二章

一節 「新堂 尊のお話」

 僕には人がいつ、どのように死ぬかわかる。

 まず急に頭の中でたくさんの声がする。その声に意識を向け、その一つを触るイメージをするとその人の細かい情報がさらにわかる。

 その情報から、孤独死する人を見つけ出し、僕はその人の元に向かう。

 たくさんの人がまもなく亡くなることがわかるのだけど、その全ての人の元に僕は現実的にいけないし、それは僕がしようとしていることと違うことだ。

 そうやって僕は孤独死する人を見つけている。

 今回は、ある若い男の人の元に行くことに決めた。


 新堂尊しんどう たける

 十八歳。

 努力家で、楽天的。

 一人っ子で兄弟はいない。

 自分の夢を追いかけたいと言い、親に勘当される。

その後親族の誰とも連絡をとっていない。

 今は山に囲まれた自然が豊かところで、一人暮らしをしている。

 元から友だちはあまりいない上に、人里離れたところにいるから誰かと会うことすらほとんどない。

 結婚はしていないし、恋人もいない。

 淑子さんとは違い、愛とは無縁の人かなと僕は感じた。

 骨肉腫がステージ4で、もう命は長くない。

 そのことは誰にも言っていないらしい。

 病院には告知を受けた後は一度も行っていない。ずっと家にいる。

 彼もまた独りっきりだった。

 しかもこんなに若いのに、死ぬ運命になっている。

 これからしたいことなんて山のようにあると思う。

 それができない辛さは、そこが見えない谷のようだと感じた。

 ほかの人は普通にできるのに自分だけができないなんて悔しいだろうから。

 僕はまた黒いファイルから情報を事前に得てから彼の元に向かっていった。

「はじまして、新堂 尊君。僕は二階堂 歩といいます。いきなりですが、あなたの最期を看取りに来ました」

 僕はいつも夕方に人に会いに行く。夕方は、朝でもなく夜でもない曖昧な時間だから。

 死というはっきりしたことと向き合うには、曖昧さがある方がいい。

 季節は秋になり、コスモスが咲いている。

 何があっても時間は進んで行くんだなと僕は感じた。

 淑子さんはちゃんと学ぶさんに会えているだろうか。

「どういうこと?」

 当たり前だけど、こんな風に話しても、信用してもらえない。ただの怪しくて変な人だと思われる。

 それでも僕は話しかけることしかできない。

「あなたには時間がない。骨肉腫にかかっていますよね? しかももう命は長くない」

 彼の表情が変わった。

「なんでそのこと知ってるんだよ。ネットか何かで調べた?」

今時なんでも若者はSNSに載せている。

それは他人に自分を認めてもらいたいからだろうか。関心を得られたいのだろうか。

 もしくは自分自身を信じられないからだろうか。

 その答えは、わからない。

 若者ももしかしたら見えないだけで心に病みを抱えているのかもしれない。

 僕にはそれがまだ理解できないけど、そんな風にしている人もいると受け入れているつもりだ。

「違います。でもあなたが亡くなることを知っています。あなたは頼る人がいない。このままでは孤独死します。だから僕が来ました」

「孤独死。今話題のやつね。じゃああなたが助けてくれるの?」

  軽いノリで言っていたけど、彼は少し動揺していた。目が泳いでいる。

「助けることはできません」

僕ははっきりと助けられないと言った。

 できもしないことを無責任に言い、期待させてしまうのが、一番ダメなことだから。

 彼にもうすぐ死が訪れる。それは変えることができないことだ。

 僕は話を続ける。

「あなたを独りで死なせたくないんです。あなたのそばにいるだけでいいです。どうです? あなたにとって損なことはないと思いますが」

「お節介焼きなのか変人なのか。まあいいや。どうせ俺は死ぬんだし。楽しくしてよね」

「わかりました」

太陽が完全に沈み、これからまた暗闇がやってくる。

 これから彼の抱えるものと向き合っていく。

彼はどんなことを抱えているのだろうと僕は考えながら、再度夕焼けを見つめた。


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