第3話 探偵ごっこ
昼休みになった。
さて、調査を始める……とはいえ怪しまれずに相手の情報を探るなんて、どうすればいいのやら。
俺はこの高校の大半の人が初めましての状態で、それは相手も同じだろう。そうなれば、久留米の趣味を知ってる人はほとんどいないだろう。
そうなると、他人から久留米のを聞くのは難しそうだ。
「あ、やっぱり昨日の人だ! ほら、凪。だから言ったでしょ?」
「い、いやでも万が一とかあるから……」
……まあでも、ある程度人となりくらい聞けたらいいのかもしれない。
その方が調査は捗りそうだ。
「ねぇねぇ。昨日カフェで会ったよね」
「ん……。ああ、そういえば昨日いたな」
「そうそう、私は陽羅重美。こっちは凪真白」
「よ、よろしくお願いします」
元気な女子に連れられて、少しオドオドしている女子が挨拶をした。
陽羅はポニーテールをゆらゆらと揺らしながら、楽しそうな笑顔を向けている。
対して凪は緊張してるような瞳で見つめていた。きめ細かなミディアムヘアが少し震えているような気もする。
俺ってそんなに怖いかな。
「佐藤一郎だ。よろしく」
「それで、なにか考えごとでもしてたの?」
「ああ、あそこのグループめっちゃ賑わってるよなと思って。あそこの人達皆仲良いよな」
「そうだよね。学校始まってすぐで仲良かったから、てっきり同じ中学出身なのかと思ってたけど、違うんだって」
へぇ……。つまり、どいつもこいつも社交性MAXなわけだ。まあ、久留米に関して言えばよくわかる気がする。
「まあ、久留米とかはお調子者だもんな。なんかわかる気がするわ」
「うんうんそうだよねー」
「そういえば、2人も仲良さそうだよな」
昨日もプライベートで一緒にいたわけだし。
「そりゃあね。私たち、幼稚園からの幼なじみだし」
なるほど……そんな人本当にいるんだな。
漫画とかではよく聞く話だけど、そうそう現実では聞かない。
まさかこんな人と出会うとは……。
「あ、もうこんな時間かぁ……早く次の時間の準備しないと……。じゃあね」
予鈴が鳴り、2人は席へ戻っていった。
それにしても、久留米の評価は誰もが認めるお調子者で揺るがなさそうだ。
そういう人は、結構飽きっぽいことが多いしこれといって趣味がなかったりっていうのも有り得る。
そうなれば、俺じゃ調べられることには限界があるんだよな。海星に手伝って欲しいけど、自分でやらなきゃ意味が無いと跳ね除けられる。
まあ、あくまで海星は俺を教育する身だから、本当に困るまでは極限手を出すつもりはないのだろう。
「調査は順調か?」
海星がボソッと呟いた。今のやり取りを聞いていたくせに、わざとらしい。
「行き詰まりだな」
「まだ初日だろ?」
「いや、やることがない」
調査とは言っても、変にストーカーっぽくなると俺の評価が地に落ちかねない。
そうなると、やれることは限られてくる。
「別にサッカーで合わせるのもありだけどな」
「それ、部に勧誘されるやつだろ。無理だよ無理」
「それもそうか」
まあでも、最終手段はそれになるのだろう。お調子者だけあって、サッカー部のエースになるだとか、そういうことをクラス中に聞こえるくらい大きな声で話していた。
だから、入部前でもサッカー好きというのは嫌という程わかる。
結局、調査初日は何も成果が無いまま放課後になった。
◆ ◆ ◆
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃん帰ってきたんだ」
「何それ、帰ってくんなってか?」
「違うよ。お兄ちゃんと買い物に行こうと思って」
買い物……疲れてるんだけど……しょうがないか。付き合わないと拗ねるからな。
「……じゃあ行くか」
「やった! ……ってなんか変な間がなかった?」
「気のせいだろ」
中2の仁奈。俺の妹だ。
人当たりが良く、友達はすぐできる。中学入学してからも友達を作り学生生活を楽しんでるという。
……羨ましい。
そんでもって、祝日はアイドルとしても活動していて中学でも話題になっているらしい。
くっそ。俺にもその才能を分けろ。
「お兄ちゃんの高校生活はどう?」
外に出て、道端を歩いていると仁奈が言った。
「ま、それなりだな。友達も1人できたし」
あのよく分からん変態実業家がな。まあ、別に変態じゃないけど。
「よかったー。お兄ちゃんって中学の頃1人だったし、高校に上がっても寂しい思いをしてないか心配だったんだよ」
「寂しい思いをしてたらどうするつもりだったんだ?」
「その時は……私が励ましてあげる」
仁奈というのはこういう人だ。
人を大事にする気持ちが強く、何事にも努力を欠かせない。
だからこそ勝手に人が着いてくる。
「年下に励まされるのは情けないな」
「それならお兄ちゃんが頑張らないとね!」
「ま、そうだな」
仁奈は気配りができる。
今も俺の気持ちを的確に呼んでご機嫌を取ってくれた。
アイドルではリーダーと言う訳では無いが、細かい気配りをしているのだろう。メンバーからの信頼も厚い。
人気者は、人のことをよく見ていてその人の為に動けるんだろうな。俺とは大違いだ。
仁奈と他愛のない話をしながら、ショッピングモールへ着いた。
楽しみながら買い物をするとなると、周辺はこのショッピングモールくらいしかない。
その変わり、県内でも有数の大きさを誇り、設備は整っていて何度来ても飽きない。
「仁奈は何買いに来たんだ?」
「友達の誕生日プレゼントだよ。ぬいぐるみを一杯集めてる人がいて、誕生会に皆で1つずつ買ってプレゼントすることにしたんだ〜」
「賑やかな誕生会になりそうだな」
誕生会……1回も経験したことがないな〜。そもそも、中学のクラスメイトは俺の誕生日を1人も知らないのではないだろうか。
悲しい。これ、同窓会も呼ばれないパターンだよな。
おもちゃ屋の一角でぬいぐるみを選ぶ。仁奈が選んだのは有名な気の抜けたクマのぬいぐるみ。
「大分無難なのを選んだな。ガン○ムとかもそこにあるのに」
「そんなのあげたら絶対変な空気になるよ〜。流石に買わないなー」
冗談のつもりだがマジレスされた。あのな、変な空気になるくらい分かってるよ。俺だって経験したんだし。仁奈の誕生日に。
「あ、お兄ちゃん。あの人お兄ちゃんと同じ制服だよ」
「……ああ。本当だな」
CDショップでなにやら音楽を聴いている学生。遠目で顔までははっきり見えないが、制服はよく分かる。
てか、顔が見えなくても声で誰だかすぐに分かる。
「……久留米か」
一人でCDショップに来るということは、音楽が好きなのだろうか?
だとしたらジャンルは何が好きなんだろう。バンドか? 分からない。
――だが、これは大きなチャンスだ。
久留米がもし本当に音楽が好きなのなら……ここで調査は終えられる。
「あ、あの売り場ってELE-が〜るの売り場だよね。いやー、やっぱり人気ですなー」
「ELE-が〜る?」
「そう! 最近有名になってきたユニットでね……。おお? もしや、あの人は結構なファンですな? よくよく見るとあのリュックはファングッズ……いい趣味ですな〜」
仁奈はアイドルの話になると突然口調が変わる。特に、自身の好きなアイドルとなればかなり分かりやすい。
「仁奈。結構なファンってどのくらいファンなんだ?」
「そりゃあ、ディープなところまでだよ。ライブは欠かさず推しをとにかく応援……熱烈だろうね〜」
「そうか……」
アイドルをしている仁奈本人がこれだけ言うのなら、そうなのだろう。
それにしても、久留米がアイドルファンか……意外だな。
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