第三章 ~『必勝の策と矢』~

 一ヶ月が経過し、三千人との地獄の特訓を終えたアリスは、とうとうランキング八位との戦いを迎えようとしていた。


「この一ヶ月、本当に頑張ったな」

「うぅっ……本当に大変でした。何度も殺されそうになりましたし、何度も痛い思いをしました。ですが私は成し遂げました!」

「おめでとう。今のアリスの闘気量は一般人を遥かに超えて、冒険者ならランクC相当だ」


 冒険者のランクCとは中堅クラスに位置する。もう誰もアリスを貧弱と呼ぶ者はいないだろう。


「だがその成果も今日発揮できなければ意味はない」

「必ず勝ちます」

「その意気や良し。ではランキング八位の情報を伝えておく」


 ニコラはランキング八位の男についてのメモ書きと、何かが詰まった皮袋をアリスに渡す。


「メモは分かりますが、この袋は?」

「今回の秘策だ。それよりもまずは情報だ。相手の名前はアレク。弓使いのアレクだ」

「知っています。ハイエルフの傭兵部隊にいた人ですね」

「本来、弓や銃火器のような身体から離れる武器は闘気の鎧に劣るため使われることはない。だがアレクは特殊でな。肉体と同等の闘気を矢に込めることができるそうだ」


 闘気に反応する特殊な材質の剣や矢を使えば、込めた闘気量だけ武器の性能を向上させることができるが、肉体と比べて、武器は闘気を集めることが難しい。特に矢のような身体から放れる武器は、相手に命中するまでに闘気が発散するため、命中する頃にはただの矢と成り果ててしまう。


 だが中にはアレクのように矢に込めた闘気を発散させずに留めることで、相手の身体を貫くほどの威力を発揮できる者がいる。


「弓使いのアレクさん。初めて闘うタイプですね」

「性格も厄介でな。ただでさえ岩をも貫く矢を使うくせに、鏃にマヒ毒を仕込んでいる。だから少しでも掠めるとアウトだ」

「え、毒の使用はセーフなんですか?」

「当然だろ。国王戦の勝者は国の統治者として他国と戦争することもある。そうなったときに、毒は卑怯だと口にしても言い訳にしかならない。負けた奴が悪い」

「…………」

「それに一流の武道家なら毒矢で身体を貫かれるようなへまはしない。アリスも一流の武道家を目指すのなら覚えておけ」

「はい」

「それに毒に頼ると、痛い目を見ることもある。それを今回の作戦で証明してやる」


 ニコラはアレクに対する必勝の策をアリスへと授ける。彼女は策を耳にして必勝の確信を得た。

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