第20話 グレース摂取の思い
姉は二人の子どもをとても愛していた。しかし、父である国王が身体弱く公務が難しくなり引退したため、姉は歴代よりも早く戴冠式を迎えた。王が変わると基本的に、全ての役職が入れ替わる。王の指名により役職を継続する者もいたがまれである。
姉の場合は全ての役職が入れ替わった。摂取は第二子である私、王配業務は姉の夫ノア・キャベンティシュ・アレクサンダー、宰相は第三子アルバート・アレクサンダー・エドワード、貿易大臣と法務大臣には我が国の貴族が就任した。
基本的、王と摂取が宰相、貿易大臣を選び王配・王妃業務につく者と宰相が法務大臣を選ぶ。大体は他薦の中から選ばれる事が多い。
王配が隣国の民という以外は特に歴代と同じ人事のやり方である。
だだ二つ問題があった。
一つはその時、姉に子どもがいなかった事である。女王という業務は異常に忙しいため本来なら王位を継ぐ前出産する。しかし、姉は子どもがいないまま王位を継いだため、女王の仕事を問題なくこなせる様になってからの出産であったため遅くなった。そして、姉は出産後も育児に関わることがほとんど出来ず王子らは乳母や侍女によって育てられた。姉が女王に就任してから私も特に多忙であり王子たちのまで手がまわらなかった。家庭教師や専属の侍女からと何も上がって来なかったため気にしていなかった。何もない時は特に注意すべきであったのである。
もう一つの問題は父である国王の引退が早かったことにある。父が引退し上皇となった。
大抵、王が引退もしくはなくなる時は上層部の役人も年であるため一緒に引退し自分の屋敷に戻る。しかし、上皇の上層部はまだ若かったため不満が上がったのだ。それでも納得してくれていたが宰相だけは納得できずにいた。
そもそも、姉と上皇の上層部とは意見の対立が多かった。その一番が奴隷制度である。
元宰相の実家は奴隷商であったため奴隷制度廃止を願う姉の王位継承を反対していた様だがそれは表沙汰にはできない。姉に大きな問題がないのだから不敬罪を問われる可能性がある。たから、彼はアンドルーに接触したようだ。
ノア王配殿下が現状を説明してくれた。私たちが城をでた後フィリップと術の手合わせを約束するアンドルーをアルバート宰相が発見した。アルバートが使用予定の剣を確認すると毒が塗られていた。
手合わせは本日の昼頃の予定であった。
このままでは暗殺の証拠がない。そのためアルバート宰相は
現在アンドルーは投獄され元宰相は逃走中ということだ。
「フィリップのバカ。弱いからダメなんだよ」
強くなりたいという意欲がないフィリップの剣術は目もあてられない。騎士を目指す子どもの方が強いかもしれない。だから、アンドルーは手合わせという策を考えたのだろう。
アーサーはフィリップを責めたいわけではなく心配している。
勿論アンドルーの事もだ。アーサーはアンドルーやフィリップと共に幼少期を過ごしてきた。
「ノア、ありがとう。すぐに帰ります」
姉はノア王配殿下に礼をいい通信用の魔法陣を閉じると私の方をみた。私は頷き姉と共に床に手をかざし、波長を合わせる。その場にいた全員が床に浮かび上がる魔法陣の上にのる。
転送魔法陣
城にある転送魔法陣まで移動する事ができる。移動人数は魔法陣にのれるだけである。魔法陣を大きくするにはそれなりの技術と体力がいるため今回姉と力を合わせた。
「いくよ」
「はい」
姉の声にあわせて魔法陣を発動させた。複数での魔法陣発動は1人よりも技術がいる。何度か協力している姉とだからできる技である。城に到着すると姉と共に着替えにむかう。そこには侍女たちが待機しておりすぐに着替えが終了した。姉は裁判専用の黒いドレス、私は正装を着て自分の剣であること確認して腰差す。やはり剣があると安心する。
国外で着替えた荷物は剣を含め全て姉が城に転送した。
それから急ぎ足で玉座の間に向かった。よく使用する玉座の間であるが今まで一番気が重い。姉も同じの気持ちであるようで城に戻ってから一度も口を開いていない。
玉座の間に着くとすで、ノア王配殿下は玉座の横に座り、隣にアルバート宰相は記録の準備をしていた。
アンドルーは後ろで両手を縛られ膝つかられている。いつもきれいに整えられていた金髪の髪は乱れている。側にはジョージ騎士団長が険しい顔で立っていた。
本来、裁判は法務大臣が記録し宰相が尋問を行う。そして、最後に王が判決を下す。しかし、第一王子暗殺という前代未聞の重要案件であるため裁判参加は最小限に抑えられた。
姉が玉座に座ると裁判が開始された。
私がアンドルーの罪状を読み上げる。
内容はノア王配殿下から伝えられたものだ。但し、アルバート宰相が通ったのはあくまで
「アンドルー第二王子殿下。何かありますか」
全ての罪状を読み上げるとアンドルーに問う。下を向いていたアンドルーは勢いよく顔あげた。
「これは謀られたものであり、私には兄上の命を奪う気持ちはありませんでした」
問うてる私ではなく姉の方を見て落ち着いた口で説明する。無実であると主張するつもりらしい。
「では、フィリップ第一王子殿下の剣に毒があったと言ったのは何故ですか」
アンドルーは私の方は一切見ない。視線の先は姉である。
姉は表情を出さずに息子アンドルーを見つめている。その目はどこか悲しい。
「毒、いや、あの時は。その……」
剣の毒の話になると急に顔を青くしてしどろもどろになる。さっきまで姉をじっと見つめていた青い瞳をキョロキョロと動かす。
「あ、そうだ。気が動転していて。キズをつけられたから慌ててしまい分からない事を言ってしまいました」
アンドルー第二王子の言葉に頷き、ジョージ騎士団長の方に視線を向ける。
「分かりました。ジョージ騎士団に問います」
思うことはたくさんあるだろうが、今は一切感情を表に出さずにジョージ騎士団は返事をした。
「以前、剣術の指導をアンドルー第二王子殿下にした事がありますね」
「はい」
「その時、アンドルー第二王子は怪我をされています。剣を避けられず頬に傷あったと記録されています。その時のアンドルー第二王子殿下の様子を教えて下さい」
アンドルーが抵抗することは想定内である。以前に揃えられた資料通りに進めていく。感情一切出ないように心がけて裁判を進めていく。本当は助けてあげたい「次はしないでね」と言いたい。しかし、もうそれが出来ないところまできてしまった。
「ケガをされた時は冷静に止血なされていました。普段から応急処置を学ばれていましたのでとても素晴らしかったと他の騎士とも話していました」
アンドルーはジョージ騎士団長の回答をきいて突然大きな声をあげ、フィリップ第一王子殿下を侮辱した。それに対し誰も何も言わない。但、アンドルー第二王子殿下の声だけが響きわたる。
姉は決意を固めたようである。姉の青い瞳には悲しみはもうなかった。但、アンドルー第二王子殿下を見つめいる。
「母上」
アンドルー第二王子殿下の目から涙があふれた。
なぜ、お前が泣く。泣きたいのは姉だ。私だ。お前に関わった全員が思っている。みんなお前を愛している。今も愛している。しかし、もう庇えないところまできてしまった。
「フィリップの暗殺未遂を認めるのですね」
初めて姉が口を開いた。アンドルーは何も言わない、また俯く。
「アンドルーあなたに判決を言い渡します。王族としての身分剥奪し国外追放です。今後王家の名であるアレクサンダー及び女王である母の名、イザベラを名乗ることはできません」
王族の名前は自分名、王家の名、王族血縁の親の名で構成されている。自分名以外は身分を表すものなのである。それを剥奪されると言うことは平民以下に堕ちる事を意味する。国外追放はおそらく船で1ヶ月以上は掛かる国へ送られる。
それは奴隷として他国に売られる事を意味する。罰としては相当重い。我が国は奴隷を輸入するが輸出することはほとんどない。犯罪者も国内で罪を償われる事が多数である。
アンドルーはもう何も言わない。ジョージ騎士団長に連れられて、玉座の間を退室した。
それからすぐに姉も玉座の間をでた。それを追うように、ノア王配殿下も退室した。
徐々に退室していき、重い空気だけが玉座の間に残った。
この国の裁判は王の責が重すぎる。
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