第四章 ~『コータスの祈り』~


「俺は世界で一番不幸な男だ。間違いない」


 組織の幹部の一人であり、フレディの部下であるコータスは溜息を漏らす。彼は数多くの受難に苛まれていた。


 まずは彼の上司であるフレディだ。フレディは腕っ節だけで幹部になった男であり、人格は破綻している。そのため事務処理などできるはずもなく、そのすべてをコータスが代わりにやる羽目になっていた。続々と上がってくる報告に頭が痛くなる。


「幹部二人が組織を離脱。さらには組織の人間を襲撃しているだとっ! なんの得もないはずなのに、なぜそんなことをするのだっ!」


 報告の理解できない点は多々あるが、その中でも特に違和感を覚えたのは、自分の部下でさえも襲撃している点だ。これは彼らが自分の資産を捨てているに等しい。


 幹部は直属の部下たちから毎月上納金を受け取っている。その収益こそが幹部になる一番の旨みであり、部下を傷つけることは、この上納金を捨てていることを意味するからだ。


「まさか他の組織に寝返ったのか。だがサイゼ王国で我ら以上の組織があるはずもない」


 コータスは頭を悩ませるが、どう思考を巡らせても答えには辿り着かない。


「いや、なぜ裏切ったかを考えるのは時間の無駄だ。まずは穴埋めを考えなければ」


 今回裏切った幹部の二人は、組織の貴重な戦力であった。この二人がいなくなれば、他の組織に対する牽制力が衰えてしまう。


「幹部に相当する人材か……」


 コータスは二人に相当する人材が簡単に見つからないと悟っていた。魔法と腕力。どちらの人材も突出した能力を持っていたからだ。


 だが予想は嬉しい形で裏切られた。


「幹部の二人を捕まえた男がいるだと!」


 部下から念話での報告が届く。内容はこうだ。暴れていた幹部二人を、たまたま通りすがりの冒険者が捕らえたのだ。


 しかもその男は組織への加入を希望していた。組織としては空いた戦力の穴を埋めるための好機であった。


「おい、すぐにその人物を組織に採用……いや、幹部にするんだ!」


 念話で部下に命じ終わると、コータスは嬉しそうに鼻歌を口ずさむ。おかげで問題の大半は片付くことになったからだ。


「外部への抑止力は、数こそ一人減るが、二人を捕らえるほどの冒険者が手に入ったのだ。むしろこれは幸いだ。人材は数より質だからな」


 これで組織は安泰だと、コータスは安心する。願わくは、その幹部になる男がフレディのような人格破綻者でないことを祈るのだった。


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