第四章 ~『オークションへの期待』~
アリスの知識を利用し、骨董品や装飾品を安い値段で買い漁り、価値の分かる古物商へと持っていく。これだけでニコラの退職金の数百倍以上の金貨を稼ぐことに成功していた。
「このお金、どうしましょうか?」
「何かの役に立つだろ。例えば魔導書を買って、強くなるのも良いんじゃないか?」
「それは良いアイデアですね。今日のオークションで、普段は出回らないレア魔法の魔導書が出品されると聞きましたし、さらなる力を手に入れるチャンスですね」
「富裕層向けの表のオークションに出るのも悪くない。顔を出してみるか?」
「はいっ」
闇オークションが開催されるまで時間がある。暇な時間を有効活用するために、世界各地の貴重品を集めたクリスティーゼオークションの会場へと足を運ぶ。
オークション会場は階段状に並べられた座席と、商品を紹介するためのステージ、そしてステージの脇に立つオークショナーの姿がある。彼は小槌片手に、商品が運ばれてくるのを待っていた。
「さすがは世界一と名高いクリスティーゼオークションですね」
「来客も貴族や成金ばっかりだ」
オークションの質はそれを落札しようと集まった人たちを見れば分かる。露天商のときに集まっていた客とは違う。身にまとう服装や言動、金持ちだけが放つ雰囲気を彼らは纏っていた。
「どうせ目利きで手に入れたお金ですし。今回稼いだお金は、パッと使ってしまいましょう」
「目当ての商品を決めるためにも、カタログに目を通さないとな」
オークションは主に三つのプロセスで行われる。最初はカタログ購入。ここで欲しい商品に目星をつける。次に目星をつけた商品の現物を確かめるプレビュー会に参加する。ここで購入するかどうかの判断と、いくらまで金を出すかを決める。そして最後にオークション本番への参加と落札だ。
「でも残念ですね。折角ならプレビュー会も参加してみたかったです」
「そこは気にするな。俺たちの狙いは主に魔導書だからな。中の魔法さえ習得できれば、本そのものの質には興味がない。支障はないから安心しろ」
武器や骨董品を購入するなら、物の状態を知る必要があるため、プレビュー会への参加は必須になる。だが魔導書は中身さえあればいい。落札する商品の狙いを魔導書に絞ったのも、それが理由だった。
「カタログを見て、欲しいものはあったか?」
「二つありました。一つは弓使いのアレクさんが使用していた分身魔法です」
「あれは俺も使えるが便利な魔法だな。確か、元はハイエルフの傭兵部隊でのみ会得が許された秘術なんだよな?」
「ええ。便利だなと思っていたのですが、王族でも習得を拒否されていたので……今回のチャンスは逃せませんね!」
「そんな貴重な魔法なのか。にしては、あっさりとオークションに出てきたな」
「……もしかすると私が原因かもしれませんね」
アリスがカタログの出品者欄を指差す。そこには以前戦ったアレクの名前と顔が記載されていた。
「売却理由が酷いな。『エルフの姫に誑かされ、人生を台無しにされました。魔道書を売却して、生活資金にしたいと思います。魔法も使えなくなってしまった哀れな私を誰かお救いください』。この文面だけ見ると、アリスが最低の女に見えるな」
「私は誑かしたりなんてしていません! こんなの風評被害です」
「そうだな。アリスはだまし討ちしただけだもんな」
「う、それを言われると……」
「売却理由はともかく分身魔法は有用だ。買っておくか。もう一つの欲しい魔法はなんだ?」
「そちらも先生が使える魔法です」
アリスはカタログのページを捲り、目当てのページを示す。そこにはニコラも良く使う魔法が記載されていた。
「収納魔法か。確かにこれは便利だな」
「色々と応用が効くと思いますし、先生ともお揃いになりますからね。ぜひとも欲しいのです」
「ただ分身魔法以上に、こいつは高騰するだろうな」
収納魔法はその便利さ故に、誰もが喉から手が出るほどに欲しがる魔法である。間違いなく高値が予想された。
「心配しても仕方ないか。俺たちには金があるんだ。どれだけ高掴みでも買えばいいだけさ」
ニコラは収納魔法の相場を踏まえ、必ず買えると踏んでいた。この時の彼は彼らしくなく、油断していたのであった。
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