第八十九回「石」 空っぽの石
バン、と乱暴にドアを閉め客が帰っていった。大きくため息をついた質屋の店主は、仮面の笑顔を外して机の上を片付けていく。看板猫は、毛繕いをしながらくわりと欠伸をする。
「勿体ないにゃぁ。あれもそこそこ価値がある宝石にゃのに」
「飾りにはなるけど、中身は空っぽだもの。私は興味ないから」
物に籠もった思い出に価値を見いだす質屋に持ってこなければ、いい値がついただろうに。そういう意味では、あの客は勿体ないことをしたといえる。
店で買っただけの、硝子ケースに入れたまま部屋に置かれていた石。
幼子が道端で拾った、いつも肌身離さず持ち歩く平べったい石。
この店で価値があるのは、後者なのだ。
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