300字で綴る物語

暁 湊

第七十回「服」 本日の質入れ品、瀕死のコート

「また貴方ですか」

質屋は呆れた顔で男を出迎えた。男は嫌味などどこ吹く風で、手にしていたコートをカウンターに置く。

「また、頼むよ」

「……わかりました。よくもまぁ、毎回こんなにボロボロにできますね」

質屋は目の前におかれたコートを検める。肩口は破け、裾は解れ、背中には穴がいくつも空いている。このコートには数々の死線をくぐり抜けてきた思い出が詰まっている。それに価値を付けるのがこの質屋の仕事だ。

何度も何度もボロボロになり、その度に質屋に持ち込まれるこのコートは最後はただの布きれになるのではないか。そんなことを考えながら、査定を済ませ金を渡す。

「ありがとう。また頼むよ」

質屋は通い詰める店ではありません。

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