第三章 ~『双子との闘い』~
トーナメント初日。参加する闘技者たちが魔方陣で集められる。闘技場はアリスがグレイブと闘ったステージだった。闘技場には高価なリアルタイムに映像を配信する種類の水晶が設置され、エルフ領の国民たちが、次の国王の誕生を見守っていた。
「ジェイの野郎、どこにいるんだ……」
闘技場へと召集されたニコラはかつての仲間の姿を探すが、その気配はない。それどころか闘技者は半分の四名しか揃っていなかった。
「今日は私の試合と、ケルンさんの試合の二試合だけだそうですから、ジェイさんは明日にならないと来ないですよ」
「そいつは残念だが仕方ない。アリスが勝ちあがればいずれ会うからな。それまでの楽しみにしておく」
アリスはニコラに苦笑で応えると、石造りのリングへと上る。他の三人の闘技者も釣られるように戦いの舞台へと降り立った。
「あれはもしかして……」
アリスがリングへ上ると、そこには先約の姿があった。それは漆黒の麗人サテラだ。金色の髪を輝かせながら、優雅にリング中央に立っている。
「なぜ姉さんがここに……何か狙いでもあるのか」
ニコラは疑いの目でサテラを見つめていると、彼女は視線に気づいたのか、口角をわずかに上げて微笑んだ。
「皆様お待たせしました。国王戦トーナメント、いよいよ始まります。司会進行はシャノア学園の学園長、サテラが勤めさせていただきます」
「え?」
「なぜシャノア学園がという疑問をお持ちの方、お答えしましょう。シャノア学園とエルフ領は友好関係を築いてきました。それは先代の国王時代から紡がれてきた絆です。故に信頼できる公正な審判役として私が派遣されたのです」
本当かよ、とニコラは訝しげな表情を浮かべるが、気にせずサテラは言葉を続ける。
「では本日の第一試合、注目のカード、二本の剣を華麗に操る騎士団長シュラと、最弱から成り上がり、今では立派な闘技者となったハイエルフの姫様。二人の戦いが始まります。まずはシュラ様、意気込みをどうぞ」
「俺様が勝つ。そのための必勝の策もある」
「力強い言葉ありがとうございます。次はアリス様、よろしくお願いします」
「わ、私は、エルフの臣民のため、必ず勝ち抜き、皆が幸せに暮らせる国を作ります」
「お二人ともありがとうございます。ではシュラ様。ランキング上位者の特典、追加ルールをお願いします」
追加ルールを求められたシュラはニンマリと笑うと、「カルラ!」とリング下にいる弟の名前を呼ぶ。双子の兄弟だけあり、同じ顔をしたハイエルフが姿を現す。
「俺が追加するルールは二対二のタッグマッチだ」
「タッグマッチですか……」
アリスは困惑の表情を浮かべると、シュラはニコラに視線を向ける。その視線に応えるようにニコラもリングへと上る。
「俺たちは兄弟で参加する。そちらは師弟で参加しろ」
「本当に良いのですか?」
「いいさ。なにせこれが俺たちの必勝の策だからな」
双子のコンビネーションこそ、シュラの最大の切り札だった。その強みを生かさない手はないと、このルール追加を要望したのだ。
「話は聞かせて貰った。いいだろう、タッグマッチ。受けてやる」
「言質は取ったぞ。これで俺たち兄弟の勝ちは確実だ」
シュラが高らかに笑うと、応えるようにニコラも笑った。互いが互いの勝利を確信している笑みだった。
「馬鹿が。トラの尾を踏んだな」
ニコラの実力を知るケルンはシュラのルール追加を鼻で笑う。同様にサテラも嘲笑を浮かべた。
「ではタッグマッチで決定です! 他の方はリングから降りてください」
サテラの言葉を受けて、ケルンたちはリングを後にする。残されたニコラたちはお互いに睨みあった。
「アリス、お前は下がっていろ」
「先生、まさか一人で」
「この程度の雑魚なら触れずとも勝てると証明してやる」
ニコラの言葉にシュラは怒りの形相を浮かべて、二本の刀を抜く。陽光に照らされ、銀色に光る刃を振り上げ、切りかかろうと一歩前へ出た。その時である。
突如シュラの身体を悪寒が支配する。まるで獅子に睨まれた蛙のように、全身がガタガタと震えだし、歯はカチカチと五月蠅い音色を奏でる。
気づくとシュラの瞳には恐怖で涙が浮かんでいた。原因は明白だ。眼前のニコラが放つ殺意の込められた闘気に当てられ、本能が戦闘を拒絶しているが故の反応だった。
「どうだ、闘わないのか?」
「こ、降参だ。俺たち兄弟の負けだ」
「あ、兄貴!」
「馬鹿! 俺たちが勝てる相手じゃねえ!」
「なんだ。弟の方にも分からせてやらないといけないか」
ニコラが闘気に殺意を乗せて、カルラへと向ける。突き刺さるような闘気に、生殺与奪を握られた感覚を覚えたカルラは膝をついて嘔吐した。圧倒的実力差故のいつでも気まぐれで殺されるという不安に、彼は正気を保つことができなかった。
「あ、兄貴に同意だ。降参する」
「いぇ~い、無傷で勝利だ」
ニコラは水晶に向かって勝利を宣言する。エルフ領の臣民に、ニコラの顔が刻まれた瞬間だった。
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