第7話 シュテュルプナーゲル公爵領 Part B
魔女と聖女の力で領都の中へ入ることが出来た。
――ようやく帰ってくる事が出来たんだな……
現在この都市もとい領都が正しい状態ではないことは仕方ないが魔女と聖女には感謝せずにはいられない。
「あれ?アーニャのやつどうしたんだ?」
後ろをみると彼女は都市内に入らず立ち止まり門の外でキョロキョロとなにかを探しているようだった。
アーニャだけ位相をこちらへ合わせられなかった、ということだろうか?
彼女は外で独り言をしている様に視えなくもないが恐らく魔女と聖女と話をしているのだろう。
門の中に入ったからなのか位相のズレに踏みこんだからなのか、彼女たちの会話は聴こえない。
門から入った場所には魔女や聖女らしき人物は見当たらなかった。別の場所から通信を入れているのだろうか
「アーニャのやつ、なにしてんだ?やっぱりうんこか?」
ガイナスはそればっかりなのだがリリスに足を踏まれていた。娘は強し。
「お父様そういうところ直してください。それに多分、あの子だけ位相をズラせなかったのでしょう……」
誰もアーニャに話かけることが出来ないし、アーニャもこちらを認識出来ない。彼女だけ取り残されてしまったようだ。
「リリス、魔女に頼んでまた俺を外に出られる様に出来ないか?」
「え、あ〜……あの子、外で1人ぼっちですもんね……私も外に出ようかな?魔女様、聴こえますか?魔女様?あれおかしいですね?」
魔女に通信が入らないようだ。
その直後、膨大な魔力の爆発を感じた。まるで魔力災害の様な、まるでこの惑星を終わらせてしまうかの様な……それぐらいの魔力量だ。
その瞬間、声が聴こえてきた。
「位相のズレよ〜♪とっとと〜♪とっとと〜♪滅んでしまえ〜♪」
門の外をみれば彼女はなにかの術式を行使し何故か踊って歌っていた。
そして彼女の周りから無数の光が織り成し、都市全体を覆う。
「綺麗な光……」
リリスはそう囁いた。こんなに膨大で純粋に非破壊的な魔力の権現をみたことがない。
これだけの魔力は破壊的な術式や現象でしかみたことがないからだ。
まるで花火を見ている様な、流れ星を見ている様な、天の川を見ている様な光景を何十倍にも増幅させ観る者を浸らせる、そんな優しい光だ。
光が治まると彼女は両手を腰にあて、鼻高々に不敵な笑みを浮かべていた。
所謂ドヤ顔だ。
「わあ〜!ファンタジーな街だ〜!人がいっぱいいる〜!」
ドヤ顔を解き目を輝かせ彼女は門へ近付いてくる。
どうやら入れる様だ。さっきの光は恐らく……
『都市のみんな、聴こえる?あ〜、魔女です。アーニャという人が都市の外から位相ズレを修復してくれました。これで皆も都市の外へ出いり自由になったよ。』
「私そんな大したことしてないし……!えへへ」
満更でもなさそうに彼女は照れていた。
「ワルくん、私一人になっちゃうところだったよ……でもなんとかなって良かった〜」
「ああ、良かったな、それにありがとう君のおかげでこの街を元に戻すことが出来たようだ」
「いや〜、一人で野営とか嫌だしね」
「もしあのまま君が入れなかったら俺がまた戻って一緒に野営してたぞ?」
「……――ワルくんのエッチ、またラッキースケベ狙ってるでしょ」
――くっ……!
2回も事故とはいえ覗いてしまった故に信用がないようだ。
「あら……聖女様の言うとおり……」
「やっぱり……王都にいるっていう聖女様達も逃げだすって噂よ」
リリスやリリスの母親ミーシャである、それにヒソヒソとあちらこちらから聞こえる。ガイナスも黒騎士の噂をしていたが風評被害もいいところだ。アーニャの眩い術式もあってか門前には人集りが出来てしまっている。ヒソヒソからザワザワになって来ている。
まあ今はそれよりも
「みんな、この都市全体を探す事が出来ず20年も不在にしてしまってすまない……そして今までこうも変らない街を維持してくれてありがとう。それと……ただいま」
仮面を外し、みんなにそう告げた。
「おかえり!」「まってたぜ!」なんて口々にして歓迎してくれる。20年も放って置いたから恨まれているのではないか心配だったが少しだけホッとした。
「わ!仮面外れるんだ!……て、あれ?ワルくんの顔……どこかで?あれ?」
――仮面は流石に外れるだろ……
やはり俺を知る人物なのだろうか?それにあれだけの術式を使い、月詠剣術もこなすなら俺が知っていても良い筈なのだが、彼女の事を全く知らない。
「アーニャ、俺は此処の――「ノルワルド・フォン・シュテュルプナーゲルだよね?兄さん?」
改めて自分を名乗ろうとしたけど誰かが被せてきた。この声は魔女だろうか?
『久々に会えたわね、今回は初めましてだけど』
――アーニャと同じ様なローブにアーニャと同じ……背丈の子が
少しだけアーニャと見比べて視線を行き来させてしまった。
「ワルくんってワルくんじゃなくて、ノルくんってこと?」
「そうだよアーニャ、その人はノルワルド」
『ノルくんよ』
何故魔女や聖女は俺を知っているのだろう?疑問には思ったがここに住んでいたのならば知る機会もあるだろう。
「貴女は……」
「私が魔女です、いや……魔女じゃないし」
『私が聖女よ』
「へ〜!改めまして!アーニャです!ローブ私のに凄い似てる〜!って、聖女はどこ?」
ベールを頭から被っている為に顔が見えないが一人にしか見えない。
「これは私の身体、聖女はなんていうか……私の中で生きてるというか……」
知っている、聖女は幽霊の様な存在だ。
精神体、魂、身体から成り立つのが生物だが彼女達は精神体だけの存在だ。
最初、彼女達に出会った頃は心霊体験かと思ったのは内緒だ。
『私はアインスとでも名乗っておくわね』
聖女はそう名乗った。そうなのだろう。
王都の聖女はツヴァイ、ドライ、フィーア、フンフ、ゼクスと名乗っていた。みんな誰がフィーアを名乗るかで揉めていた……
今は義体に入ってそれぞれ活動している筈だが……――追ってきてないよな?
「まあここでもなんですので領主邸宅へ行きましょう」
――懐かしいな、やっと帰れるのか
◇
街はお祭りの様に騒いでいる。
俺の帰還と異空間化した領都の解放、2つを祝ってだ。
都全体が朝まで祭りだなんだの大騒ぎをするらしい。まあ今日くらいはそんな気分で俺も過ごしたい。
そんな祭の中、
クロノやピエールは奥さんや娘に引きずられて帰った。
ぶっちゃけると飲み会みたいな感じだが……
「改めておかえりなさいノルワルド様、代官としてこのミーシャしっかりと領都を維持して参りました。」
「ありがとう、色々と世話をかけるがまたよろしく頼む」
ミーシャ、ガイナスの妻であり俺の補佐だった女性だ。
「うちのリリスも手伝ってくれているんですよ?この子優秀すぎて誰に似たんでしょうふふふ」
「お母様……恥ずかしいです!」
親バカだが娘が可愛いのだろう。幼なじみの母親もそういえば娘を溺愛していたし母親とはそういう生き物なのかもしれない。
「話の流れ的にワルくん領主様だったの?もぐもぐ」
「ああ、そうだ」
「へえ〜、若いのにすごいねもぐもぐ」
まあ若くはないんだが……
「ガイナス達はなぜ外に出ていたんだ?話から聞くに2年前からか?」
「ええ、旦那達はノルワルド様を探しに、仕事を全て私に丸投げしてね!自ら志願を……ただ2年成果がないまま途方に暮れていたところ偶然ノルワルド様と気付かず合流、そして今に至っています」
だから此処に戻ってきた時に気持ちの整理とか言ってたんだな……ミーシャに威圧されガイナスはなにも言えないようだ。
「一応、魔女様に作ってもらったマジックバックに色々と入れて行商はやってたんだよ……」
「まあ、それはそれ、それに見た目が盗賊すぎる」
「う……」
――尻に敷かれているな
「まあ、ガイナス達、ありがとな。」
「兄貴……」
それと
「魔女に聖女アインスと言ったな?」
「お陰でみんなが助かった。礼を言いたい。」
「いやいいよ、兄さんそれに私と姉さん……いや聖女でやるしかなかったから」
――兄さん!?
兄さんと呼ばれたがそもそも魔女は初対面だ。
「魔女様と聖女様にはリリス達の面倒を見てもらったり」
「ミーシャの子がエレナやセレナにソックリだと思ったら大きくなったらリリス姉さんになるんだもんね……」
「魔女様、私の事をまた姉さんと呼ぶのはやめてください!」
「まあ許してよリリス姉さん」
「もう……」
まあ魔女は年齢問わず兄さんや姉さんと呼びたがる……そういう子なんだろうと思うことにした。結局、魔女と聖女アインスが何者なのかは有耶無耶にされた。
魔力災害についてだが、魔物とは違う実体のない何かが襲って来たらしい。魔女と聖女曰く『敵のキョウセイリョク』らしいが空間の位相をズラシやり過ごした後は消えたらしい。警戒はした方はいいがどうしたものか
「アーニャさんの術式とオマジナイ?があるからアーニャさんがこのまま此処にいてくれたら対策としては万全なんだけど……」
魔女がそういうが、アーニャはどうなんだろう?俺は嫌われているかもしれない為にどうもお願いするのが気がひける
「いいよ!私、記憶喪失だけど私に出来ることがあるなら!それに住む場所も欲しいしね」
「良かった〜!アーニャさんよろしくね!」
「俺からもよろしく頼む」
「ガッテンです!」
――ガッテンって
状況報告もこれくらいにして今日は寝るかなんて考えていたが……
「兄貴!助けてくれ!明日から書類仕事が……!!」
「アナタ!いい加減気持ちを切り替えなさい」
「それは仕方ない……がんばれガイナス」
「そんな……」
――この邸宅の料理長兼ミーシャの補佐なんだからしっかりやってくれ。
「さて私も宿とか探さないとな〜ワルくん宿屋とかないかな?それに……お金ないからなにか物を売りたいんだけど……」
「ああ、それなら
「……ワルくんのエッチ……」
「そういうところですよノルワルド様」
「そういうところだよ兄さん」
『そういうところよ、言い方が悪いわ』
――く……!
確かに「領主邸宅」のつもりでは言ったが「俺の家」と発言したのはダメだったのかもしれない。
「まあ私も領主様である兄さんに無断でここに住んでるけどね?ミーシャが許可してくれたし、なんならガイナス一家もここに住んでるし」
魔女がフォローしてくれた。
「あ、なら私も此処に住まわせて貰おうかな?いいの?」
「ああいいぞ、一緒に暮らそう」
「!?……あ、あ、あ、あの!不束者ですが……ワリュくん!よ、よよよよろしく」
「ノル兄さん本当にそういうところ」
『なんなのよ……もう』
アーニャは何故か魔女の部屋に今日は泊まるらしく連れて行かれた。女子会というものでもやるのだろう。
さて仕事は山積みだが久々に俺も自室で過ごそう。
「自室でゆっくりしようと思っていたわけだが?」
――なぜお前たちが既にいる?
「この義体のメンテどうするつもりだったの〜カシラ?」
「ノ、ノノノ……ノルく……ん勝手に出てっちゃ……ダメ……私達いないと……危ない……」
「やっほ〜ノルくん!」
王都にいるはずの聖女のフィーア、フンフ、ゼクスだ。
「ノルくんの後つけてきたらようやくこの場所がわかったしつい入っちゃった!ドライとツヴァイは結界維持でお留守番だよ〜」
ゼクスがそう言った。
――また脱走とか噂されてしまいそうだな……
でも今日は気が抜けたからか凄く眠い
「俺は寝るから……」
「「「そういうところ……」」」
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