ACT07 そうして気付きを得る二人 SIDE:妹


 そんな、二年五組の教室にある悶々を余所に。

 一年三組の教室では、


「おはよ、えいちゃんっ」

「おはようございます、由仁ゆにちゃん」

「ねえ、詠ちゃん。……昨日帰った後はけいセンパイ、どうやった? 怒ってなかった?」

「昨日、由仁ちゃんが叩いてしまったこと? お兄様は特に、気にする素振りは見せてなかったけど……」

「そうなん? せやったら、よかったわ~」

「お兄様も言ってたけど、あまり気にしないで由仁ちゃん。あれは私もお兄様が少し言い過ぎだと思ったし。でも、昨日の通り、お兄様も自分が悪いと思ったらすぐに謝れる人だから」

「ん、なんとなくわかるよ。慧センパイは、とっても真面目で誠実な人やって。……そんなところが、なんだかカッコいいなって、思っちゃったり」

「? 由仁ちゃん?」

「……聞いて、詠ちゃん」

「は、はい」



「うち、慧センパイのこと……好きになっちゃったかも知れない」



「――――」

「あ、やっぱり、ビックリした? そりゃ、出会っていきなり叩いちゃったのに、こんなことになるのは変や思われるかも知れないけど……」

「え……いや、その、確かにビックリしたけど」

「? 詠ちゃん?」

「由仁ちゃんがそういうなら、私の中のこの気持ちも多分、同じ」

「え。どういうこと?」



「私も……源斗げんとお兄さんのこと、好きかも」



「――――」

「えっと……やっぱり、ビックリするよね? ごめんね?」

「あ、うん。謝ることはない思うけど……えっと、詠ちゃんは何でゲンさんを……いや、この場合は、うちが最初から言った方がいい? どうなん?」

「落ち着いて、由仁ちゃん。私も今、自分で気付いてビックリしてるから」

「……うちも。大体そんな感じよ」

「……だよね」

「…………」

「…………」

「改めて訊くけど、詠ちゃんは、どうしてゲンさんを?」

「えっと、笑わないで聞いてね?」

「うん」

「昨日、私を負んぶしてくれたとき、とても安心したの。背中がとっても広くて、力強くて、なんだか全部預けたくなっちゃって……男の人はずっと苦手だったのに。こんな気持ち、初めてで」

「あ~~~~~、それはわかるかも。ゲンさん、昔から力強かったし、うちも何度も負んぶされてるし」

「……いいなぁ」

「ふふ。詠ちゃん、そんなに羨ましいなら、またいつでもゲンさんに負んぶされてもええんやで」

「う、うん。また、お世話になるかも。そういう由仁ちゃんは、お兄様の何を好きになったの?」

「え? ……え、笑顔、かな」

「おお……」

「ハンカチで顔拭いてたときに、至近距離でアレやられて、コロッとなっちゃって」

「……確かに。お兄様、あまり笑う機会がないけど、笑うときはとても優しいから。由仁ちゃんの気持ち、わかるよ」

「せやろ? 詠ちゃんがそういうなら、確信できたわ。うち、もっと慧センパイのこと笑わせたいっ」

「それを考えるとお兄様は手強いと思うけど、大丈夫。私は由仁ちゃんを応援するよ」

「うちも、詠ちゃんのこと応援するっ」

「ありがと、由仁ちゃん」


 そんな、淡い気付きを得た二人の少女であり。

 そして、


「……でも。どっちも上手くいって、その、結婚とかした場合、どっちがお姉さんになるんかな」

「け、け、け、結婚!?」

「詠ちゃん、そんなに赤くならんとっ。あ、あくまで、もしもの話っ!」

「ああ、うん……ビックリしたけど、確かに、どうなるのかな。お互いを姉と呼ぶことになる? それとも……うーん」

「…………」

「…………」


「…………詠お姉ちゃん」

「――――っ!?」


「ああっ、詠ちゃん。冗談、冗談やからっ! 顔どころか全身赤くならんといて!? うちまで恥ずかしくなるからっ!」

「そんな、ボソッとしてるつもりで、ちゃんと聞こえる不意打ちは卑怯だよ、由仁ちゃん……」

「ごめん! 謝る! 堪忍!」

「あ、謝らないで、由仁ちゃん。逆に、その、響きがとっても良かったというか……」

「ほ、ホントに?」

「本当……」

「はぁ……ビックリした。詠ちゃんにドン引きされたか思うたわ」

「ど、ドン引きなんかしないよ。……それに、その、本当にそうなるかも知れないんだから」

「え?」


「だから、安心して? 由仁お姉さん」

「――――っ!?」


「……予想していたよりも、ずっと赤いよ、由仁ちゃん」

「だって、そんなん、反則やん……昨日、由仁ちゃんは由仁ちゃんって言ったやん……」

「そうなんだけど、やっぱり、この流れとなると言っておかなきゃって」

「でも、イイ。とっても、イイ! やばいっ!」

「それについても、私も同じ気持ちだよ」

「だから。いつか、本当にそうなれるように。がんばろうね、詠ちゃん」

「は、はい……へへ、えへへへへ……」



 そんな風に。

 兄達の葛藤とはかけ離れて。

 妹達は、とても仲良く甘ったるい会話をしていたという、そういうお話。

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