第四章 ~『ハーフオークという種族』~


「これでゼペットの部下は全員倒せたな」


 ゼペットの姿で組織の悪党を襲撃していたニコラは、彼の部下が集まる溜まり場を襲撃した。そこはかつて商店だった建物だが、使われなくなり、廃屋となっている。腐りかけの床に、意識を失った男たちが転がっていた。


「そろそろ来る頃だな」


 建物の入口を眺めていると、扉の外に人の気配を感じる。誰かと会話をしている声が店内にも聞こえてきた。


「邪魔するぜ」


 店に二人の男が入ってくる。一人はニコラが襲撃した悪党、マイクである。もう一人は丸太のような腕をした大男で、赤い瞳と、額から生えた角が特徴的だった。


「ゼペット、随分暴れているそうじゃねぇか。さっき偶然会ったマイクから聞いたぜ」

「お主には関係あるまい」

「そうはいくかよ。組織に報告したら、爺を始末すれば、金貨千枚の報酬を出すとの事だ。こんな美味しい話、逃す手はねぇ」

「儂相手に勝てるつもりなのかのぉ」

「言葉を返すぜ。ハーフオークの俺様相手に勝つつもりなのかよ」


 ハーフオークとは人間とオークを両親に持つ種族であり、オークの腕力と、人間の知能を併せ持っている。魔法に対する強い耐性も保持しているため、魔法使いの天敵と称されていた。


「爺は魔法しか脳がねぇだろ。どれほど強力な魔法を使えようが、ハーフオークの魔法耐性の敵じゃねぇ」

「儂を舐めておるのぉ。種族耐性で儂の魔法が防げるとでも?」

「舐めてはいねぇよ。さらなるダメ押しで、『対魔法の指輪』も装備してきたからな」

「闘気による防御力を失う代わりに、魔力に対する耐性を向上させる魔導具じゃったのぉ」

「そこまで分かっているなら話は早い。降参するんだな」

「いいや。降参はせん」

「なら死ね!」


 ハーフオークは闘気の防御力を魔法に対する耐性へと変換し、ゼペットの姿をしたニコラへと駆け出そうとする。しかし彼の足は止まった。彼の背中にマイクの拳が突き刺さったのだ。


「な、なぜ、なぜ裏切ったマイク!」

「マイクではありません」


 マイクは全身から光を放ち、姿を変えていく。光が止むと、そこにはニコラの弟子、アリスの姿があった。


「ぐぅっ……」


 ハーフオークの男は闘気による防御を捨てていたため、立つことすらできないほどのダメージを負う。床に膝をつくと、口からは血の飛沫を噴き出した。


「な、何が起きたんだ……」

「順を追って説明してやるよ」


 ゼペットの姿を解除したニコラが、倒れこむハーフオークを見下ろす。その顔には勝者の笑みが浮かんでいる。


「まず俺はゼペットの姿で暴れ、幹部の一人、つまりはあんたをおびき出した。まともにやっても勝てると思うが、油断は禁物だからな。一つ罠を張った」

「わ、罠?」

「強者を見つけたら、マイクの姿で話しかけるようにアリスに命じていたのさ。ここまで話せば、後は簡単だ。ゼペットに襲われたから助けて欲しいと、あんたをここまで誘導する。後は油断した背中に不意打ちをしかけるだけさ」

「敗北の原因は、俺様の油断か……」

「いいや、油断なんかじゃない。あんたが注意を背後に割かなかったのは、俺の仕組んだ罠さ」

「どういうことだ?」

「俺はゼペットの姿をしていた。幹部の一人を前にして、注意を逸らすことこそ油断だからな。あんたが俺に注意を向け続けたのは当然のことだ。もしあんたにミスがあるとしたら、マイクが偽者だと気づけなかったことだ」


 気づけるチャンスはいくつかあった。いくら幹部と一緒にいるとはいえ、圧倒的弱者であるマイクにとって、ゼペットは脅威だ。命の危険に繋がるリスクを犯してまで、彼の元を訪れるはずがない。そのことをハーフオークに伝えると、悔しげに唇を噛み締めるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る