第三章 ~『トーナメント出場者』~
決勝トーナメントへの出場者が出揃った。その知らせはエルフ領全土に知れ渡り、人々の話題はそれ一色に染まった。
当然、出場者が決まったことをニコラたちも耳にしていた。ニコラとアリスの二人は、集めた出場者の情報を精査するため、宿屋に引きこもっていた。
「決定した八人は概ね予想通りですね」
出場者はケルンを含めた有力候補が名を連ねていた。アリスが姫をしていた頃から名前が知れ渡っていた強者が多く、緊張で彼女は手を握りこむ。
「おい、ジェイの奴が出ているじゃねぇか!」
「ジェイさんですか……確か、私たちと同じく出場者決定ギリギリにランキング七位に昇格した人ですよね。知り合いなのですか?」
「俺が世界で一番嫌いな男だ」
「先生がそこまで言うなんて……」
「お前も知っている男だぞ。なんせ元勇者だからな」
「ええ! この人、あの有名な勇者ジェイ様なのですか! いえ、それよりも元とはいえ勇者様なのですから、さぞかしお強いのでしょうね」
「闘気を奪われて弱体化しているらしいが、それでもこいつは最強クラスの戦士だ。出場するのが反則みたいな奴だが、俺は出場してくれて嬉しいよ。ようやくこいつに復讐する機会が回ってきたんだからな」
ジェイはプライドの高い男だ。ニコラが直接制裁を下すよりも、弱そうに見えるアリスが倒す方が屈辱を与えることができる。絶好の好機に、彼の口元に笑みが浮かんだ。
「ジェイには絶対に勝て。どんな卑怯な手を使っても勝て」
「は、はい。いつも通り闘えということですね」
「いつも以上に卑怯に徹しろ。なんなら、あいつの食事に毒を混ぜちまえ。俺が許してやる」
「さ、さすがに、そんなことできませんよ」
アリスは手元のトーナメント表を眺め、ジェイと自分の位置を確認する。二人は反対側のブロックに位置していた。
「トーナメント表だと、勇者様と戦うのは決勝戦になりそうですね」
「あいつは必ず決勝まで昇ってくる。だからアリスも決勝まで勝ち続けろ」
「そのためには一回戦に勝利しないといけませんね」
アリスはトーナメント表の一回戦の相手を確認する。ランキング二位のハイエルフで、かつて騎士団の団長を務めた男だった。
「この男を知っているか?」
「シュラさんですね。良く知っています。私の護衛役になることも多い人でしたから」
「勝てるか?」
「正面からぶつかれば勝機はないでしょう。ですので策を考えなければいけません」
アリスの知るシュラは、二本の剣を巧みに使いこなす男で、その華麗な剣捌きはエルフ領一の剣術とまで云われていた。
「何か弱点はないのか?」
「弱点ではありませんが、シュラさんは双子のカルラさんと組んだ時に最も力を発揮すると聞きます。相手が一人で助かりました」
シュラとカルラの双子のコンビネーションは、お互いの心が読めるかのような連携を見せる。その技術が駆使されなかったのが幸いだったと、アリスは口にする。
「聞いた話を整理すると、相手は二刀流の剣士で、戦い方は王道で隙がないか」
「目に見えた弱点がない分、厄介ですね」
「作戦を練るためにも、アリスの武器が一つでも多く欲しいな。例の魔法は使いこなせるようになったか?」
アリスは首を横に振る。ニコラが訊ねた魔法とは、武闘イベントの賞品として手に入れた魔導書に刻まれていたものだ。
「なぜ賞品になっていたのか不思議なほどに強力な魔法だ。何とかトーナメントまでには使いこなせるようになりたいな」
「できると良いのですが……」
「珍しく弱気だな」
「実は東の魔法について調べてみたのですが、どうやら我々西側の魔法とは根本から異なるそうなのです」
「そこまで違うのか?」
「はい。西側の魔導書は読めば誰でも簡単に使いこなせる魔法が主なのですが、東側の魔法は習得してからの修練に時間がかかるものが多いそうで、才能がないと一年近く必要とする人もいるそうです」
「手軽さを失う代わりに、強力な力を得られたということか。ただ泣き言を言っても始まらない。修行あるのみだ」
「はい!」
アリスが東側の魔法を使いこなす修行を行う。その傍らでニコラはシュラを倒すための策を思案し続けた。
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