第七十五回「届く」 勿忘草は覚えている

毎年、この日に届くのは花の鉢と手紙が一通。

差出人の名前はいつも同じだけど、私はこの人が誰か知らない。会った覚えはないけれど、毎年欠かさず手紙をくれるのだから、マメな人に違いない。枕元にある箱には、この人から届いた手紙がたくさんしまってある。もうすぐ溢れてしまいそうだから、新しい箱を買いに行かないと。手帳に忘れないように書き付ける。

「今年も、綺麗に咲いているのね」

青い小さな花が窓から入ってくる風に吹かれて揺れている。手紙に書かれていた通り、日当たりがよく風通しのいい窓の近くに置く。その花を見ながら、手紙を読む。

顔を知らぬ誰かの手紙に笑っている女性に、窓に置かれた花は静かに寄り添っている。

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