第2話 急襲!王都の刺客?Part A

 シュテュルプナーゲル領を目指して早くも1週間が経過した。今までのペースだとあと1日程度で着くところまで来ている、とガイナスおじさんから聞いた。

 馬も休ませたりしないといけないし、休んでは魚をとったり、狩りをしたり途中に温泉が泉の様に湧いたりしていたので浸かったりと、完全に観光している様な気分だ。

 明日か明後日にはおじさん達との旅も終わりか〜、なんてちょっぴりおセンチを気取ったりもした。 


「アーニャ、なんでこんなの狩ったりできるんだ?聖女じゃないのか?」

 私はそもそも聖女じゃないしこのくらいなら狩れるじゃん?と謎の確信はあった。

「どうやら私には剣術の嗜みがあった様で、この通り今日は大きな大きなトカゲを狩ることが出来ました!ふふ〜ん」

「いやドヤ顔はわかるんだがな……、これブラックドラゴンだぞ?剣術嗜んでいたのは昨日までは猪倒したりしてたからな……それでも驚いてたんだぞ?剣術嗜んでたレベルじゃドラゴンは倒せないからな?」

 ――ドラゴン?確かに?確かに?トカゲにしては?

 とは思ってたけど『魔物なんているわけない』と認識していたから、この世界で進化した大きい生物的なトカゲだと思っていた。


「これドラゴンって魔物?もしかしてあの猪も?」

「ああ、魔物だ。そもそもドラゴンは国を挙げて総力戦で挑むものだ。」

 それはオカシイ、倒した私がオカシイのではなく『魔物が存在している』ことについてだ。魔物はいない筈だから……

 なんで私がこんなことを知っているのかはわからない。


「それに前から思ってたけど刀なんか、どこから出したんだよ……」

 猪狩るのに刀が欲しいと念じたらなぜか私の視界の横に穴が開き、そこから刀が現れた。同様にしまうことも可能だ。


「これは異空間収納といって……う〜んあまり思い出せないなあ〜、なんだっけ?」

「もしかして空間魔法ってやつか?噂には聞いたことあるが……もういい!悩んだら剥げる!」

 空間魔法か〜、確かにそんなだった気もする?記憶意外にも知識も欠落しているようだ。


「じゃあこれ解体しましょう?多分、美味しいんですよね?」

「まあ、そうだなドラゴンは美味いとは聞くが……まあアーニャが強いのは訳ありなんだろう?そこは悩んでも仕方ないしな……指示だすから言われた通りに斬ってくれ」

 おじさんは解体の指示をしてくれた。ドラゴンの解体はしたことないみたいだけどだいたいの生物は似たりよったりみたいだ。


「じゃあ、ここから斬りますね〜」


 解体し終えて、今日ガイナスおじさんがお料理する量を分けたのだけど問題が発生した。

「少し量が多いな、こんな量運べね〜ぞ……どうする?ガイナス」

「……アーニャ、空間魔法でなんとかならないか?」

 ――使い方わからないんだけどなんとかなるのかな?

「う〜ん、お肉も骨も内臓も全部収納?」

 と、念じる様に口に出して言ってみた。

「おお!肉が消えた!」

「アーニャ凄いな!これ出せるのか?」

「骨だけ出ろ?」

 骨だけが出てきた

「アーニャ、凄いな!」

 やった〜!私凄い!褒められた!素直に嬉しかった。


「しかしますます、安易に得体の知れないヤツにアーニャを預けるわけにはいかなくなったな」

「ああそうだな」

「アーニャの強さもそうだが、空間魔法、治療魔法どれをとっても狙ってくる輩はいるだろう。悪用するヤツだっているかもしれねえ」

 ありがちな話だよね?とは思ったけどこの世界の価値観がガイナスおじさん達みたいに善良な人とイコールとは限らない。この世界に限った話ではないのかもしれないけれど。

 まあ、私つえ〜展開なのは護身の為に良しとしよう。


「シュテュルプナーゲル領に行って色々と見てどうするべきか考えたいと思います。」

「ああ、それがいい」

「それに、案内料や護衛料支払わないとですしね!ドラゴン売らないと!」

 このドラゴンの素材、高く売れないかな?なんて思っていた。

「護衛料なあ、アーニャには護衛なんかいらないと思うが……まあちょっとくらい案内料として俺たちにも分けてくれるなら助かるぜ!」

 私の為に仕事まで辞めてくれたんだ、ちょっとなんて言わず沢山だ。


「へへへ、楽しみにしていてくださいね?」

「はは、ありがとな!さて飯にすんべ!」

「今日はご馳走だな!米があったらなあ〜」

「まあ確かにな!でもピエール、贅沢はいえないさ」

「まあそうだなあ」

 ――米?米?米?なんだっけ?あれ?たしか、異空間収納?米出てこい!!


 ドサッ!


「なんだこれ?もしかして米か?すごく綺麗に精米されてるな……それにしてもなんだ?この透明の袋は……どこからこれに入れたんだ?」

 ビニール袋で包装されたスーパーに売ってそうなお米10kg!確か、私が住んでいた県の特産だった気がする。品種は「篠ほまれ」だったかな?

 ――『あの子』も私も米といえばこれ!


「なんか記憶なくす前の私が買ってたみたいです。米って言われて薄っすら思い出しました。」


「いいのか?使っても」

「今つかわないともったいないですよ!肉汁とか!タレが付くと!お米が欲しくなる!あ、タレ!!思い出した!私、タレも買ってた気がする?」


 しかし、タレは出てこない……――肉にあうなにか出てきて……

 なんて考えたらポン酢が出てきた。


「やった〜!!ポン酢だ〜!!」

 ――私、お肉にポン酢大好き

「ポン…ズ?なんだそりゃ?」

「酸っぱい出汁のお醤油?みたいな?感じです!」

「酸っぱい?ショーユってなんだ?」

「まあ、あとで使ってみましょうよ!素焼きのお肉に食べるときに付けて食べるのがいいです!」

「ふ〜ん、香りは柑橘系?酢?か?悪くはないな」

 塩や胡椒やコンソメ系とかなんかスパイシーなお肉料理もおいしいけど毎日だとちょっと……って思って来ちゃったしちょうど良かったね。

「あとはサラダがあればなあ……」

「すまん、野草の知識俺たちにないんだわ」

 ――そっか〜、まあお米食べれば大丈夫かな?


「お米は私が炊きま〜す!」

「お、大丈夫か?任せたぞ!」

 お米は知識として炊き方がわかるし、割とこだわりがあった気がする。


 ――お米炊けた〜!かきまぜろ!


「お前ら、こっちも出来たぞ」

「うわあ、ドラゴンの肉ってこんないい匂いすんのか〜」

 ピエールおじさんの目が輝いている。

「アーニャ、目が輝いているな」

 ――私も!?ヨダレがあふれる!ジュル!


 さてさて、ご飯もよそったし?

「いただきま〜……」

 ザザザ……!ザザザ……!


「おい!誰かいるぞ!こりゃ並の冒険者の気配じゃないな?」

 おじさん達は剣をとり構える。

 こんな大事な時に?と私は怒りと焦りの感情から箸を動かした。

「お、おいし〜!!」

「アーニャ……、なんか気が抜けるな」

「冷めちゃいます……、なにもして来ないのであれば……ご飯冷めちゃうし食べてた方がいいです。1人みたいですし物騒な気配もありません。おいし〜!!」

 

 私がもくもくとお肉を食べていると


 ――ゴクリ

 そんな音が聴こえた。


 ピエールおじさんかな?なんて思っていた。ピエールおじさん一番食いしんぼだから。私の次にね……

「来るぞ!!」


 その誰かは姿を私達に晒した。

 全身黒の服装に黒いローブ?コート?に刀?それに仮面を付けている。


「まさか王国の黒騎士か?」


 黒騎士って全身フルフェイスフルアーマーを思い浮かべるんだけど、この目の前にいる彼をみると黒騎士というよりアサシン、暗殺者といった言葉が連想される。

 黒騎士が近づいてくる……


「まさか!アーニャが目的か!?」

 ――もぐもぐ、もぐもぐ、ポン酢とお肉とお米、最高!!それにガイナスおじさんの煮込み肉、これ角煮かなってくらいにトロっとしておいし〜!!


「なんだ……俺たちも飯にすっか……確かに殺気がねえしアーニャをみてると確かに飯が勿体ねえ……アーニャ!!食い過ぎだぞ!!」

「あ、ごめんなさい!私の分はまた自分で焼きます!」

「まだ食うのか?もぐもぐ……うめえ!!黒騎士突っ立ってちゃわかんねえぞ!」

「おいガイナス、黒騎士だぞ……大丈夫か」


 黒騎士、なにが目的なのかわからない。黙ってちゃわからないぞ?なんて思いながら箸を進める。

「サラダに出来る野草を沢山持っている、それにお金も払う……俺にも食わせて欲しい。篠ほまれとドラゴンの肉を」

「喋った……それにサラダ!?」

「アーニャ……、いいのか?一応お前の肉だ」

「サラダが欲しかったので取り引き成立です!私が素焼きしたお肉だけですがそれでも良ければ、代金はお料理してくれたガイナスおじさんに支払ってください」

「ガイナス……そうか……、米と肉、それにそのポン酢も使わせて欲しい」

 ――おお黒騎士、わかってますね?

「ガッテンです!」

 ――サラダは肉汁とお塩があればよいかな?そもそもドレッシングの作り方とはわからないし。野草はキャベツの様な?レタスの様な?キャベタス?


 私のお替り分と黒騎士分も焼け、黒騎士も食事に加わった。

「そういえば、黒騎士でいいんだよな?アンタ」

「ああ、名乗りが遅れてすまない、俺はリリシュタガルト王国の黒騎士……ワルドだ」

 ――ワル……ド?

「ワルさんですね?」

「やめてくれ……」

 ――やっぱり!?

「まあワルドと呼んでくれ」

「わかりましたワルくん」

「よろしくなワル」

「くっ……!」

 ワルドは語呂が悪いし黒づくめの洋装だしワルい感じだし……それに声がまだおじさんではなさそうなので君付けにしてみた。馴れ馴れしかったかな?私達も紹介や挨拶をして食事に戻った。

 お腹が空いていたのかワルくんはご飯に釘付けだ。仮面ごしでも視線はわかる。


 ――あ、その仮面、鼻からしただけ外れるんだ。

「やはり美味い、それに米の炊き方がちょうど良いな」

「えへへ、お米は私が炊いたんですよ〜」

「そうなのか、いい感じだ」

 ――えへへ、褒められちゃった

「なんだろうな?黒騎士ってさ畏怖の象徴だったよな?」

「なんでこうも黒騎士と一緒に飯食ってんだ?ワルは仕事中なのか?」

 畏怖の象徴?怖くはないかな?それにしてもおじさん達、会話しているようで情報を引き出そうとしている。

「その畏怖の象徴ってなんだ?初耳なんだが?」

「いや公爵領じゃ、そう言われてるぞ?聖女をこき使って聖女が逃げだしてるって」

 ――わ!この黒騎士!ひどい男?

「は?なんだその言われは……」

 ――もしかして無自覚ってやつなのかしら?こういう男が女を泣かせるんだよきっと。

「俺は聖女達をこき使ってないし、脱走はいつものことだ」

 なにかが嫌だから脱走しちゃうんじゃないの?なんて事情も知らないし偏見もいいところだがそう考えていた。

「ふ〜ん、まあワルくんにもなにか原因があるのではないですか?」

「説明は難しい、まあいいだろ?それにお前達はどこへ向かうんだ?」

「あ〜、話逸した〜!」

 おじさん達がツボったのか腹を抱え笑いはじめる。そんなに面白い要素あっただろうか。

「ははは、そうだぞワル、まだこっちの質問にも答えてないしな?いまは仕事中なのか?」

「……仕事中だ、ここから150kmほど向こうに大規模な爆発と魔力災害が起きてな、調査中だ。一番近い生命反応を追ったらまあ成り行きでお前達を見かけた」

 もしかして、あのクレーターのことではないのか?

「ふ〜ん、魔力災害ねえ……ピエールそんなのあったか?」

「いや、俺はなにも感じなかったぞ?」

 別件かな?ちなみにピエールおじさん、魔法を使えるらしい。

「そうか、質問には答えたお前達はどこに行く、それにアーニャ……その子はドラゴンを倒していただろう?調査の一環でお前達を監視はしていてな、加勢しようとしたが圧倒していたからそのままみていた。アーニャは何者なんだ?」

 

 ――わわわ!150kmもずっと監視してたの?ワルくんストーカー?まさかお風呂も覗かれてたんじゃ……


「お、おい……アーニャと言ったか?なんだその顔は」

「ワルくんのエッチ……」

「な、なんでだ!?」

「温泉とか川での水浴びみてないよね?」

「み、みて……ない」

「本当に?」

「あ、ああ……」

「本当の本当に?」


 ――声のトーンが怪しい、これは黒だな?


「初回事故はあったが見ようとしてみていない……」


 ――やっぱり!


「……もうワルくんとは口をききません」

「違う!いや違ってはないがすまない……事故なんだ」

「……」

 ――なんだこれ?私もなんだか引っ込みがつかないぞ?

 でもワルくん覗きをしたのだ、到底許されることではない。


「一体俺たちは何を見せられてんだ?黒騎士もこうなっちゃ型無だなあワハハハ」

「く……」

「まあワル気の毒にな、俺の奢りだ、残ったドラゴンの出汁のスープ飲むといい」


 ――あ、ズルい!私の裸覗いたあげくスープも飲めるなんて!!

「むむむむむ……!」


「アーニャは何者なんだ?あの剣術、それに篠ほまれやポン酢……――」

「……もう口ききたくないです」

 恐らく不機嫌な表情で私は顔を逸した。ワルくんの表情はわからない。そもそも仮面でわからない。


「まあ俺達からはアーニャのことは言わないぞ?まあ俺たちは公爵領を目指してる」

 ガイナスおじさんが目的地については答えてあげていた。

 ――まあ、どうせ後ろからついてくるかもしれないし、いっか。


「……公爵領、それにこの方角と距離だと……リリシュタインバーグ公爵領のことか?」

「いや、シュテュルプナーゲル公爵領だぞ、ここからの距離ならそれしかないだろ?」

「なにを言っている……ああガイナスそうだったな……久々に会ったから忘れていたが、おまえ達は……」

「どうした?ワル、初めてあった筈だが?」

 ――どうしたんだろう?ガイナスおじさん達が来る方向を間違えたのだろうか?

 いやそんなはずはない、今まで訪れた場所が娘さんと来た場所だとか、温泉とかだいぶ道に熟知していた。間違えているのはワルくんなのではないだろうか?


「……今あそこにあるのは……いや、俺もついていこう」

 ――え、やっぱりついてくるの?

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