第七十一回「眠る」 待ち人来るまで
古本屋の店主は、ボロボロになった表紙を撫で、脇にある本の山の一番上に移動させる。そこには既に十数の本が積まれていた。その上にぴょいと乗った細身の狐がくわりと欠伸をする。
「眠っちまったのかい?」
「あぁ、そのようだ。ここに来てから長いからそろそろだとは思っていたけれど」
本は読み手がいなくなれば、役目を果たせない。読み手の元で育った付喪神は、人の思いがなければ存在を保てない。
そうして実体を保てなくなり、眠りにつく本は少なくない。新たな持ち主と縁を繋ぐのが店主の仕事ではあるが、いつでも誰でも縁を結べるかと言えば、そうではない。できるのはただ、待つことだけだ。
「また、お会いできるのを楽しみにしているよ」
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