第四章 ~『ジェシカを探す』~


 誘拐されたジェシカを救い出すため、ニコラたちはサイゼ王国のサイフォンを訪れていた。街の中央に繁華街があり、それを覆うようにスラムが形成されている。まるで汚いものを外へ追いやろうとするような都市配置であった。


「ジェシカさんが無事だといいのですが……」

「どうせ酷い目にあってるよ。廃人になってたら、笑えるんだがな」

「先生っ!」

「分かっているよ。生徒たちのためだ、真面目に探してやるよ」


 ニコラたちは繁華街の喧噪を尻目に、ジェシカの姿がないか視線を配る。だが真っ赤に燃えるような赤髪は目に入らない。


「ジェシカさん、見つかりませんね……せめて、もう少し手掛かりがあれば……」

「ヒントを得るだけなら、方法はあるぞ」

「さすがは先生です。頼りになります!」

「ジェシカを救うための役に立つのは複雑な心境だがな……」

「まぁまぁ。それで、どのようにジェシカさんを探すのですか?」

「口で説明するより実践する方が早い」


 ニコラに連れられて、繁華街近くにあるスラムを訪れる。人通りはほとんどないが、時折、人相の悪い男たちとすれ違う。


 その内の一人、髭面の男にニコラは近づいていく。アリスは彼が何をしようとしているのかを察する。


「先生、まさか……」

「情報を聞き出すなら、チンピラに訊ねるのが一番だからな」


 ニコラが近づくと、髭面の男が鋭い目を向ける。鋭さの中に獲物を見るような狡猾な輝きが含まれていた。


「てめぇ。見ねぇ顔だな」

「初めて来た場所だからな」

「なら俺がルールを教えてやる。もしここを歩きたいなら通行料を払いな!」


 典型的な脅し文句だ。その言葉を受けて、ニコラはニンマリと笑みを浮かべる。


「やったな、アリス! クズが釣れたぞ! これで正義は我にありだ!」

「なにを言って……」

「こういうことだよ」


 髭面の男が嫌な予感を覚えたと同時に、ニコラは彼の顔に平手を打っていた。吹き飛ばされた男は、真っ赤に染まった頬を庇うように手を当てる。


「な、なんだ、なんなんだ、おまえら!? 何が目的だ!?」

「ただ知りたいことがあるだけだ」

「知りたいことだと!?」

「この辺りで念話障害が発生したかどうかを教えろ」


 ニコラの有無を言わさぬ問いに、髭面の男は悔しそうに表情を歪めると、首を縦に振った。


「どうやらビンゴのようだな。で、どこで起きた?」

「丁度、この辺りだ。部下と話をしていたときに突然念話が途切れた」

「へぇ~、部下がいるのか」


 ニコラは悪巧みを思いついた子供のようにニヤニヤと笑う。髭面の男はゴクリと息を吞んだ。


「赤髪の女がこの街で誘拐されたんだが、何か知っているか?」

「し、知らない」

「残念、外れか……でも俺は優しいからチャンスをやる。部下を使って誘拐の手掛かりとなる情報を探せ。そうすれば解放してやる」

「か、解放?」

「これから三分ごとにお前の頬を叩く。止めて欲しいのなら、結果を出せ」

「あ、悪魔かお前は!」

「人からカツアゲしようとしていた奴が口にしていい台詞じゃないだろ」

「うぅっ……」


 髭面の男は悔しさで唇を噛みながら、部下に念話で命令を飛ばす。ニコラはジェシカへと、また一歩近づいたのだった。


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