第3話 急襲!王都の刺客?Part B

 リリシュタガルト王国――

 島国であり火山帯国であるこの国は天災といったものと常に隣りあわせだ。

 ちょうど大陸のプレートが複数重なっているこの国は地震や火山の噴火が昔から多い――それでも古から人はそれらと共存し地震くらいでは滅ぶほどでは無くなっていた。


 この世界には魔力というものが存在し、魔術というものが発展している。

 その恩得は結界を築き災害から民を守ることも可能、噴火などもある程度、予見し惑星のエネルギーを逃がし緩和させるなどし災害とも共存し、暮らしを営んできた。

 そのエネルギーが温泉を生み出し娯楽を与え、大地に恵を与えてくれる。

 島国で山が多いこの国も食料難とは無縁であった。


 「――であった」と語る通り、現在はひっ迫した状況でもないが昔に比べると食料自給率は落ちている。

 その原因は20年前に魔物と呼ばれる、狂暴な生物が出現しこの世界を蹂躙しかけた。

 俺と聖女たちで一応は根元たる――そうだな仮に『侵略者』と呼ぶとしよう、魔物を生み出した『侵略者』を鎮め、そこそこの平穏は保たれた。

 しかし魔物は本来の生物の生態系を塗り替え、人類は共存せざるおえない状況となった。魔物も愛玩魔物、冒険のパートナー、食料や家畜として扱われている。

 また魔物という驚異から農地としていた土地も減らすことしか出来ず、食料自給率は下がっていた。


 そして魔物の出現以降――『魔力災害』と呼ばれる事象が発生し、従来の火山の噴火並みの脅威となっている。


「兄さん、西100kmほどの距離に魔力災害と思われる歪みが発生したって本当?」

 俺を兄さんと呼ぶのは国王ノレイン・リリ・シュタガルドだ。

 血がつながっているわけでもないのだがこの国の人達には兄扱いされている。


「そうだなそれにこの方角だと公爵領だしな、少し気になるから見てくるよ。」

「兄さんが直接!?魔術師団も派遣しようか?」

「いや、一人でいくからいいよ」

「ん、まあそうだよね……行軍すると逆に時間かかるしね」

「じゃあ、行ってくるが彼女達には言うなよ?」

「ははは、そうだね~……でも脱走されたらこっちも止められないよ?」

「ん~、まあそれは仕方がない。じゃあ後は頼むよ、陛下」

「はい!いってらっしゃい!」


 王都から西へ100kmほど先にあったのは大きなクレーターだった。

 

 ――隕石などが衝突した類ではなく何かしら魔力などを障壁にし、そのまま地面に激突したかのような感じだな、これは……魔力を行使する生物だろうか……


 この近くの生体反応、魔力反応を調べる為に術式を展開した。

 ――索敵術式『ソナー』


「男が3人に女が1人だけか……妙な組み合わせだな。それにこの女の魔力……」


 ――侵略者の様な脅威でなければ良いが……

 懸念は潰した方が吉という判断で後を追う事にした。



 漸く彼らに追いついた

 中年の男が三人に女の子が一人という構成だった。特に手配書に出ているわけでもないし盗賊でもないだろう。この国は少しでも疑いがあればマークされるし盗賊ではない、――とすれば、まあ冒険者の護衛がどこぞの令嬢を護衛している、といった感じだろうか?

 しかしの女の子の着ているローブには見覚えがある。

 が着ているものに似ている……が別物だろう。雰囲気もどことなく似てはいるから焦りはしたが、どこからどうみても別人だ。

 似ていると感じるのは服装などのセンスからだろうか?女の子のファッションはよくわからない……


 この子は何か途轍もない魔力の術式様な何かでコーティングされているのが気になった。解析すら出来ないレベルのなにかに覆われている。

 ――防御術式か?それとも認識を隠蔽している?


 もしも『侵略者』であることを悟られない様にしているのであれば……、そう考え監視を続行することにした。懸念は出来る限り潰した方が良いからだ。


「く……うまそうだな……」

 男が料理をする、それをあの子は美味しそうにたいらげる。

 ――どうしてそんなに美味しそうに食べるんだ……


 自分の持っている携帯食料など所謂レーションである。

 これで栄養面は万全だが、正直美味しくない。

 何日か見ていると「俺にも分けてくれないかな?」という発想が沸々と沸いてくる。


 それに女の子は何も無いところから刀を出し、魔物を造作もなく狩りだした……。

 ――空間術式の応用か?興味深い

 まあ多少剣術を嗜んでいれば狩れるくらいの魔物ではあったが、あの剣術は本家の月詠式に似ている……あの子も日本からの転移者なのだろうか?

 しかも彼女の腕前は免許皆伝よりも更に上をいっている。

 門下生はある程度把握はしていたが

 それにあの刀は……元いた世界の俺の家うちの本家にあたる月詠ツキヨミ家に納刀されている『月詠ノ叢雲ツキヨミノムラクモ』にしか見えない――が、アレが月詠ノ叢雲ツキヨミノムラクモだった場合、古刀だし魔物を切り裂くには強度が足りないしレプリカか酷似した別の刀だろう。


 でも、――月詠家の関係者かもしれない、というのは少し嬉しい気持ちにさせられる。


 途中、彼女の水浴びを誤って見てしまったのは事故だ……。バレてはいないだろうし大丈夫だろう、墓まで持っていこう。

 ――次は配慮して事故を防ごう……



 数日後、それは現れた。

 漆黒の龍王とも呼ばれ、侵略者亡き現在、人類にとって最も脅威な存在である。

 別に刺激をしなければ放置でも良かったのだが、彼女の濃厚な魔力に引き寄せられたのかだろうか?正気を失っている。

 狙いは……彼女の様だ。


 生態系バランスの為にこの龍は放置していたのだが、流石に討伐しなければいけないようだ……――そう考え身を乗り出したその時、


 ドサ――


 龍の首は切断され、首から下の身体も少し遅れて倒れた。


 ――は?俺や聖女ならまだしも……いや、聖女ならギリギリか危ういか?


 彼女は、無邪気にドヤ顔を決めていた。

「アーニャ、なんでこんなの狩ったりできるんだ?聖女じゃないのか?」

 ――聖女、ではないだろう、多分。それに彼女はどうやら記憶喪失らしい。

「どうやら私には剣術の嗜みがあった様で、この通り今日は大きな大きなトカゲを狩ることが出来ました!ふふ〜ん」

 ――トカゲ……――か、爬虫類が変異したものだし間違ってはいないだろう。

「いやドヤ顔はわかるんだがな……、これブラックドラゴンだぞ?剣術嗜んでいたのは昨日までは猪倒したりしてたからな……それでも驚いてたんだぞ?剣術嗜んでたレベルじゃドラゴンは倒せないからな?」

 一般的にはドラゴンを倒せるレベルの人間は少ない。でも彼女は圧倒的技巧で首を斬りおとした。ほぼ、瞬殺だ。

 ――何者なのだろう?



「それに前から思ってたけど刀なんか、どこから出したんだよ……」

「これは異空間収納といって……う〜んあまり思い出せないなあ〜、なんだっけ?」

「もしかして空間魔法ってやつか?噂には聞いたことあるが……もういい!悩んだら剥げる!」

 とても興味深い術式だ――俺も戦闘特化している人間ではなくどちらかと言えば学者に近い人間だ、実に興味深い!!


「じゃあこれ解体しましょう?多分、美味しいんですよね?」

 ――ああ、とてもうまいぞ!解体が終わったら余るだろうし、残りは少し有効活用させていただくとしよう


 なんて考えていたのだが

「……アーニャ、空間魔法でなんとかならないか?」

「――う〜ん、お肉も骨も内臓も全部収納?」

「おお!肉が消えた!」

 ――あ……

「アーニャ凄いな!これ出せるのか?」

「骨だけ出ろ?」

 どうやら出し入れが自由の様だ

「アーニャ、凄いな!」

 その後の事は耳に入って来なかった……、食欲という三大欲求とも言われる大罪にいつの間にか支配されていた俺は落胆していた。

 ――肉は余らずに持ってかれるからだ……


 ドサッ!


 その音で我に返った――そうだ、そもそもハイエナみたいな意地汚い残飯処理的な発想はよろしくなかったな、俺としたことが……


 ――って「篠ほまれ」の10kg入りだと!?

 長い事、見てはいなかったが見間違いではない様だ。

 あれは俺が住んでいた県の特産の米、「篠ほまれ」お徳用パッケージだ。

 いい感じに水分を吸いみずみずしさもあり、サッパリでありパッサリで肉にもカレーにもあう米だ。

 この世界にも米はあるがあの「篠ほまれ」には到底及ばない。

 そもそもこの世界の米はジャポニカ米の様でジャポニカ米と少し違うのだ。


 それに

「やった〜!!ポン酢だ〜!!」

 ――ポン酢だと……目玉焼きにも肉にもよく合う万能調味料!!幼馴染にもポン酢を布教してたなあ、そういえば。あの子は元気にしていたのだろうか?とはいえ随分と昔のことだからなあ……時間が経ちすぎている


 ポン酢、肉、篠ほまれ――、これは素直に頭を下げて、お金も支払ってでも……

「あとはサラダがあればなあ……」

「すまん、野草の知識俺たちにないんだわ」


 ――サラダだな!?サラダが必要なんだな!?


 交渉材料があれば、頼みやすいというものだ。生憎、野草については詳しいし採って洗い処理をしておこう。


「お前ら、こっちも出来たぞ」

 ――出来たのか?しまった!早く姿を現し手伝いでもしておくんだったな!!

「うわあ、ドラゴンの肉ってこんないい匂いすんのか〜」

 辺り一面に香ばしい、食欲を掻き立てるソレが漂う。魔物が集まったりしないだろうかと考え、結界を念のために薄っすらとかけた。

「アーニャ、目が輝いているな」

「いただきま〜……」

 ――まずい!晩餐が始まってしまってからでは頼みずらくなってしまう!?

 どこかプライドというものが邪魔していたのだろう、もう少し早く声をかけていればと後悔と焦りで無闇に飛び出そうとしてしまったが、なんとか踏みとどまる……が、


 ザザザ……!ザザザ……! 


 怪しさ抜群に音を立てしまい、警戒させてしまったのか、男達は剣を抜く。


 ――声かけずれーーー!!姿現しずれーーー!!


 俺もまだまだだな、なんて考え物陰から見るとあの子だけは何もなかったの様に箸を進め

「お、おいし〜!!」

「アーニャ……、なんか気が抜けるな」

「冷めちゃいます……、なにもして来ないのであれば……ご飯冷めちゃうし食べてた方がいいです。1人みたいですし物騒な気配もありません。おいし〜!!」

 嗚呼、なんて美味しそうに食べるんだろう。そんな美味しそうに食べると思わず唾を呑んでしまった。


 ――ゴクリ

 普段はそんな音でさえ鳴らさずにいたであろう。

 しかし肉、ポン酢、篠ほまれである。

 仕方ないだろう、そうだろう、そう考えプライドなど全て捨てる決心をし、その身を晒した。


「来るぞ!!」

「まさか王国の黒騎士か?」

 ――そうだ、しかしそれどころではない……肉が、無くなってしまう!


「まさか!アーニャが目的か!?」

 彼女が何者かは少し気になるが、篠ほまれ……――なんでそんな美味しそうに食べるんだ!美味しいからだろう!そうだろう!篠ほまれだもんな!?


「なんだ……俺たちも飯にすっか……確かに殺気がねえしアーニャをみてると確かに飯が勿体ねえ……アーニャ!!食い過ぎだぞ!!」

 そうなのだ、彼女は些か食べ過ぎた、まあ彼女の所有する肉だからいいのだけど?少しくらい残してくれ……、食欲のせいか多少自分勝手な思考になっている自覚はある。

「あ、ごめんなさい!私の分はまた自分で焼きます!」

 まだあるのか?

「まだ食うのか?もぐもぐ……うめえ!!黒騎士突っ立ってちゃわかんねえぞ!」

「おいガイナス、黒騎士だぞ……大丈夫か」

 黒騎士だからって別になにかするわけでもないだろう……少し反応に疑問を感じた。でも黙っているのは確かに良くない。


「サラダに出来る野草を沢山持っている、それにお金も払う……俺にも食わせて欲しい。篠ほまれとドラゴンの肉を」

「喋った……それにサラダ!?」

 ――喋るにきまってるだろ!?ほら!サラダだぞ!?

「アーニャ……、いいのか?一応お前の肉だ」

「サラダが欲しかったので取り引き成立です!私が素焼きしたお肉だけですがそれでも良ければ、代金はお料理してくれたガイナスおじさんに支払ってください」

 心の中でガッツポーズというものが出来ることを初めて知った。

 ――それに、ガイナス?あのガイナスか!?!!ってもうガイナスもおっさんか、時間って早いな……

「ガイナス……そうか……、米と肉、それにそのポン酢も使わせて欲しい」


「ガッテンです!」

 その反応に何故か懐かしくなった。

 同郷にそんな反応をする人がいただけなんだが、目頭が多少熱くなる。

 それもこれも篠ほまれとポン酢のせいだろう。


 肉にポン酢にお米、口にした瞬間思わず涙が出てしまったが仮面でバレてはいないだろう。


 しかし名乗りもしたが「ワル」という略称にされしまったのは解せない。

 まあ本名を安易に名乗るわけにもいかないし仕方がないとも思っているが、解せない。

 それに水浴びを事故とは言え、覗いてしまったのがバレてしまった。

 なぜこんなにも勘が良いのだろう?きっと女の子は何かそういう特殊能力があるのかもしれない。魔力観点で研究してみるのも良いかもしれない。

 

 それよりも、この子はおそらく同郷の子なんだろう?幼馴染やその家族のことを知っているだろうか?

「アーニャは何者なんだ?あの剣術、それに篠ほまれやポン酢……――」

「……もう口ききたくないです」

 ――まずい!この威圧感!なにか懐かしい!!これは幼馴染の子が怒った時の反応によく似ている!!

 とはいえ、懐かしさからどこか心が温まるような感覚もあった。ちなみに俺にM属性はない。


「まあ俺達からはアーニャのことは言わないぞ?まあ俺たちは公爵領を目指してる」

 ――ガイナスならそうなんだろう?確か公爵領の方に住んでたよな?ピエールもクロノも同じだった筈だ。

 

「……公爵領、それにこの方角と距離だと……リリシュタインバーグ公爵領のことか?」

「いや、シュテュルプナーゲル公爵領だぞ、ここからの距離ならそれしかないだろ?」

 そんなはずはない、そう考えるしかなかった。

 

「なにを言っている……ああガイナスそうだったな……久々に会ったから忘れていたが、おまえ達は……」

 そう、シュテュルプナーゲル領の都市部は20年も前に消失している。

 いきなり消えたのだ。

 調査をしてもなにもわからず終いだった。

 大量の領民が行方不明となった今、あるのは元都市部の草原だけだ。

 ここにいるガイナス達は今だ、現実を受け入れきれてないのかもしれない。

 ――いや、わかっているのだろうけどリリシュタインバーグの事をあえてシュテュルプナーゲルと呼んでいるのかも知れない。そういうことにしておこう。


「どうした?ワル、初めてあった筈だが?」

 それが普通の反応だろう。ましてや俺は偽名なのだ。

 俺の姿が変わっていないのもおかしいと思われるし当分はワルドでいいだろう。


「……今あそこにあるのは……いや、俺もついていこう」

 ――う……アーニャよ、そんな嫌そうな顔しないでくれ

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