第四話
「―――アァ?」
「だから、話し合いしましょうって」
笑いながら、ヘラヘラとした顔で女は男にそう言った。しかも、言い方が言い方だ。どこか挑発的で、口調も軽い。人が人なら、かなり苛つく様な喋り方には違いない。
「何だぁ……このアマ」
「アマじゃないわよ。私の名前は“フェンロン”ってちゃんとした名前があるんだから」
フッと笑って、女……フェンロンは男へと近ずいて行く。
「テメェ……相手誰だか分かって挑発してんのか!」
「さぁ、知らない」
やがて、眼前にまで近ずいて行く。
「……女、いい加減にしとけよ。流石にそこまで言われちゃあ―――」
彼の言葉が続く事は、無かった。
―――フェンロンの拳が、男の頬を打ち抜いた。
そのまま男は少し吹っ飛び、白目を向いて意識を失っていた。恐ろしい威力だ。拳の一撃だけで、大の男を吹き飛ばし、失神させたのだ。
「弱いわねぇ、それでもこの銀河を支配する軍の一人なの? 拍子抜けもいいとこね……」
ガッカリとした様に、肩を落として、フェンロンは溜息を着いた。
「……ま、その内強い奴も見つかるでしょ!」
そう言って、広大な砂漠の様な星をフェンロンは歩いて行った。
「―――お、お礼すらさせてくれんかった……」
・・・
―――星々が輝く空間、宇宙の果てで、ラレムは目を覚ました。
「……」
(さて、着いたか)
予想通りの時間帯。程よい眠りをしていたからか、とても気持ちが良かった。腕を動かし、掌をグーの形にしたり、パーの形にしたりしながら、ラレムは生きてる実感を感じていた。
そして、辺りを見渡す。
(……どの星も大したエネルギーに満ちていないな。この宇宙に来たのは失敗な気がする……どうしたものか)
首を長くして新たな宇宙のエネルギーを待ち詫びていたと言うのに、いざ辿り着いてみれば、その宇宙には大した御馳走が存在していない。ラレムにとって、それはとても辛い事だった。
(だからと言って、違う宇宙に移動したとしても……仕方ない。取り敢えずはどこかの星に降りるか)
最寄りの惑星であった、前方の茶色の星を見る。
(あの惑星……エネルギー自体は無いのだが、何か、ある)
確証は無い。だが、何故かその星へと降りたたなければならない様な、そんな衝動的な、本能とでも言わん何かに突き動かされる。新たな進化の影響で得た力が原因なのか、それともまた別の理由なのか。
(兎に角、行くとするか)
肉体を超光速にまで加速させ、ラレムはその星へと突き進んだ。
・・・
(驚いた。文明がそれなりに発達しているぞ。この星は……)
予想を裏切られた気分だった。
ここら離れた場所に、多くの建物があり、更にそこらは数は多いものの、一つ一つは僅かな“生命のエネルギー”が感じられた。
この星には何のエネルギーも感じなかった。だが、降り立ってみればそこには文明があり、それなりとは言え発達していたのだ。謎の衝動は、この僅かな“生命のエネルギー”に反応していたのだろうか?
「……」
(あの場所はここから約2キロ……歩いて行くか)
そうして、歩き出す。
風景もそれなりだ。多くの山があり、自然も案外豊かなもので、サボテンが生えている。気温はかなり暑く、段々と汗も搔いてくる。流石に辛い。とは言え、コートを脱げば機械塗れの悍ましい姿をこの星の住民に見せる事になるので、脱ぐ事は出来ない。
(不味いな……かなり暑くなってきやがった……ん?)
―――前から、誰かが歩いて来る。
(……女、か? それにしてはボロボロな服だな)
前から歩いて来る女に対し、少し不審な感情を抱く。
(!! 何だこのエネルギー……コイツ)
異常な程のエネルギーだった。あの戦艦以上か、いや、最早それを軽く超えているのだろう。女から以上な程にまでのエネルギーを感じる。
「―――んー? 何、迷子?」
「……」
(馬鹿な……これ程のエネルギーであれば、この宇宙に着いた時点で確認出来た筈だ)
女と、近い距離に立った。
……女から発せられるエネルギーはオーラの様な形となって、視認出来るにまで至っている。しかもオーラは段々と強くなっている。巨大で、まるで“龍”を思わす様な力強さのあるエネルギーに、彼は表情を強ばらせた。
「ねえ? 話せないの? もしかして、別の星からの旅行者か何かなの?」
「……」
「……ふーん」
女が、少し笑みを浮かべながら、ラレムの方を見る。
「何か面白そうね。アンタ」
(コイツ、一体……)
「ちょっとさぁ、試したい事出来たからさ、嫌だと思うけど……」
「―――一発貰ってちょうだい!!」
ラレムの顔目掛けて、女の拳が飛んでくる。
「……!」
ラレムはそれを後ろに移動して回避するも、女はその動きに難無く着いてくる。そして、その度に拳や蹴りを放っていき、ラレムは段々と追い詰められていく。
(この女……! 間違いない、コイツは俺やバルド軍の奴らの様な……!!?)
「ほらほら! 避けてるばかりじゃ私は……」
「―――倒せないわよ!!」
「グッ!!?」
女の拳が腹に直撃して、そのままラレムは吹き飛んでしまう。その一撃は重く、体の芯までに響く様な一撃だった。何よりも恐ろしいのは、超新星爆発にも耐えれる筈の体にダメージを与えたと言う現実だ。
それは彼にとって、何よりも恐ろしい現実であった。進化に進化を重ねた筈なのに、何故なのか? そんな恐怖が同時に襲いかかって来たのだ。
「……ッ! グッ、ガッ!」
「へへへ……私って、強いでしょ?」
挑発する様に女……フェンロンが笑いながらそう言った。
(調子に……乗りやがって)
それでもラレムは立ち上がる。表情に獰猛性を混じらせ、怒りを渦巻かせている事は、誰が見ても分かる事だった。
「へへ、さ、掛かって来なさいよ」
「……」
ラレムは、本能のままに、とてつもないスピードで加速してフェンロンの眼前にまで移動する。
「! 速いわね……!」
「ガァッ!!」
「ッ!?」
機械の腕でフェンロンを殴り飛ばす。その一撃で前方へと吹き飛ぶ彼女を、そのままラレムは追い込む様に肉体を加速させて彼女の眼前にまで移動し、首元を掴んだ。
「ウガァァァァァァァ!!」
そして首元を掴んだまま、地面に叩き付ける。
そこからは有無を言わさず、フェンロンの腹を上から足で踏み付けた。
「ガッ! アアアアア!!?」
フェンロンはその痛みに、悲鳴を上げ、血を吐いた。それを聞いたラレムの顔は、悪鬼の様な笑みを浮かべながら、腹を踏み続ける。
「フンッ! ……ガァッ! クハハハハ!!」
悪魔の様な笑い声を響かせながら、ラレムはフェンロンの腹を何度も何度も踏みまくった。血を吐こうがどうなろうが、こうなれば最早彼は止まる事が無い。
「この……馬鹿野郎!!」
しかし、フェンロンも負けじとラレムの足を掴み、そのまま前へと投げ飛ばした。
「!!?」
「こんの……ちょっと本気出したるわ、機械野郎!―――」
それは進化の最果て @fujikon
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