第二話
―――眩い太陽の光によって、ラレムは目を開けた。
「……」
(着いたか、別の次元に)
次元を超え、この宇宙に辿り着いた。
体感時間としては差程長くは無い。本当に一瞬で、予想よりも早く着いてしまったので、どうしようかと少々考える。
……宇宙を見てみる。どの宇宙も変わらない。真っ暗な景色に見える星々が幾つもある。本当にただそれだけで、よくよく考えてみればなんの面白味も無い。
心の底から興味の湧く事が、彼にはあまり無かった。宇宙の生まれた意味だとか、そういう哲学的な事も何も考えない。いや、考える意味も無いのか。
とは言え、たまに巨大な戦艦やその戦艦が幾つも隊列を成す艦隊を見た時は、喜びから目を丸くするものだ。逆に言えば、ホントにそれくらいしか面白味を感じる事が無い。
(どこか、大量のエネルギーに溢れた星は……)
歪な機械に覆われた片目で、宇宙を見渡す。巨大なエネルギーに覆われた星を探し、そこを喰らいに行くのが彼の目的だ。
原住民だろうがなんだろうが、彼は喰らい尽くす。それも全ては進化の為。
そこに正義だの、悪だのなんて無いのだ。
(……あった!)
―――この宇宙内で、遥か5光年先の緑の惑星。そこのエネルギーは、彼が目を輝かせる程にまで充実していた。幾つもの星を取り込み、既に巨大なエネルギーを持つ彼ですら、息を飲む程にまでだ。
(……何てエネルギーだ、ここまで充実しているならば、当分星を取り込まずとも力を高められる。何という僥倖。運がいい)
喜びで胸がいっぱいになる。彼のテンションは益々上がり、直ぐ様星を喰らう為に、その身を超光速にまで加速させ、5光年先まで吹っ飛んで行った。
・・・
「……綺、麗、だ」
―――目が飛び出そうになる。それ程にまで美しいし、何より凄いエネルギーなのだ。この星だけで、一体どれ程にまでの高みへと進む事が出来るのだろうか。そう考えると、自然と嬉しい気分になる。
より強く、より絶対的になる近道が見つかったのだと、胸が高鳴る。ここまでの幸運は滅多に無いのだから、これは神がいるのなら、感謝しなければならない。
(早速、降りてみるか)
そうして、早速彼は、この星へ降り立つ事にした。
・・・
―――降り立つ。大気圏を突入し、そこから一気に加速してこの星の大地に足を踏み入れた。大地に衝突した際の衝撃は計り知れなかったが、何ら支障は無かった。
「……」
(緑に輝く空……)
一言で言えば、美しい。
緑色の空に、輝く様な眩い太陽。大地は砂漠に覆われているが、荒廃した文明の残骸が所々に散っている。かつて建造物であったものの、何があったのか、地面に埋まり、高い物でもボロボロになっていた。
(……かつて、生命があった痕跡という訳か)
何が原因で消えたのだろうか。ほんの少し好奇心が働く。様々な理由を考えてみるが、やはり段々と面白味は無くなる。つまらない訳では無いのだが、そんな事を考えてもどうせ喰らい尽くしてしまうのだから、意味は無い。
死人に口なし。この星はエネルギーだけを蓄えて“死んでしまった”のだろう。
(……いきなり喰らい尽くすのも趣向に欠けるな。この星を見回ってみるか)
歩き出す。大気だけは爽やかなで、散歩するにはとてもいい。
永遠と砂漠が広がり、文明の残骸が広がり続ける。1つの星の事なんて滅多に考える事は無いのだが、どうも今日は考えなければならない気がした。
心の底から湧いてくるこの好奇心は、彼の記憶には無かった。
(もしかすると、俺は何にでも好奇心を持っていたのだろうか)
―――星を喰らうなんてバカげた力に目覚めたのが、幼い頃だと言う事以外、何も覚えていない。
それからは、ひたすらに星を喰らい続けたのだろう。その内寿命と言う概念は消えていき、喋るという機能すら薄れていった……のだろう。ハッキリとした記憶では無い。
この星には、そんなハッキリとしない過去の……懐かしさとでも言うのか、そんな物を感じさせる。
(変な感じだ。この星は、異様に懐かしい。いや、懐かしい……?)
(分からない。一体……)
何故こうも、訳の分からない感情で胸がいっぱいになるのだろうか。感傷に浸るような記憶は無い筈なのに、不思議と“涙”すら流れる。あまりにも、理解出来ない。
「……」
気味が悪かった。ラレムの気分は益々訳の分からない感情に覆われていく。それがかえって尚更腹が立つ。彼は血が出る程にまで拳を握り、感情を拒絶せんと自分の体に痛みを与えていた。そこまでしないと、この感情は消えそうにない。
(……もう喰らい尽くしてやる。予定変更だ)
気持ちの悪いこの星を喰らい尽くそうと、機械の片腕を出した、その瞬間だった。―――
―――大気を震わす轟音。この星を軽く超えるレベルでの巨大なエネルギーの“群れ”。そしてその一端がラレムの視線の中へと入り込んだ。
「……!!」
(戦艦……!!)
この星全体を、たった一機で覆っていた。前の次元で星並みの大きさの戦艦を喰らったが、その戦艦と同じレベルで巨大、そして何より、その戦艦よりも兵器が充実している事に彼は気付く。
そして、そんな戦艦が、この一帯の“銀河全体”を覆っている事も。
(……抜かった。俺以外にも狙っている奴らがいたと言う訳か)
・・・
『第3系宇宙から第58系宇宙へ、別の次元へ到達。目標の惑星を見つけた!』
『別の次元で同胞達を喰らった“悪魔”も見つけた! 戦闘の許可を求める!』
『この惑星のエネルギーはとてつもなく巨大だ! エネルギーを取り込めば、“我等が王”は更に進化する事が出来る! 即刻この星のエネルギーの回収、悪魔との戦闘を始める! 総員! 準備に掛かれ!』
別次元より来たるこの艦隊は、この星のエネルギーとラレムを目当てにやって来たようだ。
大量の砲門が惑星に向けて構えられる。その威圧はとんでもないもので、1発1発が、星を吹き飛ばしかねない物だった。その証拠に、構えただけで、砲門から既に緑色のエネルギーが溢れていた。
・・・
(さて、どうしたものか)
星の大地から見ても分かる。砲門からは既に馬鹿かげたエネルギーが溢れている。しかも、たった1隻でこれだけの馬鹿げたパワーだ。
流石に眉をひそめる。これまでこの規模の相手と戦うのは、正直言ってあまり経験も無いし何より、戦うと言う行為自体をする事せずに星を喰らって来ているのだ。
(“アレ”を使える程のエネルギーは確かにあるが……)
だが、使い終わってから直ぐ様補給せねばならない。エネルギーが完全に枯渇してしまえば、“命は無い。”
(……しかも、奴らは恐らく58系宇宙からやって来た“バルド軍”。厄介だ)
―――進化の為に、肉体を機械の戦艦へと改造した宇宙規模の大軍団。様々な星を征服しては破壊し、そのエネルギーを取り込み続けている軍団で、“聖戦”の時から少なくとも存在しており、この秩序が無くなった多元宇宙の中で、最も強い支配層と言える。
(仕方ない、殺るしか無い)
そう思ったラレムは、空中を浮遊し、直ぐ様宇宙へと飛び立った。
・・・
『来たか……!』
「……」
ラレムの視界に写る戦艦、その数およそ2000億。宇宙の海を支配する如く、その威圧は尋常では無い。
大宇宙の中心部に集まってきた鋼の軍勢は、今か今かと砲門をラレムに向けて構え続けている。
(俺1人とこの星の為に、ご苦労な事だ)
『ラレムよ。貴様は我らの同胞を取り込み、滅ぼした。その罪は死で償わねばならん。そうでもしなければ、我らの怒りも収まらんからな』
(知ったこっちゃない)
『……この星のエネルギーも我々が頂く。その前に、貴様の死を見させてもらおう』
砲門に緑色のエネルギーが充填されていく。前方、何億もの艦隊が星を滅ぼす程のエネルギーを溜め込みだしているのだ。その様は圧巻で、今既に大気は震えている。
それでも、ラレムの表情には何の変化も無い。身をたじろがせる事も、逃げ出そうと言う意思すら感じさせない。堂々としていて、真っ直ぐだった。
(……使うのであれば、今しか無い、か―――)
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