第三章 ~『千人組み手と修行開始』~
「先生、勝ちましたよ!」
魔方陣でエルフリアの都市へと戻ったアリスはニコラと喜びを分かち合うため、彼の元へと駆け寄った。
「見ていたぞ、良い闘いだった」
「えへへ、先生に褒められると、やっぱり嬉しいです」
「お世辞じゃないぞ。それに対戦相手を開始三分以内に倒してくれただろ。それもありがたい」
「どうしてですか?」
「実はな。アリスが三分以内に勝利するに賭けていた金が一万倍になって返ってきたんだ」
「え! 本当ですか!」
「本当さ。おそらくアリスの攻撃力だとグレイブの装甲を打ち抜くのは不可能だと思われていたんだろうな」
加えてアリスの知名度がチケット購入者を増やしたことも大きく影響していた。大勢の人間がグレイブの勝利に賭けていたため、この勝ち金を得られたといえる。
「これだけの金があれば、ランキング八位とも戦えるかもな」
ニコラは八位の男が下位ランクの闘技者とも試合をするという情報を得ていた。すべては金次第。金さえ払えば闘える存在は、ニコラにとって渡りに船である。
「八位。どれだけの実力者なのでしょうか」
「水晶で過去の戦いの映像を見た上で判断すると、俺なら指一本で倒せる相手だが、アリスと比べると遥かに格上だ」
「遥かにですか……」
「闘気量や実戦経験を踏まえると、勝ち目はゼロに近い。特に闘気量に絶望的な差がある」
「ならどうすれば……」
「本戦へと進む闘技者が確定するのは、今から一ヶ月先だ。つまり選手が確定する直前まで、アリスには修行する時間があるわけだ」
「修行ですか……しかし一ヶ月で効果があるのでしょうか?」
「名案を思いついたからな」
「名案ですか?」
「以前モンスターを倒すと闘気が増えると話したな。アリスも気づいていると思うが闘技者を倒しても闘気量は増えるんだ。その性質を利用する」
「まさか……」
アリスは浮かんだ考えを振り払おうとするが、ニコラのいたずら好きの子供のような表情を見て悟る。
「アリスには百人の闘技者たちを一度に相手にしてもらう」
「嫌な予感はしていましたが、そんなことできませんよ」
「できるさ。ランキング上位の者が下位の者と試合する時、ルールを定めることができる。ここでアリスの持つランキング百位が役に立つ。百位付近の奴だと負ける可能性もあるからな。千位から一万位くらいまでの格下を集めて、全員で殴りあい、最後まで残った奴が勝者というルールを定めるんだ。アリスを倒そうと雑魚どもが群がってくる。きっと楽しいことになるぞ~」
「楽しくありませんよ!」
「でも修行には最高だろ。百人の闘技者を倒すんだ。得られる闘気は普通に修行するより何倍も効果がある」
「そうですよね。百人も倒せば――」
「あ、一度に百人だぞ」
「え?」
「だから話しただろ。トーナメントまでは時間があるんだ。一日百人ぶっ飛ばすのをノルマにして、一ヶ月だから約三千人だ」
「さ、三千人……」
「それと言うまでもないことだが油断するなよ。ダンジョンとは違うからな」
モンスターは特定の攻撃しかしてこないため、慣れると対処方法も明確になる。だが闘技者は一人一人が異なる能力を持ち、異なる攻撃パターンを有している。
「ランキング百位を欲しい奴は大勢いるからな。募集したらすぐに試合ができるだろ。善は急げだ」
アリスが強くなるための地獄の一ヶ月間が始まる。彼女はただニコラの教えを信じ、戦いに身を投じるのだった。
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