第七十二回「運」 気分屋の森

「いやぁ、旅人さんついてるねぇ」

森を抜けたところで、森を管理している守人に話しかけられた。乗っていたバイクに跨がったまま、旅人はその訳を問うた。

「いやなに、この森はちょっと気難しくてね。機嫌が悪いとすーぐ悪戯をしてくるんだ」

守人によると、昨日まで森はざわざわと煩かったらしい。風もないのに木が揺れ、獣達もひっそりと息を潜めて出てこなかったのだという。

確かに長い森だったにも関わらず、鳥の一羽も見かけなった。謎が解けてよかったと男は礼を言ってバイクを走らせた。

その影が見えなくなってから、守人は溜息を吐く。

「いやほんとに。最後に人が通り抜けたのは、かれこれ一月も前のことだからね」

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