第10話 聖女と魔女と地下農場


 公都のみんなのあらゆる傷や欠損を治してしまった故に、私は聖女アーニャと呼ばれていた。

 まあ私はチヤホヤされていた。

「アーニャ様が街にいらしているぞ!」

「アーニャ様がうちでお茶の葉を買ってくださったぞ!」

「アーニャ様が儂らの商店街にいらっしゃった!?」

「私達のアーニャ様!ありがとうございます!」

「アーニャ様のドヤ顔かわいい!!」

 私が街へ繰り出すだけで大騒ぎで照れながらも、満更でもない気分で日々を過ごしていた。


 最初のうちはね……


 徐々に徐々に明らかに普通ではない雰囲気に変貌していった。

「う〜ん……姉さん少し別の意味でやりすぎちゃったね……」

「やっぱり?でもみんなを治したのは正解だったでしょ?私も私もってみんな治してほしくて殺到したかもしんないし……」

「うんそうだね……それは仕方ないけど、というか皆を治したのは別の意味で凄いけどね……アーニア姉さんでも出来ないよ……」

「でもどうしようかね……?治療院も街ももう行けないよ……」

「う〜ん、確かにね。大して悪くもないのに患者……というか信者が殺到しちゃうし街だとね……」


 チヤホヤされているうちは良かった。

 リナとの会話からも察しの通り、現在は私をまるで神かの様に祀ろうとする人が増え始めた。治療院には寄付金がたんまり入ったり街にいけば皆が跪く。

 主に元重症者にそういった信仰具合が強くみられ、その風潮を作りそれはすぐに伝播されていった。


 私が治したのは患者が殺到しない様にってのもあるけど……

 ――明日を笑って生きてほしい

 ただそれだけだった


「ほとぼりさめるまでひきこもるしか……」

「ふふ、ほんと綾子姉さんみたいだね、でもほとぼりが冷めると思う?」

 ――やっぱり!?

「そうだよね……どうしよ……」

「それなら地下農場にいってみない?あそこなら基本的に私の部下ばかりだから気は楽だと思うよ」

「ほんと!?いく!」



 ってなわけで!地下農場へ!


 領主邸宅ノルくんちの裏へ300メートルくらいの場所にそれはあった。

「リナ……これただの建物じゃん?宿舎?」

「そうだね、宿舎だけど農場はここ地下にあるよ、って言ってもアーニャ姉さんのおかげで地上に農場つくれちゃうし地下農場は閉鎖していくんだけどね」

「へ〜そうなんだ〜、でも私に農業なんか出来るかな?」

 やり方全然わかんないや

「へ?あ〜アーニャ姉さんには中に現れる敵の調査や駆除をお願いしようと思ってたんだよね」

「あらやだ私ったら!そうだよね」

 なんて話しながら宿舎の中を案内してもらっていた。

 建物の中ですれ違う人達は確かに街の人達みたいに信仰心はなさそうだけど


「リナ……みんなびっくりしてない?」

「あ〜、確かに失念してたかも……姉さんと私同じ顔だもんね」

 いきなり上司が2人に増えたようにみえるのかな?

 リナもこの建物の中ではベールを外している故、素顔なのだ。


「リナ様!いらしたんですか……!?リナ様が2人!?」

 あれ?この人どこかでみたな?

「ちょうどいい、紹介するよ。私の側近のアダムだよ。アダム、この人はアーニャ姉さん。同じ顔なのはまあ前の世界でもたくさんいたしわかるでしょ?」


「あ、その三編みは……!様でしたか!ご無沙汰しております!」

 ――え?知らないけど?それになんか私の名前の呼び方なんかおかしくなかった……?

「あ、アダムは治療院来たときに姉さんとあったね」

「いえ、あの時はリナ様しか視界に……いえなんでも」

「よろしくねアダムくん」

「その呼び方だと……やはりあのアーニア様でしたか……まあそうですよね」

 どの?なにがそうなの?やっぱり名前の発音おかしくない?

「姉さんと農業で敵が出るところ調査するからこれから潜るね」

「では私も……」

「君は仕事があるでしょ?」

「そうですね……ではお気をつけて」

 アダムくんはしょんぼりして去っていった。なんとなくだけど察したよアダムくんの気持ち。


 さてこれから地下潜るべっ!て時にどこからともなく聖女が4体現れた。全員私と同じ顔だ。

 ――あれ……1人増えてない?


「やっと義体が手に入ったわね」

「……もしかしてアインス?」

「そうよ~、この3人に調整してもらったのよ。ノルくん製じゃないのは残念だけどね。」

「文句……いわないの……」

「そうだよ〜アインス贅沢いわないの」

「私たちもメンテギリギリだから同じナノヨ」


 リナと話してる時も全然話しかけてこないし変だなとは思ってたけどなるほどね。

「これでようやくアインス姉さんとも対面でお話できるね」

「ふふふ、そうね〜!私も自分で食事ができるわ、楽しみね」

 メンバーも増えたところで早速地下農場へ潜っていった。


 

「リナ……、ここ地下なの?」

「地下だよ」

 ――え……だって

「空もあるし太陽もあるし……」

 地下に潜ったら外に出た。

 わりと長い階段を降りたつもりだったからこの光景には驚きだ。

「これは空間術式の応用で地面から上の空間と地上をバイパスして繋げてるの。広さは20キロ平方メートルってくらいかな。」

「へえ〜、なるほどね!」

 確かにそういうことなら簡単そうだね。異空間収納よりも難易度は低い。


「魔科学ってこんなこと出来るのね早く綾子に会いたいわね〜」

「そうネ〜」

「わたしも〜!」

「わ……たし……も」

 綾子って子は愛されてるのだろう。


「暴食もいるはずなんだけどな〜、あの子みつからないんだよ」

 そう語るのはゼクス

 確かリナが『暴食の子』と呼ばれていたね。

「リナのママってこと?」

「違う……くわないのかな?リノア姉さん最後にみた姿は確かに私と同じだった……ってゼクス姉さん!リノア姉さん来てるの!?」

「あ〜、リノアじゃなくリノアを反映した暴食かな?喋り方はあんなんじゃない筈だけど……」

「暴食の木の女神……なんで私と同じ……まあいっか……」

「そうだよ〜気にしない気にしない」

 暴食ねえ……私が暴食ってこともワンチャンあるのでは?まあいっか


「それでね、アーニャ姉さんにみてもらいたいのはあそこ」

 そういいリナが指で示す


 そこに見えるのは穴


 地面にほった穴ではなく空間に黒く暗い空間が開いていた。

 これは……


branch of originate始まりの枝……に似ているね……」

「ゼクス姉さんわかるの?」

「うん、沢山見てきたからね」

「ここから敵が出てきてね……そんなに強くないけど稀にそこそこ手こずるレベルのが出て来たりするの」

「あの女神達秩序と規律……ではないだろうけど……または取り込まれた残滓か?う〜ん……この先になにが繋がってるかわかればだけどこの義体からだじゃねえ……」

 っと聖女達が私の方をみる。

 ――え、なに……

「アーニャ、この中ちょちょいと調べてよ〜」

 ――え〜

 おそらく私は露骨に嫌そうな顔をしてるだろう。だってなんかこの穴気持ちわるいんだもん

「生身じゃないと権能発揮出来ないんだよ〜サポートはしてあげるからやってよ〜」

 エーテル抵抗値があるから生身じゃないとうまく魔力を練りだせないって感じかな?

 そもそもやり方がわからないなんて考えていたけど不思議とやり方を思い出していた。

「仕方ないな〜、まあリナからもらった仕事だしね」

 じゃあやろっかなんて考えてると


「え、姉さん達なんでみんな横にならんだの?」

 それはね……


「「「「「原初に繋がる枝の暮明の穴よ〜♪とっとととっとと♪滅んでしまえ〜♪滅んでさらけ出してね〜♪」」」」」

「え、姉さん達の踊りかわいい」


 私達のおまじないはその穴の黒く暗いものを滅ぼし、中を露わにするものだ。

 その空間の闇は消え、中は白く光る。

 きっとこれは外側の世界に繋がっている。

 そして奥に誰かがいる。

「もしかして暴食が通ってきた穴なのかしら……?」

「アインスの予想通り多分そうだね、でも閉じてないのは不可解だよ」

「そうよね……公都の魔力災害もこの影響かしらね?」

「可能性はあるね」


 十中八九これが原因だろう。

 白い空間が広がるだけ、ここからは魔科学術式でなんとかなるだろう……

 中に届く範囲の索敵エーテルソナーを展開し生物、精神体の類いを探した。

 ――さすがに広いし時間かかるね……あとはオートで……30分くらいはかかりそうかな?

 ちょうど3時だね、それじゃあ……


「オヤツタ〜イム!!!レイワ堂チョコレート!召喚!」


 チョコレートを出した瞬間、聖女達の顔色が変わる。

 それは驚愕から始まり徐々にニヤニヤに変わっていった。

 みんなチョコ好きなんだね~

「わ〜!おいしい!流石わかってるね!まだあるの?」

 大人しいフンフが饒舌に喋りだした。まあ沢山あるけど限りはあるしなあ

「ないしょ」

「まあ、一緒になっちゃえば私のものでもあるしね」

「フンフめっちゃ喋るね」

 ――どう言う意味?

「姉さん……あの……その……ポテチまだある?」

 ポテチ好きだね、泣いてたねそういえば

「ちょっとまってね」


 おやつタイムで気が緩みっぱなしで索敵を忘れていた。

 リナの為にポテチを出してお皿を出したと同時に……


 それは穴から現れ、ポテチを皿ごと強奪し貪り始めた。


「パリパリカリカリ!パリパリカリカリ!おいしい〜……う、うぅ……ヒッグ、グス……おいしいのじゃ〜!うわ〜ん美味しすぎるのじゃ〜!!」

 ポテチを奪われ呆然とするリナ。

 いきなり現れたのじゃっ娘に警戒するアインスとフィーアと私。


「暴食……?」

 ゼクスが問う。

「パリパリパリ……ごくん……『静寂』が沢山いるのじゃパリパリパリ……あ、もう無い……」


 プラチナバイオレットの髪色をしたその子は食事を終え顔を上げた。

 髪の色は違えど私達と同じ顔をしていた。

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