第14話 ヤベー奴らの集まり

「さて、ついに本番だ。一郎、練習の成果を俺の先輩にぶちかましてやれ」


「ああ、分かってる」


 球技大会本番になった。

 凪との練習は、遊佐川に頼み込んで見るとすぐにOKを貰えた。寧ろ、その方が成長はもっと早くなることもあるし良いかもしれないと言われたくらいだ。

 そして、凪は一生懸命練習していた。俺同様に筋肉痛だとかで涙目になっていたものの、それでも俺達の練習に着いてこようと頑張っていた。

 そのお陰で、パスのスピードも少しずつ伸びて、ドリブルもシュートも上手くなった。


「凪はどうしたんだ? あんなに練習に付き合ってたのに」


「いや、最後は凪はちゃんと自分一人の力でやりたいって」


 だから、朝少し練習しようと言ったが、断って1人で黙々と練習をしていたらしい。時々抜けている時があるが、根は真面目だ。


「なんだ、実は一郎よりよっぽど心が強いんじゃないか?」


「……否定はしない」


 俺だってその自覚はあるし。練習を見てても、何か必死さは見えるし俺とは全く違う。

 純粋に、何か憧れを掴もうとしてるように見えた。


「それよりも……俺もちょっとくらい女子に応援されないかなー……うへへへ」


「まあ、少なくとも3人は応援してくれる人はいるよ。それくらい、一郎は頑張ってたからね。それに、努力している人には誰かがついてくるんだ。多分、たくさんの人が応援してくれるよ」


「え……そこまで真面目な話でもなかったんだけど」


「知ってるよ。でも、応援してもらいたいのは本音だろう? その為に、勢い良く勝ち進んでいかないとな。油断してる先輩を一泡吹かせてやろう」


「分かった」


 初めはブロックの総当たり戦だ。そして、初戦でいきなり3年生のクラスと戦う。

 遊佐川の話によると、3年生はゆる〜く練習をやってきたチームで、大会が近いのもあって半分諦めムードらしい。

 だから、最後くらい全力でやって欲しいから最低限残っているプライドを奮い立たせて欲しいと思っているみたいだ。

 どんな人が居るのかと体育館に行くと、俺は拍子抜けした。

 3年生のバスケ部員はとにかくバスケが好きなのは分かった。その証拠に、勝手に空いてるスペースを使って試合をしてる。しかも、楽しそうにワイワイ騒いで。

 だが、技術はそこまででもない。遊佐川との練習に比べたらレベルの差は歴然だ。


「よし、一郎。――やってやろうぜ」


 ◆ ◆ ◆


「すごいなぁ……」


 私は、佐藤くんのバスケットボールの試合を見ていた。

 練習の頃から思っていたけど、佐藤くんはバスケットボールが凄く上手だ。

 3年生にも経験者がいるはずなのに、その人達を嘲笑うみたいに避けていく。


「あの子上手いねぇ。凪、あの子と練習してたんでしょ? どうだった?」


 陽羅重美ひらえみ。私の幼なじみで、学校もクラスもずっと一緒だった子が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。


「どうだったって?」


「そんなの男子なんだから決まってるでしょ?」


「うーん……。なんていうか真っ直ぐで、がむしゃらな感じだよ。重美の満足する答えではないと思うけど、私が思ったのはそのくらい……かな」


「ほんとに〜?」


 う……。痛いところを突いてくる。それだけしか思ってることは無いのかと言われれば、もちろん嘘。重美もそれくらい分かってるのだろう。それ以上は聞いては来なかった。


「凪ってあまり好きな人とか今までいなかったでしょ? あんまり話題にならなかったけど、影では地味にモテてたし気になるんだよね」


「ああ……そっか。でも、よく分からないんだよね。かっこいい……とは、思った」


「ほうほう……」


 面白い情報を掴んだとばかりに、重美は目を光らせた。


「じゃあさじゃあさ。今回が1つ区切りがいいんじゃない?」


「区切り……?」


「告っちゃえってこと!」


「……ふぁ!?」


 なにそれ! そんな突然!? 


「ちょっと待ってよ! まだ準備さえもできてないし、それに――」


「てことはそのうち告白する気ではいると」


「あ……。意地悪」


「ごめんごめん。でもさ、丁度いいと思わない? 1度偶然目にして話しかけて、それに一緒に球技大会の練習もして、仲も良くなったんだよ? これで結果残したら、それこそ大チャンスでしょ?」


「そ、そうなのかな……」


 でも、そんな急に言われると覚悟も何も決まってないし、頭が真っ白になって何も出来ずに終わるだけのような気がする。

 現に、今私は頭がグルグルと回ってわけがわからなくなっている。


「私が最大限手伝ってあげるよ! ね? どうかな」


「……それなら、まあ」

 

 やるだけやってみる。ダメならダメで別にいい。そこまで割り切ることは出来ないけど、でも確かに今無理ならいつまで待っても無理な気がする。

 うん、それなら――。


「――あーあ。あいつうぜーなぁ」


「確かに。1年のくせにスカしてやがるし。部活でも仕切ろうとするしな」


 そういえば、遊佐川くん佐藤くんにバスケットボールを教えてる理由って……。

 

「当たるとしたら決勝か……削ってやろうぜ。他の1年は並だし、遊佐川さえ潰せばこっちのもんだぜ」


「確かに。どうせ、俺ら意外まともなクラスないしな。アイツが上がってきたらボコしてやろうぜ」


 気味の悪い笑い声が聞こえてきた。なんで、こんなことしか出来ないのだろう。

 普通に仲良くしてればいいのに。嫌なことがあるなら無視すればいいのに。

 

「凪、あっちの試合見に行こうよ」


 重美が気を利かせて私を離れた場所に連れていった。もうちょっと佐藤くんの試合を見ていたかったと思ったけど、もうとっくに試合は終わっていて、遊佐川くんと佐藤くんがハイタッチをして喜びあってる姿が見えた。

 私はその姿を見て、何故かは分からないけど心がざわついた。

 このまま、何も無ければ良いんだけど。


 ◆ ◆ ◆


「良くやったな! 一郎のシュート、カッコよかったぞ」


「いやいや、遊佐川ばっか目立ってただろ。俺なんてほとんど何もしてないよ」


「良いんだよ。秘密兵器は最後まで取っておけって言うだろ?」


 俺たちはブロック戦を抜けてからも順調に勝ち上がり、決勝まで上がった。俺のクラスは比較的運が良く、殆ど同学年と運動部の少ないクラスばかりだったので難なく勝ち上がれた。遊佐川の体力も温存できているし、このまま進めば優勝は間違いなしだ。


「まじ、遊佐川よくこいつ育てたな。部活入ってないならウチ来ない? ぜってー活躍できるから」


「あー、俺あまり部活入る気は無いんだよね」


「ちぇー。ま、夏の大会助っ人とかなら良くね? 短期間でそれだけ出来るようになるなら、全然いけるって」


「……まあ、考えておく」


 今や遊佐川らカーストトップグループに留まらず、1年のバスケ部員や他のクラスメートの信頼も勝ち取ることが出来た。

 ここまで来ると、俺もクラスの一員なんだという実感も湧いてくる。


「遊佐川。そういや、決勝はどんなクラスなんだ? 2年で、しかも経験者いっぱい居るんだろ?」

 

 そう言うと、遊佐川は顔を顰めた。何か嫌な思い出でもあるのだろう。まあ、だいたい予想は着く。俺のクラスの他のバスケ部員も、皆同じような顔してるし。


「あんまり言いたい無いけどね。ラフプレーが横行する問題ばかりの代だよ。つい最近も、練習試合で相手チームと喧嘩になった」


「……へぇ。そりゃまたエグいヤツらだな」


「エグいどころじゃないよ。一郎も、全力は出して欲しいけど無理はするなよ。部員とか関係なく潰しにかかるかもしれない」


「……まあ、気をつけるよ」


 おいおいおい。ヤベー奴らと戦うのかよ。俺、もう少しよく考えてからバスケ選べば良かった。

 ……心配だ。

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