第2話 恋愛はビジネス……?
「よく来てくれた」
「いや、よくも何も約束しただろ」
俺は海星との約束通り、駅の最寄りのカフェに集まった。
実行すれば確実に成功なんて、普通に考えれば信用ならない。ただ、うだうだ言っててもぼっちになるだけなら、勇気を出すしかない。
どうせ、失うものとかメンタルくらいだし。俺、メンタルとか自信なさすぎて一周まわって存在しないレベルだし。
「それで、実践するだけでリア充になるとか、それマジなのか?」
「大マジ……と言いたいところだが、運要素があるのも確かだ。とはいえ、無理なら無理でアプローチを変えるだけだから。その分、ある程度一郎には負担が掛かる。これは成長の為の犠牲だと思ってくれ」
海星はパソコンをカタカタと打ちながら言った。
「まあ、そのくらいなら」
楽に成功できるなら、俺はぼっちなんてやっていない。ちょっとした辛いことくらいなら目をつぶる必要があるのは問題ない。
海星は、コーヒーを1口飲んだ。
「んじゃ、早速始めるか。まずはこのスライドを見てくれ」
海星はパソコンをくるっと回転させて俺に見せてきた。
なるほど。内職をしてたわけじゃなかってのか。
スライドには自分と相手を知って、売り込みをかけるなどと書いてある。なんだよ、セールスか?
「なんだよ、セールスか? って思わなかったか?」
「なん……だと?」
心の声が漏れたのか……!?
「まあ、合ってると言えば合ってる。でも、惜しい。これは市場を把握して商品を売るってことだ。セールスの要素だけでは成り立たない。まあ、んな事どうだっていい。で、先ずは自分と相手を知るだ。本当なら自分を知るのが先だが……まあ、大体理解してるだろうし省略だ」
そう言って、スライドをめくる。
今度はでかでかと相手を知ろう!
と書いてある。それから、アニメーションも混じえながら次々に進んでいく。
「相手を知る。ここで一郎には探偵になってもらう。かっこよくね?」
「かっけぇわ」
「だろ? んで、調査のターゲットはこいつ」
そう言って見せたのは、スクールカーストトップのグループにいたお調子者の……こいつは……誰だ?
「久留米孝志。こいつの調査をする理由は分かるか?」
久留米……。相手を知るってことはお調子者ってのが鍵なのか?
「調子良いやつはノリで友達になれる的な?」
「まあ、大体正解だな。きっかけさえ出来れば友達になりやすい。それに、勢いだけはダントツだろうから上手く行けばトントン拍子でグループに入ることも出来る」
「なるほど」
「特にきっかけに限っては、かなり効果的だ。例えば……好きな物が合うとかな」
確かに、趣味の合う友達なら関係は続きやすい。なんとなく高校で会うからという友人関係よりも強い友人関係を作れるはずだ。
「なるほど、それを調査すれば……」
「そういうことだ。だから、調査して好きなことを探してくるのが目標。でも、これはあくまで1歩目だ。この方法で2人以上繋がらないと意味が無い」
「てことは複数回同じことをやるのか」
骨が折れそうだ。こんなことずっと続けるなんて、非社交的を地で行った俺には難易度が馬鹿高い。
「そう。グループ2人の友人にさえなれば、立場的にもクラス内で影響力を持てる。そんでもって、クラス内での地位が上がれば晴れてグループに馴染めることになる」
「すっげぇ! よくそんなこと思いつくな」
「ただ知識に当て嵌めただけだぜ。それだけなら誰だってできる。まあ当たり前のことをするのが大事なんだ」
当たり前のこと、かぁ。それを考えると、俺は当たり前のことが出来なかったってことなんだな……。いやー耳が痛いなー。
「ま、そんなところかな。先ずは調査からな。頑張ってくれよ」
「ああ」
ひと通り話し終えた俺達は、交流も兼ねてお互いのことを話すことにした。
海星は既知の通り実業家としての一面がある。自分が若い頃から活躍したいという目標があり、それでビジネスを始めたらしい。
今はほかの学校の知り合いなどで若者向けのオンラインコミュニティやアプリケーションを開発しているとのこと。
対して俺はただのぼっちだ。話せることなどほとんどない。好きなこともなにも無い。
俺と海星との間は天と地の差。話すことなど一瞬で終わる。
終わるはずなのだが、海星が質問上手なこともあり意外と長く話せる。それに、話していて楽しくなってくる。
これも海星の培ってきた技術なわけだ。そう考えると底知れぬ能力に鳥肌が立つ。
もしかしたら俺は、とんでもない人を味方につけてしまったのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「さて……そろそろ時間か」
「用があるのか?」
「ああ。当たり前だけど、仕事って忙しいんだ。まあだから、これからもちょっと仕事だ。俺の会社なら、残業とかないから」
「うわぁ……」
それなんてブラック企業だよ。そんなところでぜってぇ働きたくねぇ。
「ま、好きだからやってる事だしこれくらいなんてことないな。むしろ楽しいレベル」
「バケモノかよ」
俺は畏怖の目で海星を見た。だが、海星は気にせず笑った。
「かもな。一郎はどうする? 帰るか?」
「いや……俺はちょっと残る」
まだカフェラテが残っている。370円なんて、海星にとっては端金だろうが、学生にとってはそれなりの出費だ。
飲みかけで店を出るなんて出来ない。
「そうか、ならまた明日な。ここから頑張ってこうぜ」
海星は机に500円玉1枚置いて、カフェを後にした。
それにしても、ガラリと生活が変わったなぁ。中学の頃ももうちょっと本気出してたらと思うと、後悔が残る。
折角中学は運動部に入っていたというのに、その利点を何一つ生かせなかった。
「まあ、だからこそ今やるんだよな」
今変われなかったらきっと後悔する。このチャンスは何とかつかみ取りたい。
そう言い聞かせると、落ち込もうとしていた気持ちが少しずつ上がってきた。
俺は、残りのカフェラテを飲み干してさっさと会計を済ませた。
「……ん?」
「あ……」
外へ出ようとすると、丁度2人の制服姿の女子とすれ違った。
確か、あの2人は同じクラスの子だったはずだ。
だが、女子の方は本人だと確信が付かないのか、単純に興味が無いのか、目を合わせただけでそのまま何もすることなく店内へ入っていった。
人気者になってやるとか、そういうことしか考えていなかっただけあって全く気にしてなかったが、俺のクラスって可愛い人多いんだな。
「……帰るか」
引き止めたところで意味は無い。1回も話したことないし、さっきの反応敵地「誰?」って思われそうだ。そうなればこっちの身が持たん。
俺はさっきのことは直ぐに忘れて、家に帰ることにした。
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