第9話 聖女アーニャ爆誕
バタン
ドアが閉まる音で私は目を覚ました。
リナが様子を見に来たのだろうか?
「ふぇ〜……朝か……」
昨日、ベッドに横になってからの記憶がない。テント暮らしをしていた反動かベッドってこんなに沈むんだ〜体験をして直ぐに意識を手放した様だ。
上半身をお越し朝陽の差し込む部屋を見渡す。
――あれ?カーテンひらきっぱだったのかな?まあいっか
「しかしデカい部屋にデカいベッドだね……」
ここはリナの部屋の直ぐ隣の部屋だ。
誰も使ってない部屋だから隣使えば?って言ってたし使わせてもらった。ノルくんも適当に空いてる部屋を使ってと言っていたし大丈夫な筈だ。
――筈だ
そう願うかの様なセリフを吐くのは私の眼がとあるものを捉えたからだ。
視線の先にあるのは毛布の膨らみだ。
大きいベッドである為、私より距離はあるがそこが膨らんでいる。まるで誰かがいるかそこで寝ているのかの様だ。
――まさか……
リナは誰も使っていない部屋とは言っていたが、それはリナにとって昨日まで誰も使っていないという認識なだけかもしれない。大きな部屋、大きなベッドであることから例えば偉い身分の家主が寝る部屋という可能性もある。。そもそも昨日私が寝た時、誰かいたか見てないし暗がりだったしそもそも睡魔に襲われ禄に確認もせずベッドに吸い込まれた気がする。
則ち……
――同じベッドて寝ちゃった!?うわぁあ……うわぁあ……確かに!?確かに!?『一緒に暮らそう』なんて言われて私も少しだけ……ほ〜んの少しだけドキドキしちゃったよ!?でも当日に同じベッドで寝ちゃう!?
「こ!子供できちゃう……!」
「……なにいってるのカシラ……?」
「子供……?」
「ハハハ面白いこと言ってるね〜」
――おや?
私にソックリな人達が3人ほどもぞもぞと毛布の中から出てきた。
――な〜んだ……
毛布の膨らみの大きさ的に男性かな?にしては少し大きすぎない?とは思っていたが私と同じ背丈の子が3人分だった。
「おやおや?少し残念そうなのはなんでかな〜?」
この口調はゼクスだろう。
「い、いや、そんなことないもん」
「ほんとに〜カシラ?」
――こいつら……
「まあいいじゃん、それにしても睡眠必要だったんだね貴方達」
彼女達は生物ではないのだ。
「へ〜、わかるんだ。確かにこの
今は生きている人間にしか見えない。凄い技術だなあとは思う。
「でもノルくんがたまにメンテしてくれないと直ぐにダメになっちゃうの、ヨネ〜」
作り物の身体故に維持も大変なのだろう。
「……ちょっとまって?メンテってことはその身体を弄り回すの?」
「そ……そそそ、そうだよ……」
「服は全部脱ぐよ〜」
――わ、わわわ……やっぱりラッキースケベ野郎どころじゃなくただのえっちな人だ……
「ノルくん見損なった……」
「あらあら……この反応、やっぱり綾子なの?カシラ〜?でもノルくんには球体関節人形にしか視えてないのヨネ……って聴いてない」
「ズィーベンだと思うけど……ちょっとわかんなくなってきたかも……でもまだツムギも生まれてないしね」
3人が何やら話しているが知ったことか、そう憤慨し頭に血を昇らせていた。
私とそっくりな子達の裸を弄り回すなんて!なんてえっちなんだ!頭の中でそんな感情がぐるぐるとループしていた。
「まあまあそんなプリプリしてても始まらないから、朝ご飯食べにいこう?」
確かに空腹で感情が乱れていたのかもしれない、そう考え昨日ご飯を食べた食堂?の様な場所へ向かった。
既にリナとリリス、ミーシャが席に着いていた。リナもベールで顔を隠している。聖女達も同じく顔はみえない。少しするとガイナスおじさんが料理を持って来た。格好も以前は盗賊の様で髪も髭もボサボサだったのに今は小綺麗でナイスミドルといったところだろうか。エプロンは付けているが貴族みたいだなと思った。
ノルくんかリナが話してくれたのだろう。それぞれ挨拶をした。
さて私も席にすわるべ、なんて思って座ろうと椅子を引いた時に
「フィーアにフンフにゼクスと来て貴女はなんて言うんだ?」
――……やっぱり?私ってわからない?
「それにしてもアーニャ起きて来ねえな、もしかしてうんk……おっとあぶねえいや、便所か?」
――あぶないもなにも大して変わんないよ!
「ガイナスおじさんいつもそればっかり!ご飯時にやめてよ!」
「ほんとですよお父様」
「流石にやめなさい」
「う……わ、悪かったよ……ってガイナスおじさんって呼んだか?あんた……それにその服、アーニャのと一緒だな」
「私がアーニャです」
「いやいやいや……って……まじか!?」
「魔女様本当なのですか?」
「それが本当なんだよね」
「声が魔女様に似ている気が……」
「気のせいじゃないかな?」
ガイナス一家3人にはそれとなく認識阻害が私に掛かっていたことを伝えた。リナと聖女達も同じ顔であることは伏せた。食堂に来る前に聖女達にそう言われていたからだ。
「まじか〜、そんなこともあるんだな……まあ飯が冷めちまうから、まあいっか!食おうぜ!」
「食べる〜!!」
「はは、その反応はやっぱりアーニャなんだな!もう違和感なくなったわ!いっぱい食え!」
「「「「「いただきま〜す」」」」」
ガイナスおじさんのお料理は美味しい!!
ちょっと日本食的な大豆系調味料の味も恋しいけどね、それは後々ノルくんに聞いてみよう。
「あれ?そういえばノルくんは?」
「ああ、兄貴ならついさっき王都に向かったぞ、領都の復活やらなにやら報告しなきゃいけないしな、他は俺たちに丸投げだがなハハハ!」
――あ、なるほど〜そりゃ公爵様で黒騎士様だもんね、色々大変なんだろうな。
「あれ?この街があんなことになったあとノルくん連れてくるよりもガイナスおじさん達がこの街の状況王都の人達に伝えたらよかったんじゃないの?」
「いや〜な……それが出来たら良かったんだけどな?なんでか王都に辿りつけねえんだよ……今までに俺たちたけじゃなくて何回も挑戦してたんだけどな?」
――へえ、それは何かしらのなにかが働いてるとしか思えないね……なにかはわからないけどさ
「そっか……ノルくんいっちゃったのか……」
カレーが食べたかった……
「むう、また一人で帰るのは危ないじゃない……カシラ」
「せっかく私達が来たのに意味ないじゃんね」
『確かに心配ね』
「ドラ……イが途中……でノルくんと合流するって……連絡あった」
「まあそれならいいけど……」
聖女達が過保護すぎる件について……
――ラノベか!!
アインスも一緒になって心配しているし……
――まあいっか
「それよりも、これからどうしようかなあ……此処に来たのはいいけど……」
私は何をして生きていけばいいのかわからない。
「それならアーニャ姉さん、一緒に治療院で働きましょう?なんとなくだけど回復系の術式使えるよね?」
「使えると思うけど……治療院?」
「そう、この都の人間は怪我をする人が多くてね……」
「え……怪我人が多いの?」
「うん……外からは魔物は入ってこないんだけど地下農地から魔物みたいなのが出るの、それが最近頻繁に出てくる様になってね、農地部隊には護衛はつけてるけどやっぱり怪我しちゃうんだよ」
「地下農地?もしかしてダンジョン化ってやつ?」
ファンタジーの定番ダンジョン化、そんな発想しか出来なかった。地下農地は食料自給の為だろうか?
「う〜ん……なんだろうね?なにかはずっと調査中だけどわからずじまい。外の魔物とも少し違って私が結社時代に戦ってた『侵略者』に似てるかな〜?そんなに強くはないけど」
――侵略者?
「うん……わかった!治療院で働く」
なんとか就職出来そうだ。
でも私は回復術式を使えるだろうか?
術式自体は人それぞれが研究して独自性の強いものだった気がするけど私は使えるだろうか?記憶もまばらでよく覚えていないがガーデンを見る限りは『細胞の治癒能力を極めて活性化する術式』『コンバートの応用で復元する術式』
――この辺りの術式が使えないだろうか?
そもそもオマジナイを使った方が早い気がするけどなんとかなるだろう、割と気楽に考えていた。
◇
ご飯を食べ終え治療院にやってきた。
治療院はリナとアインスがやっているが治療院は表向きの運営で実際は魔科学術式を扱える後世を育てる為の施設らしく、実際にリナとアインスの生徒?弟子?が治療院の職員として働いている。
ちなみにピエールおじさんも職員であり今日から復帰らしい。リリスは生徒ではあるがミーシャの補佐の為に職員ではなくたまに臨時で治療の仕事はする程度らしい。
「お、おはようございます!新人のアーニャです!よ、よよよよろしくお願いします!」
「フィーア、ヨ〜」
「ふ、フンフ……」
「ゼクスです!よろしくね〜」
聖女達も暇なのか一緒に来ていた。
「王都の聖女様達に?魔女様からさっきお話は聞いていたがアーニャなのか?顔が違うぞ?」
そういえばピエールおじさんもだったね……前はどう見えていたのだろう?
「これが私なんですよ〜よろしくね」
「おう、よろしくな!前とは違った感じの美人だな!」
――やっぱりピエールおじさんは違うね!
「うんよろしく〜!!」
挨拶も終わり、職員の大半は入院患者の治療をするそうだ。来院患者は普段あまりこないらしく来たらみる感じらしい。元街医者ことピエールおじさんが元々は来院を担当してたみたいだ。
ただ普段は暇らしいけど最近は忙しいらしく私が連れて来られた訳だ。
実際来院や急患以外はすぐに仕事が終わるみたいで、それ以降はリナによる魔科学教室を3時くらいまでやって1日が終わるようだ。
早速、私担当の患者が来た。
「カクカクシカジカで足をひねっちゃって……」
「じゃあ治療しますね」
地下農地で働いていて普通に足首を捻挫したようだ。
これならフラッピングエーテルの流れを操作して伸びてる靭帯を縮めたらいいのだ。私はそう考えオマジナイをした。
「痛いの痛いのとっとと滅んでしまえ〜♪」
「えなんすかそれ……あ、あれ?凄い!全然痛くない!ありがとうございます!」
「いえ、お大事に!次の方〜」
「お、お腹が痛くて……」
「じゃあ痛いの痛いのとっとと滅んでしまえ〜♪」
「か、かわいい……あ、治ってる!ありがとうございます!」
――ふ〜、あれ?もう終わり?
「リナ、もう患者さんこないの?」
「そうだね〜、聖女達も手伝ってくれてるから朝一番の患者さんは終わりだね〜、あとはピエールが待機していれば大丈夫かな」
「お任せください魔女様」
ピエールおじさんが魔法使えるって言ってたのは、ここの職員だからなのだろう。そんなことを思い出していた。
後のことはピエールおじさんに任せて、リナの執務室で駄弁っていた。聖女達もいる。
「ぷは〜、仕事のあとの1杯ってやつはうまいね〜」
「姉さん、この麦茶おいしい?これ地下農場で栽培した大麦なんだよ」
「へ〜」
――地下農場気になるなあ、今度いってみよ〜
「仕事っていっても10分くらいで終わっちゃったね、そういえばリナ入院患者さん達ってすぐ治らないくらいに重傷なの?」
「そうだね、失明だったり腕が欠損したりとかなんだけどね、私の手持ちの結社ポーションを薄めて使ってるけど治りがよくなくてね……。自分の体ならコンバートの応用で腕がなくなろうがなんとか出来るんだけどね、自分じゃない誰かは難しいよ」
欠損を直せるほどの技術がないということだろうか?私の異空間収納にも結社ポーションはないみたいだ。
「魔女様急患です!!地下の敵にやられたみたいで重傷で俺らじゃどうにも出来ね〜!!」
ピエールおじさんや他の職員が慌ててリナを呼びにきた。急患の様だ。
私達は急いで執務室から治療部屋に向かった。
――……これは酷い
「痛……もう助か……らない……んでしょ……?もう……」
コロシテ
その女の子は上手く声を発する事が出来ないみたいだが、口はそう言っている様に見えた。
両手首から先が無くなり、目も潰れて出血量が酷い。
「アダム!君がいながらどうして!」
「リナ様……もうしわけございません……なんとか倒せましたが今回は異常に強くて……」
「後で聞くよ!今は農地に戻って警戒して!」
「は!リナ様!」
アダムというお兄さんが来てなんかまたどっか行っちゃった!
リナが慌てて止血をして結社ポーションをおそらく原液のまま彼女へ飲ませた。
一口分ではあったが血は止まり、傷口は修復された様だ。一命は取止めたけど彼女はそのまま気を失った。
――結社ポーションすごい……
けど……、両手首を失い片眼を失ったこの子は目を覚ました時にどう思うだろう。ネガティブなことを考えていたみたいだしなんとか出来ないだろうか?
『いまの私じゃ部位を治すような権能も使えないしこれが最善だったのかしら……』
「私達も義体だから同じかな……」
――聖女達でもダメなのか……
なんとか出来ないだろうか?此処にいるみんなもそうは考えているがいま、出来ることはこれ以上ないのだろう。
ただ……ガーデンを確認した時にみた『コンバートの応用で復元する術式』を再確認するとこの術式は自分自身用みたいだ。
――でも改良したらいけそうな気も?
「ねえ……あ……の……アー……ニャ」
『貴女、ちょっといいかしら』
「アーニャ、アーニャ……ちょっとズィーベン聴こえてる〜?」
聖女達が誰かを呼んでいるみたいだが今はそれどころじゃない。
「え〜と……コンバートの応用を自身じゃなくて外にする場合は……え〜と他人の魔力抵抗係数を割り出して、私のと同期して……この場合は……あ、ここと繋いで私の精神体をプロテクトしつつ私じゃない方の……ぶつぶつ……テストのシミュレーションを実行」
『ズィーベン?貴女は生身なんだから貴女の権能で……』
「で!出来た!リナ!私、治せるかも!」
「姉さん本当!?」
「この術式がね~ここがこうでね――」
◇
「え、この難解な術式はなに?でも治せるなら……お願いします!この子はリリス姉さんの幼馴染みなの……だから余計なんとかしてあげたい……お願い!姉さん!」
「うん!任せて〜!」
『だから、貴女が権能を使えば……』
――コンバート復元術式改 発動
光は眠っている彼女を包み込む。
この光は素粒子フラッピングエーテルだ。
私の精神体とパスを繋いでいる為にこの子の体は擬似的に私の身体と認識している。私の身体ではないが、私の身体と認識している為にコンバートの応用で自己復元が可能だ。
光は彼女の欠損部位を包みこみ元の姿に戻っていく。復元後は私との精神体パスを切断して完了だ。
――他人の精神体とパスを繋ぐからか疲れるなあこれ……もっと簡易に改良しないとなあ……
『あら、権能も使わずに治しちゃったわね……』
「姉さん!ありがとう!」
「いやいや、それほどでも……あるかな〜……でもちょっと疲れちゃった〜」
「あとは任せて姉さんは休んでて」
「うん、ありがとう」
――ひと仕事したし冷えた麦茶でも飲むべ!
執務室に戻って麦茶を飲んで一息ついた。聖女達も一緒だ。
「なんで権能使わなかったの?」
ゼクスに問われた。権能もなにも……
「私、そんなの使えるの?前にもアインスに言われたけど」
「……あ、自覚ないの?カシラ」
「滅んでしまえ♪のオマジナイのことだよ?」
――え、あれ?でも……少し痛い程度のものしか治せないんじゃ?
「わかんない……でも治ったしいいんじゃん?」
「まあそうだね、権能を高出力でむやみやたらに使うと『キョウセイリョク』を呼びかねないし術式ベースでいいんじゃないかな?」
「そうネ~、まあアレだけの事が出来るなら貴女も聖女ってことでハハハ」
――私が聖女……?
「……えへへ聖女か~」
入院患者もその日のうちに治したのだけど
「姉さん、流石に全員はやり過ぎたかも……みんなが自分も自分もって思ってしまうよ。料金も1日単位で一律だしね」
「そっか〜……良かれと思ったんだけど」
「でもみんな喜んでたしいいんじゃないかな?それにまあ目の届く範囲、手の届く範囲でやっていこう。それも時間の問題かもしれないけど……明日もがんばろ?姉さん」
――激務の予感……!でも他にも治せるなら治してあげたいなあ
そういいリナは警戒強化で農地に向かった。
私も行こうかと思ったけど私はまだ新人だし帰って休んでとのことだった。
確かに物凄く疲れていたしありがたく素直に従った。
その夜、この世界の淡く蒼く滲みながらも檸檬のように黄色い月を見上げてもの思いにふけていた。
今日の治療も異世界来たしなにかしなきゃくらいの考えだったし、そもそも私は聖女と呼べる様な性格ではないだろう。
でも今朝みた重傷の子をみてから考え方が少しだけ変わった。血をみてもあまり同様はしなかったけど私と同じくらいの子が不自由を背負って生きていくのは可哀想。治せる人がいたら治してあげた方がいい。
そう考えてしまった。
無論、自己満足の域なのかもしれない……それでも困っていた人達が笑って俯かずにいられるなら私は満足だ。
そうは考えていても反面は存在する。
恐らく私が施した噂は広がり「私も」「俺も」「自分も」治して欲しい、と人々が考えるのは明白だ。昨日と同じ術式を行使すれば私にも限界が来るだろう。そして全ての人まで治療は出来ず今日治した子は妬まれ、せっかく治したのに俯むいてしまうかもしれない。
出来るのならば、誰もが俯かずあの高く昇る月を見上げていて欲しい。
◇
翌朝、私は大幅に改良した術式発動し領都全体の人の怪我、疾病を大中小問わず一度に全快に
結果、私は「聖女」と呼ばれる事になった。
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