第5話 『好意』

それから花純は、僕と行動を共にするようになった。他に友達は多くいたのに。


家の方向は違うのに、僕のおおまかな住所を聞くと、翌朝、その近くの自販機の前で花純は待っていた。「おはよう。」とだけ言うと彼女は満足そうに微笑んで、当たり前かのように並んで歩き出した。


休み時間になると決まって僕のところに来た。そして、当たり前かのように机にもたれて世間話をした。時には愚痴を聞かされた。


もちろん、図書室にもついてきた。そしてあの時と同じ席に座る。「おすすめは?」と聞くだけ聞いて、数ページ読んで寝た。寝顔はとても心地良さそうに見えた。


次第にそれは、僕らにとって当たり前になった。


花純は、他に多く友達がいたのに、僕と過ごすことを選び、

僕は、それまで友達がいなかったのに、花純と過ごすことを与えられた。唐突に。



そして、必然的に僕らは付き合うことになったのだ。



彼女と過ごす時間はとても楽しかった。僕が持っていないものをすべて持っているように思えた。それを妬めないほどに彼女は強く、繊細で、なにより美しい女性だった。


それまで恋愛なんて一切してこなかったけれど、僕は花純が好きだ、と思った。確かにそれは、好きという感情だった。





しかし、恋愛として、ではなかったのだ。







付き合って随分経ち、花純の家に遊びにいった時だった。


いつもと違う家の静けさ。


「今日はしばらく誰も帰って来ないの。」

そういった彼女の目は、僕を捕らえて離さなかった。


キスの先はお互い未経験だったため、探り探りで、時間をかけて愛撫した。


ふと自信がなくなる時があって、彼女の表情を確認しながら、もうそれはそれは丁寧に扱った。

いつもより赤くなった頬、漏れる声、紅がすっかりなくなった唇、花純という、彼女のすべてを、壊してしまわないように。


彼女は気持ち良さそうだった。


しかし、彼女を知るすべての人が羨ましがるであろう姿を目の当たりにしているというのに、僕は勃起できなかった。



僕は花純で興奮することができない。


親友として好き、だった。


それが現実だった。






続く

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