第18話法務大臣と摂政③~ソーワ王国の女性 後編~ 

 屋敷から外に出ると花壇の所に女性とその子どもの影があった。

 早く話したいと急ぐ気持ちを我慢してなるべく相手に警戒されないように声をかける。


「ドナルド殿の奥方でしょうか」


 二人がこちらを振り向いた。大声出さず会話ができるくらいの位置で足を止める。

 あまり近づきすぎると怖がられるかと思った。元奴隷との接し方がよく分からないが、警戒されないようなるべく優しく挨拶をすることにした。


「お初にお目に掛かります。隣国パレスの摂政グレース・アレクサンダー・エドワードの息子、アーサー・アレクサンダー・グレースです。先ほど案内して頂きましたのに大した挨拶もせず失礼致しました」


 あの時は彼女を侍女だと思っていた。本当に失礼な事をしたと反省する。

 僕が名乗ると女性は姿勢を正しスカートを持ち深々と頭を下げる。少年も頭だけ一瞬下げた。


「お初にお目にかかります。ドナルド・ホワイトの妻、リン・ホワイトでございます。こちらは息子のオリバー・ホワイトでございます。娘と第一夫人の子どもは只今不在で挨拶できず申し訳ありません」


 僕が王族とわかっているはずであるが堂々した態度は流石、元大統領の夫人であると思う。

 ホワイト第二夫人は美しい女性である。黒髪に黒い瞳は珍しいがとても美しいかった。

 更に注目すべきはオリバーだ。


 夫人の腰くらいの身長であるオリバーも夫人と同じ黒髪に黒い瞳をしてる。

 ドナルド殿の血が入ってるせいか肌はホワイト第二夫人より白く透き通るようである。

 島民の肌も白いが太陽に負けてしまうようで年齢と共に染みが増えていく。しかし、ホワイト第二夫人もオリバーも染み一つない肌をしている。

 オリバーの黒い瞳がチラチラと僕を見る。不信に思われているのかもしれないが、そんなオリバーの表情も可愛くて堪らない。


 是非とも声聞きたい。


「何かご用意でしょうか」


 ホワイト第二夫人に声を掛けられて、自分が挨拶後何も言っていないことに気づき焦った。

 オリバーに魅入ってしまいホワイト第二夫人の存在を忘れていたのだ。

 息子を余りにじっくりと見てしまったせいか、ホワイト第二夫人に警戒されたかもしれない。


「失礼致しました。ホワイト第二夫人。少しお話をしたく伺いました」


「リンで構いません。私の祖国の事でしょうか?」


 優しく微笑む彼女からは少し疲れを感じた。

 ソーワ王国特有の容姿を持つ彼女はよく質問攻めに会うのだろう。

 勿論僕もあの国の事を知りたいと思った。しかしそれ以上に今はオリバーを知りたい。

 せめて声を聞きたい。

 さっきまで瞬きせずに僕を見ていたオリバーだが目が乾いたようで瞬きをして目をこすっていた。その愛らしさに思わず顔緩む。


「オリバーと話したいのですか?子どもが好きなんですね」


 返事をせずオリバーに夢中になっている僕に気づき口手を当てて苦笑した。

 そしてオリバーをつれて手を伸ばせば触れる距離まできてくれた。僕は慌ててホワイト第二夫人に視線をうつす。


「申し訳ありません。えっと、僕に敬語は不要です。リンと呼びますからアーサーと呼んで下さい」


 リンにそう告げるとリンは目を大きくしたがチラリと上を見るとすぐに、微笑んだ。そして頷く。

 僕はリンが頷いたのを確認すると、オリバーと視線を合わせるようにしゃがんだ。オリバーは緊張しているのか母のスカートをキュッとにぎっている。


「勿論オリバーもそう呼んでくれると嬉しい」


 オリバーは戸惑った顔をして母のスカートにぎった小さな手に力をいれた。怖がらせてしまったと思ったが、恥ずかしそうに目をキョロキョロさせたオリバーの小さな口から可愛らしい声が聞こえた。


「アーサー」


 天使。


 可愛らしい容姿に愛らしい声の為思わず叫びそうになり、胸を押さえる。僕の呼吸が荒くなった。


「あ、大丈夫?苦しい?」


 オリバーは母から手を離すと、顔を傾け僕の顔を心配そうに覗いてくる。


 顔が近い、今にも鼻同士がくっつきそうだ。

 僕の様子からオリバーは体調が悪いと思ったらしく背中をさすってくれる。


「大丈夫。ありがとう」


 無理やり気持ちを落ち着かせ、オリバーに礼をいいながら顔あげるとリンが上を見て口を動かしている。

 視線の先に先ほどいた部屋の窓がある。

 そこにいたのは母だ。母は口の動きだけでリンと会話している。

 そして、はっきり『ほっとけ』とリンに伝えていた。リンは頷くとまだしゃがみこんでいる僕と心配そうにしてるオリバーに「ごゆっくり」と言って去って言ってしまった。


 か弱い元奴隷の女性と言う印象は崩れた。リンは母と同じニオイがする。


 今、僕の横で不安そうに眉を寄せる少年だけが味方な気がした。


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