第9話 『真意』
目が、瞳が、視線が、触れ合った。じいい、と。
これは体感ではなく、本当に長い間、見つめ合っていたと思う。
「ありがとう。」
目は鋭く、僕のずっと深くまで見透かしているようで、しかし、こちらが見透かそうとしたなら、もれなく吸い込まれて出られなくなりそうだった。
たった5文字。発された彼の言葉は僕の耳を塞ぎ、それによって、他の何ものも聞くことができなくなった。
その視線と声の余韻に取り憑かれ、僕は妙な気分になる。
喉に力が入り、締まっていく。
僕はその感覚から、思わず死神を連想してしまった。
雄仁さんはその間に珈琲を一口含み、そうっとカップをソーサーに重ねたらしい。
小さな皿の音がした。
そして特に表情を変えず(僕にはそう見えた)、再度スマホを開き、画面を見つめた。
余韻の呪縛から解かれたのは、その画面が突然、僕の目の前に割り込んできたからだ。
焦点を合わせ、それを見る。
「QRコード・・・?」
語尾が疑問符になったのは、その黒と白の複雑な幾何学的なものが、『QRコード』という名称である事を確認しているわけではなく、何故今『QRコード』が登場したのか理解できない、と解説を求めたからに過ぎない。
その期待に対する解説はこうだった。
「僕の連絡先。」
ぽかんと口を開けて固まるものだから、雄仁さんは続ける。
「良かったら追加して欲しいのだけど。携帯、持ってなかった?」
その言葉の一語一句を反復し、理解に努めた。
しかし、言葉を理解しても、その真意が掴めず、僕は尚動けない。
困って目線を辻本さんにやると、見越したように「裏に置いているだろう、取っておいで。」と事務所の方を、親指を立ててくっと指す動作をした。
そのハンドサインは、その言葉に添えられた動作そのものか。はたまた、「やったな。」という意なのか。
続く
夢のなかで消して 高橋優美 @yukumi
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