を消していた。


 僕は三度ボタンを押していた。1/3。つまり、やつの三倍の速さで動けるということだ。見ると、メランの頭上に光が飛んできていた。アレンだ。彼もスローモーション。しかし、放った光ははるかに速い。光がメランに当たり、やつが倒れたところで、僕は走った。武器は手に入れたんだ。倒せるなら倒してやる。やつの元へ行くと、僕は手に持った刀でやつの胸を貫いた。やつは苦しそうにもがき、甲高い金属音のような叫び声を発した。思わず手を刀から離して耳を塞ぐ。その状態で、メランは僕を睨んだのがわかった。お前が死ねば全てが終わる。そう言われた気がした。僕は瞬時に目を反らし、その場を去った。


 離れてからスローを解除すると、急に全身が締め付けられたかのような力に襲われ、僕は足の力が抜けて倒れてしまった。左腕が余計に痛む。スローを解除すると、毎回こうなるようだ。気が付くと、形状記憶ガラスは粉々に散っていた。


「大丈夫か」


 アレンが僕の様子を見て言った。僕は呼吸を整えてから、問題ない、と答えた。全身傷だらけで、どこがどんな症状なのかわかりやしない。そこで、アレンがニンジャに気づいた。


「どうした!」


  走り出そうとするアレンを僕は掴んだ。


「やめて」

「どうしたんだ?」

「やめてくれよ。彼は・・・死んだんだ」

「ふざけんな!」


 アレンは叫んだ。わけのわからないことを叫んだ。胸に刀が刺さったまま倒れるメランに、彼は何度か光を放った。その度、地面が揺れた。次に、両腕を大きく広げると体中を今までにないくらいの眩しい光に包んだ。青白かった光が、次第に黄色くなった。そして、白くなった。周囲の温度が下がった気がした。聞いたことのない音が共鳴していた。耳が張り裂けそうだった。彼が今までに貯めてきた全エネルギーを感じた。そして、彼は全てをブルーサファイアからメランに向けて放出した。地面が揺らぎ、近くの建物は崩れようとしていた。


 アレンは気絶していた。顔が白く、首筋には血管が浮き出ていた。やがて空気が押され、放ったエネルギーが起こした衝撃波がこちらに返ってくるところだった。僕はアレンの倒れた身体を支えると、端末横のボタンを何度も、数えきれないくらい連打した。表示は1/60。そして、呟いた。


「逃げよう」


 ミシミシとした音がして、端末が悲鳴を上げた。僕はアレンを抱えて走った。

 

 

「五月十二日 日曜日

 夜のバイトまでの時間、何もせず布団でゴロゴロして過ごしてしまった。でも、同じ一日をもう一度過ごせるとしても何もしないかも。何もしたくない。ただ、無駄に時間を過ごしてしまうのが辛い。」



10.ウィル



 ピピピッという音で突然、勝手にスローが解除された。周囲の音が戻ると同時に、周りの空気からとてつもない圧力を一気に受けた。


「うっ」


 それはとてつもないもので、僕の身体は耐えられなかった。骨が砕け、胸部では圧迫されて破れた皮膚から血が飛び散った。僕はプツリと意識を失った。


 目を開けると僕は病室で寝ていた。いや、病室と言っても白い布団とベッドがあるだけだ。ビルの一室を救護室に変えて作ったような簡素なつくりだった。


 いつここに来たのか。メランと戦った僕たちは、ニンジャを失った。そこでメランを倒し、僕は瀕死状態になったアレンを連れてその場から逃げた。


 西に向かった。大和国がどこかわからなかったが、西の方へ行けば近づくだろうと思った。あの時にできるのはそれだけだった。メランから距離を置くこと。やつが生きていた場合にすぐに襲われるのを防ぐためだ。しかし、長時間しかも深いレベルにまでスローを設定して限界がきたのか、途中でガラス装甲は運転停止した。僕はそこで衝撃を受けて意識を失ったはずだ。


 今ここにいるのは誰かに拾われたからだ。こうしてベッドに寝かされているのは、僕を見つけたのがメランでもアンクスでもないから。僕をスカイライナーだと知る者?一体、誰だ。しかし、違和感の正体はそこではなかった。僕はもう一度、自分の体を確認した。


 僕はなぜ、無傷なのか。


 この答えはすぐにやってきた。


「起きたか、ウィル」


 部屋に入ってきたのは老人だった。


「いらっしゃい。ここは、我らの一時的なアジトだ」


 銀縁の眼鏡をかけ、頭髪は白くて薄く、顎には白い髭が伸びている。それは綺麗に整えられていて清潔感があった。服装もピシッとして皺のないワイシャツと黒ズボンを身に着けており、初対面の印象はよかった。この人は医者?直感だった。


「医者?」

「ああ。違うが・・・医者だ」


その表情は穏やかで、不安は取り除かれた。この人は信頼して良さそうだ。


「僕の身体は・・・」

「完治しているよ、大丈夫だ。そこは安心してくれ」


 僕は起き上がった。たしかに、全く痛いところはなかった。不思議だ。複雑骨折も大量出血も、全部帳消しに?


「あなたが?」

「ああ、そうだ。それが、私の担当なのでね」

「それじゃあ、もう一人治してほしい人がいるんだけど・・・」

「ニンジャはな、残念ながら無理だぜ」


 部屋の外からだった。聞き覚えのある声。そう言って部屋に入ってきたのは、完治したアレンだった。


「アレン!」

「寂しかったか?」


 相変わらず明るい声で話しかけてくる。ついこの前まで瀕死状態だったにも関わらず、全く変わってない彼を見ると、どこか嬉しかった。


「ありがとな、助かったよウィル。君のおかげだ」


 僕は立ち上がると、彼とハグを交わした。それから医者だという男の方を見ると、彼は申し訳なさそうにした。


「ニンジャは・・・すまない。死んだ者を生き返らせることはできないんだ」


 僕は頷いた。そんなことできるわけがない。あくまで、医者なんだ。それから、その男の名前を聞いていなかったことを思い出して聞いた。


「まだ名乗ってなかったな。私の名前はデック・ケイン」


 すると、アレンが横から口を挟んだ。


「皆からは普段、ドクターと呼ばれてるけど」

「そうだ。どちらでも自由に呼んでくれ」


 それから、デックはベッド端に腰掛けた。


「本当に、君には感謝している。君がスパークスの装備を使うという選択、アレンを連れて帰るという選択をしたことで二人は助けられた」

「どういうこと?」

「あの装備、スピーダーはスパークスが何十年も前に発明したもの。副作用が大きすぎて危険なため、あまり使われてこなかった。しかし、彼らが自立走行するマシンを開発したことで、その副作用がマイナスではなくなった。生身の人間に危害が及ばないからだ。彼らはマシンに搭載した。しかし、スピーダーは昔のまま。人間が使うには危険すぎる」

「つまり?」

「君は特別なスカイライナーだ。君でなければ、とっくに死んでいるよ」


 デックはそう言うと、一度ため息をついて、それから続けた。


「それと行動力だ。アレンは体中のエネルギーを衝撃波に変換していた。そこで使い果たしてしまったんだ。すると、彼の体内のブルーサファイアはエネルギーを欲した。やがて彼の石は、体温をはじめとした生命エネルギーを吸い始め、彼は瀕死状態になった。そこで、君が彼を連れてここへ。機能を解除した時のスピーダーの副作用を、偶然近くのアレン体内の石が吸収した。お互い、丸く収まったのだ」

「奇跡だ」

「いいや、ただの奇跡ではない。君は、生きたい、と強く思ったのだ」


 僕は下を向いた。死にたくない、とは思った。だが、そんな哲学的なことを言っているのだろうか。


「それが君の強味だ」


 そして、デックは立ち上がった。


「さて残るはあと三日。これから早急に残り三人のスカイライナー集めだ」


 アレンは気づけばこの部屋から出ていた。三人? 僕とアレン・・・ニンジャは亡くなったが。それしか知らない。まだまだ時間がかかりそうではないか。それにしても、デックはこの世界についてよく知ってそうだ。僕は改めて質問した。


「スカイライナーとは、何者のことを言うの?」

「メランを倒すことを目的とした者たちのことだ。私であり、もちろん君もだ」


 具体的な定義はないのだろうか。それから、集めるという言葉から浮かんだ疑問を僕はぶつけた。


「そういえば、どうしてデックは僕とアレンが来たことに気づいた?」

「それが、私の強味だ」


 そう言うと、彼は左腕のワイシャツ袖を捲り上げた。そこには、見たことのある印があった。僕は慌てて、自分の左腕を捲った。そして確認する。僕にも同じ印がある。ニンジャに見せられたものだ。それから、遠い昔の記憶が蘇った。森。部族。この印。見覚えはたしかにあった。仲間として迎え入れてくれた者。


 ジナミ。


 彼の胸には僕らと同じ印があった。腕にもあるのではないか。もしかしたら違うかもしれない。ただ、誰かの腕を見て、同じものを胸に描いただけかも。確認しに行くしかない。直感でしかないが。


「自分、一人知っている」


 僕は呟いた。それに、部屋から出て行こうとするデックが反応した。言ってしまってから、間違えたかもしれないと思った。数日前に一度会っただけの男、どこにいるか、生きているかさえわからないというのに。ニンジャのように死んでしまった可能性は十分に考えられる。でも・・・


「男か女か、どっちだ?」


 デックにそう聞かれて、男、と答えると、ここから真北にいる、と言われた。彼にはわかるのか。本当に、生きているのか。


「気をつけなさい、自分を信じて。アレンが何度か探しに行ったが失敗に終わっている」


 思い返せば、アレンとカイザーと出会った時、彼はスカイライナーを探して遠くへ飛んだ。ジナミを探していたのか。彼が見つけられずに、僕が見つけられるとは到底思えない。 


 しかし、探すしかない、というのはわかった。手掛かりは少ない。方角のみ。だが、仲間が待っているのならば、行くべきなのだろう。自分を救ってくれたニンジャが亡くなった。自分も、誰かの役に立たないといけない。重要で難しいのは、三日で帰るということ。それまでに彼の元へたどり着かなければならない。それで考えた時、案が一つ浮かんだ。デックに聞いた。


「スピーダーはまだ使える?」

「おそらく」


 それから、デックは手のひらをこっちに向けると、耳を澄ませるように、目を細めた。


「水の音。川だ、川の近く。川の水が揺れる音・・・岩に跳ね返って散る音。彼は、川の上流に身を潜めている・・・」


 そして、彼は目を開けた。


「頼んだぞ」


 それを聞くと、スピーダーを受け取り、外へ出た。一階フロアに出ると、廊下を通じてこの建物の北口へ急いだ。やはりここも寂れている。かつては活気があったが、今は誰も出入りしない、そう言った感じだ。そして、ビルのようだがどこか見覚えがある。あの部屋は病院を簡易的に再現した作りになっていたが、この廊下こそ病院そのもの。そして、気づいた。廃病院だ。あの部屋は病室でない場所にベッドを置いていたのだ。


 外に出ると、日が暮れかかっていた。太陽が沈むまであと数センチ。入り口横にはこの建物と同程度の広大な駐車場があり、ポツンと一つ鉄の塊が置いてあった。大きさは、地面に描かれた白線から判断するに、車両三台分ほど。四角いようで丸みを帯びており、先端技術を使ったようでどこか物足りない。銀色のボディは傷だらけで、拾って集めた端材で組み立てたようだった。鉄の塊という以外表現方法が見当たらない。強いて言えば、車?車というには大きすぎるが・・・


「気になるか?」


 後ろから声をかけられ、振り返るとアレンがいた。


「これは?」

「俺たちが作ってる、言わば秘密兵器とでもいうやつかな」


 彼は困ったように笑った。そう言われてもう一度見るが、そんな大それた物には見えない。


「でも、あいつが死んでから開発が止まっちゃっててな。コードがわかればもう少しなんだが」


 あいつとはニンジャのことだろう。彼が技術力を持っていることはなんとなくわかるが、他にいないとは。


「その兵器で世界の終末は止められるかな」

「言い方によるな」


 アレンは難しい顔をした。それから、明るい顔に戻った。無理矢理に作っていることはすぐにわかった。


「お前は先に行って仲間を見つけてくれ。俺たちは後から向かう」

「了解」


 とりあえず、今は僕にできることをするしかない。

もう行くか、と思って歩き出そうとした時、アレンが思い出したように言った。


「これを持っていくといい」


 それは、彼が使っていたアームガードだった。一か所が弱々しく、青く光っている。ブルーサファイアが埋め込まれている。拒んだが、彼は僕の右腕に巻き付けて固定した。


「俺は片方だけで足りるから気にするな。お前なら使いこなせるだろう。エネルギーを吸収し、放出させることができる」


 強力な装備を貸してくれた。使いこなせるかはわからないが。


「ウィル、自分を強く持て」


 僕は彼に礼を言うと、僕は端末横のボタンを強く押した。

 


「五月二十日 月曜日

何もしてない。授業終わってすぐ帰宅。前に買って放置しちゃってた本を読もうとしたけど、15分で飽きてしまった。」







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