第49話 ギルド 4
学院へ戻り、食事をしてから教室へと向かった。フレック先生に受注した依頼の報告書を提出すると、もう受注してきたのかと目を丸くして驚いていた。
先生は一通りみんなの受注した依頼を確認すると、アッシュにキラー・ビーの危険性を説明していた。討伐方法まで教えなかったのは、どうやら学院の教育方針として、先ずは自分で調べて、どうしても分からなかったら聞きに来るようにということのようだった。
ちなみに、先生は僕にはオークの危険性も何も言わなかったので、どうしてか聞いてみると、「いや、今さらエイダ君に説明する必要あるの?」と、わりと真顔で聞き返されてしまった。
確かに今さらオークについて聞くことはなかったので、「それは、そうですね」と笑って誤魔化した。
報告が終わると、各自必要なものの準備をすることとなった。依頼遂行の為に必要なものが学院の備品にあれば、使用申請をするといいと教えてくれたので、僕は生肉を包むための防水布と大森林の地図を借りることにした。
皆もそれぞれ必要な物の申請を行ったり、どのように依頼をこなすかの確認作業で忙しそうにしていたので、1人準備が終わった僕は早速出発することにした。
「じゃあみんな、僕は先に行くね!」
「おう!エイダなら何も心配ないだろうが、気を付けろよ!」
「頑張って!」
「行ってらっしゃい、エイダはん!」
そして、みんなに声を掛けられながら僕は教室を後にした。
大森林ーーー
僕は節約のために、馬車を使わず移動した。街道が整備されているだけあって走りやすく、30分程で到着することが出来た。
「さてさて、オークは池の近くに集落を作る習性があるから、表層にある池は・・・あった!よし、まずはここを目指そう!」
森の入り口で、学院から借りた地図を広げながら目標地点を絞り込むと、早速そこに向かう。実地訓練の時から考えていたのだが、単独の行動であれば闘氣を纏って木の枝を伝って移動した方が魔獣との遭遇も少ないと思い、今日はその移動方法を実践してみることにした。
「よっと!」
軽い掛け声と共に闘氣を纏い、手近な木の枝へ飛び上がると、枝づたいに飛び乗っていく。
「うん!これなら目標地点まで直線距離で移動できるな!」
下を歩こうとすれば、どうしてもウネウネした道を歩く必要があるので、この移動方法なら最短距離を突っ走れるのだ。
ただ、荷物が多いと枝などに引っ掛かる可能性もあるので、この移動方法は荷物の少ない時にしか出来なさそうだなと思いながら移動していた。
数十分程で当たりを付けた池に到着すると、意識を集中して魔獣の気配を探る。
(う~ん、やっぱり大森林だけあって魔獣は多いな・・・さすがにどれがオークかまでは判断できない・・・)
魔獣の気配はそこら中からするのだが、その中から特定の種族を見つけ出すような技術は僕に無いので、手近な気配から順々に確認するしかなかった。
(父さんなら個体名までハッキリ言い当てていたけど、今そんなことを考えても仕方ないか)
やはり水場の近くと言うのは魔獣が多いのか、感じ取れる気配を片っ端から確認していくと、ゴブリンはもちろん、コボルドやウォーウルフ、ナーガ等の低ランク魔獣がひしめいていた。
「う~ん、いざこうやって特定の魔獣を探すとなると、中々思い通りに見つからないものだな・・・」
低ランク魔獣の討伐も常駐依頼としてあるので、倒して討伐証明部位を持ち帰れば良いのだが、それで荷物を増やしてリュックにオークの肉を入れるスペースが制限されるのが嫌だったので、討伐せずに見逃している。
「・・・居たっ!」
お目当てのオークを見つけたのは、池に到着してから30分ほど捜索した頃だった。発見したオークは5匹で行動しており、体長2m程で、でっぷりとした体型を揺らしながら食料か何かを探しているようだった。
(5匹は多いな・・・あの大きさなら2匹で十分なんだけど、もう3匹となると持ちきれない)
なるほど、こういった場合の為に荷物運びのポーターを雇うものなのかと、討伐しても運びきれないオーク達を樹上から見下ろしながらため息を吐いた。
(次回からの要改善点だな。取り合えず今回は勿体ないけど、持てるだけにしておこう)
そう決めた僕は、腰の剣を抜いて両手で逆手に持つと、オークを見下ろす樹上の枝から飛び降りた。
『ザシュッ!!』
『ブモッ!』
上空からオークの脳天目掛けて、落下速度も利用して剣を突き刺す。頭から串刺しにされたオークは奇っ怪な叫び声と共に膝から崩れ落ちた。
『『ブッ!ブモー!!!』』
オーク達の中心地へと飛び込み様に一匹を仕留めると、僕の存在を認識したオーク達が警戒したような声を上げてきた。すぐさま僕を殴り殺さんと殺到してくるが、僕にとっては遅すぎる動きだった。
「悪いけど弱肉強食だからね、僕の為にその身をお金に変えてくれ!」
絶対相手には理解できないだろうと思いながら言葉を吐き捨て、殺到してくるオーク達を順々に討伐していく。端から見れば戦いとは呼べないだろう、まさに処理と言う言葉が相応しく、5匹のオークを倒すのに1分程で片が付いた。
可食部分の肉を痛めないように、全てのオークの頭を一撃で突いて絶命しているので即死だろう。倒す際に、あまり痛めつけて苦痛を与えてしまうと、肉が美味しくなくなると父さんから言われたことがある。そのため、食べられる魔獣の討伐については一瞬で終わらせてあげるように配慮しているのだ。
「さて、さすがに森の入り口にあった解体場まで持っていくのは大変だし・・・ここで処理するか」
5匹のオークの死体を前に、どこでお肉への解体処理をしようか悩んだが、この場でしてしまうことにした。本来は血の臭いが拡散しないように専用の場所か、水辺でするのが好ましいが、面倒だったのと、この表層で脅威になりそうな魔獣は居ないので気にすること無く解体しようと決めた。
(前みたいにCランク魔獣でも出てくれば、ついでに魔石が獲れておこずかいになるんだけど、そう上手くはいかないよね)
受注不可の魔獣の討伐でも、一応3分の1の値段として素材は買い取ってくれるので、Cランクの魔石ともなれば昼食分のお金は稼げるだろうと淡い期待を寄せていた。
当然そんな期待が実現するはずもなく、オークの解体は淡々と終わってしまった。途中コボルドやゴブリンが集まってきたが、面倒だったので殺気を放つと、そそくさと逃げ出していた。
「よし!こんなもんだな!!」
解体したお肉を防水布にくるんで、リュックにパンパンになるまで詰め込んだ。残ったお肉やオークの死体については、このままにしてもその辺の魔獣達が処理してくれるので問題ないだろうと考え放置することにした。
「時間は・・・もう13時か。少し遅くなったけど、ギルドに納品してから遅めの昼食にするかな」
学院から借りている懐中時計を見ながら、今後の予定を立てた。来るときにはスカスカだったリュックも、今はお肉でパンパンに膨れ上がってしまっている。その為、帰りは木の上を飛んでいくという移動手段は取れそうになかった。僕はパンパンになったリュックを気にしつつも、木々を避けながら最短距離で大森林を駆け抜け、街へと戻るのだった。
ギルドへと到着した僕は、まずはオーク肉の納品の為に買取り所へと入った。買取り所の中には誰もおらず、奥の方からは何やら作業しているような音が聞こえてきていた。正面には石造りのカウンターがあり、呼び鈴だろうベルがあったのでそれを鳴らして人を呼ぼうと考えた。
『チリンチリ~ン』
「すみませ~ん!」
『あいよ~!ちょっと待ってくれ!』
僕の声に反応したようで、奥から野太い男性の大声が響いてきた。少しすると、カウンター奥の扉からのっそりと一人の男性が現れた。
「待たせて悪かったな。ちょっと作業中だったからよ」
そう言ってニカっとした笑みを浮かべてくるのは、体格の良いスキンヘッドの大男で、腕を捲った場所から覗く褐色の肌には、おびただしい傷跡が見られた。最も印象的だったのは、エプロンが血塗れだった事だ。いったいどんな作業をしていたのか気になってしまう。
「納品か?だったらカウンターにその品物と依頼書、個人証を出してくれ」
「あっ、はい」
血塗れエプロンのおじさんに言われた通り、リュックからオーク肉を取り出してカウンターへ置くと、依頼書と個人証をおじさんへと渡した。
「オーク肉の納品か。量が結構多いな。坊主、品物を確認するぜ?」
「ええ、どうぞ」
依頼書を確認したおじさんは、包んでいた防水布を剥がしてお肉を確認していた。
「中々良い状態だな。坊主、この解体は本職に頼んだのか?」
肉の状態を確認していたおじさんは、僕に確認してきた。
「いえ、自分で解体しました」
「ほぅ、自分でか!相当経験があるな?」
「ええ、これでも小さい頃から両親が討伐した魔獣を解体していましたから」
「・・・なるほどな!肉の状態も良いし、重さは・・・全部で87㎏だな!」
おじさんがカウンターの下の辺りを見ながら重さを伝えてくれた。どうやら石造りのカウンター自体が重さを計る仕組みになっているようだ。おじさんは依頼書に完了印を押して、お肉の重さを記入していた。
「そう言えば、坊主は見ない顔だな。最近この街に来たのか?」
「いえ、僕はこの街にある学院の生徒で、今日から依頼を受けられるようになったんですよ」
「何っ!?ってことは、君は貴族の子供さんなのか?」
僕が学院の生徒だと聞いて、僕の個人証を焦ったように見つめながら、急に口調を正してきたおじさんに苦笑いしてしまった。
「違いますよ。僕は平民の子供です。両親が頑張って入学させてくれたんですよ」
「そ、そうか。いや~、あの学院に通える奴なんざ、貴族関係の子供しか居ないからな。驚かすなよ」
おじさんはスキンヘッドに手を置きながら安堵の表情を浮かべていた。やはり貴族に対しては言葉遣いを気を付けないと、不敬ととられるようだ。
「ま、お前さんは将来有望そうだし、これからも頑張るんだぞ!俺はエドワードってんだ」
「僕はエイダと言います。よろしくお願いしますエドワードさん!」
「おうっ!よろしくな!」
エドワードさんは男臭い笑顔を浮かべながら右手を差し出してきた。僕がその手を取ると、ゴツゴツとした職人の大きな手で力強く握手された。そして、達成確認が済んだ依頼書と個人証を返して貰い、受付へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます