第19話 イザベラ女王の苦悩

 自分の息子と甥を比べるとため息がでる。嫌味ではなく本心で王位継承の規則がなければアーサーに王位を継いでもらいたと思う。私の血を濃く残すより、我が国の安泰である方が大切だ。一体誰が決めた規則だと毎回思う。改定できれば良いのだがそれもそう簡単ではない。女王特権で法律はかなり自由に変更可能であるがそれは反感を買うのでやりたくはない。


 「アーサーは頭の回転が良すぎる上に空気をよく読むわね。グレースに似て優秀よね」


 私が誉めると、妹は窓を見て笑いを抑えるのに必死で肩をふるわせる。外を見ればその誉められいる息子が花壇のところで少年相手に悶えているのだ。

 彼女は私より優秀だ。幼いころは彼女が女王でいいと思っていたが規則があるためそれは叶わなかった。そもそも彼女は女王どころか摂政にもなりたくなく騎士に憧れていた。そこは同情する。


 「余り、いじめないであげなさいよ。可愛い一人息子でしょ」


 妹を窘めるが笑いが収まらないようである。アーサーを可愛いは可愛いと思っているのだろうがそれ以上にはからかい過ぎる。アーサーを哀れに思う。

 扉のノックの音が聞こえ、ドナルドが返事をすると扉が開いてリンが入っていた。


 「皆さん、お久しぶりです。可愛い息子さんですね」


 丁寧にお辞儀をして挨拶をするリンにクスクスを笑っていた。リンを見ると満々の笑みの妹が座れ手で合図する。リンが席に着くと身を乗り出して話はじめる。早く伝えてたくて仕方ないのだろう。


 「面白いだろう。更に面白い事にリンがドナルドの妻であり元奴隷だと自分で気づいたよ」


 自分の息子の自慢話に聞こえそうな内容だが、妹が言うと笑い話のようである。リンは妹の言葉に驚きながらドナルドの顔見ると、「事実だよ」とドナルドはつぶやく。ドナルドは先ほどの赤面を落ち着かせていた。


 「色々考えていたようで闇市までだしたんだ」


 妹の闇市と言う言葉にその場にいた全員が敏感になる。それだけ今神経を張っている問題なのだ。妹はそれを気にせずに話を続ける。この話の中心は闇市問題ではなく、ただの笑い話であるからだろう。


 「しかし、そこから話は闇市の話は発展させずにドナルドとリンの話になった。クック…」


 そこまで話したとこで我慢できなくなったのか妹は笑い始め言葉にならなくなる。ドナルドは何も言わずまた耳が赤くなる。全く意味を理解できないリンに私が丁寧に話す事にした。


「アーサーは闇市よりもリンが元奴隷でドナルドと結婚したのが気になったみたいね。ドナルドに、貴方が好きなのかと聞いていたわ。そして、そこの男はいい反応をしたのよ」


 リンは赤くなるドナルドを見て、真っ赤なっている。普段、凛と気を貼っている彼女であるが、恋愛話になると弱いらしい。特に最愛の夫であるドナルドが関わると茹蛸にようになり周囲が見えなくなってしまう。

 

 大笑いする妹と赤くなる元大統領夫婦。


 滑稽だわ。

 

 昔から思うのだけど王族とか大統領とか国を動かす人間は変わっていると思う。私も異端と言われるがこの人達みてると普通と感じることが多い。


 「そうだ、リン。うちのバカ息子がお宅の息子を気に入ってるみたいたけど問題あれば何してもいいからね。王族だとか気にしないでね」


 笑いが収まったようで、目にためた涙を手でふきながらリンに伝える。するとリンは妹の方を穏やかな表情になる。


 「大丈夫だと思いますが、伝えときます。あの子もあの容姿ですから剣術や武術も自衛以上ですよ」


 いくら大統領の身内になろうと黒髪と黒目はこの島では目立つ。だから何があっても良いように男女関係なく鍛錬を積んでいる。リンはドナルドよりも強い。その辺も妹と気が合うようである。よく2人で手合わせをしている。

 妹の言葉でリンは赤面から復活して2人で楽しく話し始めた。ドナルドはまだ赤面から立ち直れずテーブルに頭をつけている。


 面倒くさい


「中年男の赤面は可愛くないわ」


 ため息をつきながら、テーブルに伏せるドナルドの肩を叩く。「面倒くさくてごめん」と顔あげるドナルドは大統領をしていたのにの威厳の欠片もない。リンも気にしていないようである。


 「本題に入りましょうか。折角アーサーが気を利かせて退席してくれたのだから」


 「気をまわしすぎたよ。それに別に居ても構わない。私達の予想が当たれば彼も知る事になる。まぁ外れればドナルド殿が友人と楽しい会話をして終わるね」


 妹が珍しく暗い顔する。彼女のそんな顔はこの案件以外で見たことがない。この事は私こそ覚悟を決めなくてはならない。


 「それが一番いいわ」


 私は椅子に座り直すとテーブルに手掲げ、魔法陣を浮かび上がらせる。魔法陣は我が国の王族であるなら皆学ぶ。しかし、何もないところから魔法陣を発動させることができるのは今のところ私と妹くらいである。

 王族は魔法陣は石版に書かれた魔法陣を発動させることだ。石板は持ち運びに不便でありほとんど遣われていない。


 『やぁ、イザベラ聞こえるかい?』


 魔法陣の中から声がした。城内にある魔法陣とつなげたのである。


 「聞こえるわ。ノア」


 その声に違うことをしていた自由な人々が私のところに集まってくる。こうも雑な扱いをされると自分が女王であるの疑ってしまう。


 「久しいな。ノア・キャベンティシュ。あぁ今はアレクサンダーも後ろにつくだっけ」


 ドナルドはひさしぶりに友人の声を聞け嬉しそうに話す。ノア・キャベンティシュ・アレクサンダーはドナルドよりもかなり前に大統領をしていた者の息子でありこの国の元議員である。今、私の夫して王配業務をこなしている。王族に入ると名前の後ろに王家の名であるアレクサンダーがはいる。


 『ドナルド、公に馬鹿にすると大変ですよ。』


 アレクサンダー家の当主であり女王が目の前にいることに気付いていないのかと本当に思う。間抜けな会話にため息がでる。今日1日で何回ため息をついているかわからない。

 ノアは我が国にきてから祖国の人間にめったに会えなくなってしまった。少し、でも友人と話せればいいという思いもありドナルドの家を訪問した。


 「声が聞けて良かったよ。もう何年も公の場でしかあっていないからね。」


 公の場では王配と大統領の関係でしか会話できない。しかし、ここ数年ドナルドは大統領から遠ざかっているためノアにあっていないのだ。


 『今度、式典で会える日を楽しみにしているよ』


 お互い顔が見えないがとても楽しいそうである。本当は年に数回くらいはあわせてやりたいと思うがそれは私がお忍びで異国の地を踏むより遥かに難しい。もう少し話させてあげたいが、残念ながら本題にはいらなくてはならない。それを察したようで妹が口を開く。


 「動きはありましたか?」


 王配に丁寧に聞く妹。


 「グレース摂取。予想通りですね」


 事情を知らないドナルドとリン以外が息を呑み顔が強張った。さっきの雰囲気が一変し緊張が高まる。二人もその空気を察して身体強張っているようだ。


 アンドルー・アレクサンダー・イザベラ第二王子よるフィリップ・アレクサンダー・イザベラ第一王子暗殺計画


『イザベラ』


 ノアの声からも緊張が伝わる。私には息子が二人いる。フィリップとアンドルーである。我が国の規則どおりフィリップは次期国王、アンドルーは次期摂取となる。しかし、生まれで自分の将来が決まってしまう事にアンドルーは不満を持っていた。王位継承権を望んでいたのは知っている。

 しかし、前宰相とともに計画をしている事を知った時は言葉が出なかった。どこで育て方を間違えたのかと苦悩した。それとなく説得を試みたがアンドルーの心には届かなかったようである。


 王子による王子の暗殺計画。


 いくら前宰相の手招きがあったとしても証拠がなくては何もならない。そのため、暗殺計画の日程を設定しやすいように私と摂取、アーサーが城出たのである。アーサーも何やら気付いていたようで最近フィリップ、フィリップと何かとそばにいた。


 今回もフィリップを連れてこない事を気にしていたようである。


 最後まで、思いとどまってくる事を願っていた。しかし、アンドルーの気持ちは変わらなかった。我が国の女王のして決断するとがきた。


「グレース、アーサーを呼ん…」


 伝える前に妹は部屋をでていた。


 優秀ですこと。


「イザベラ、この屋敷は好きにしていいよ。私はリンと息子とデートの約束があるでな」


 ドナルドは何も知らないし、何も聞かない。その上で私を今日屋敷に招いてくれた。友人であるが国を担う者同士一線はひかなくてはならない。その線引きをよく知っている。 


 「ここは元々家族しか住んでいないし、シャーロットたちは帰るの明日かな。久しぶりにノアも話せて楽しかったよ。ありがとう」

 シャーロットとはドナルドの第一夫人である。子どもはアーサーが悶えていたオリバー以外に三人いるのだが外出してくれていた。ドナルドは本当によき友人である。彼の手にぎり感謝をのべる。いくら感謝しても足りない。


 「リン、いくよ」


 「はい。また遊びにアーサーと一緒にお越し下さい」


 リンが頭を下げる。ドナルドとリンが部屋をでると同時に妹とアーサーが戻ってきた。妹とアーサーが部屋の窓、扉をすべて閉めると床に手をかざし魔法陣を浮かべた。防音の魔法陣である。この部屋の音が一切外に漏れないようにしたのである。準備が整ったことを確認すると私はノアに話しかけた。


 「ノア、現実報告をお願い」

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