最終話 EpisodeとEpilogue


 叢雲は消え、月は高く昇る


 願わくば――

 光を燈し続けていられるように

 ずっと輝き続けていられるように

 アナタが笑っていられるように――

 ワタシは今日も見上げ、手を伸ばし

 綾を織り成す因果を紡ぐ


 アナタを取り巻く因果を打ち消す為に

 

 ◇◆


 シズルちゃんが眠り続けたこの約3年、なにか心にぽっかり穴が空いた様な、そんな感情を拗らせていた。

「シズルちゃん……!!会いたかったよ〜、グス……」

「私もだよ……綾子、寂しい思いさせたわね……」

「……――わね?」

 ――聞き間違えかな?

「え、あ、いや、聞き間違えだど思うよ〜?」

 違う誰かとシズルちゃんを重ねて、そう聴こえたのかもしれない。

 それにしても

「シズルちゃんどこに行ってたの?」

「あ、なんというか……――こことは違う世界に少しお手伝いに……イロハの頼みでね」

「あ、なるほどね〜イロハちゃんも現地調査でエルフ綾子についていくし人手が足りないのかね〜?」

「え?エルフ綾子に?まさか、もうみんないないの?」

「うん、シズルちゃん眠ってから3年でみんな旅立っちゃった……」

 ――私、寂しい

「みんなに挨拶出来なかったわね……、それにしてもイロハはエルフ綾子についていったんだね?てっきり別綾子についていくのかと思ってた」

「なんかねえ、別綾子にベタベタしすぎてちょっとウザがられちゃって、可哀想だけど近付くの禁止令だされちゃってね……」

「ぷ、ハハハ、あ、笑っちゃダメなんだけどイロハらしいなって笑っちゃった。そっか〜」

「まああのやりとりは微笑ましくも面白かったよ」

 イロハちゃん、どこか別綾子に通ずるものを感じていたのだろう。どことなく似てるもんね。

「さすがに近付くの禁止されたのはヘコむ……」

 まあ、そのうち別綾子もデレるからイロハちゃん……――

「イロハちゃん!?エルフ綾子について行ったんじゃないの!?」

「あ〜、あのワタシは調査でエルフ綾子について行ったけど私、まだこの世界に用があるしいるよ?アヤネに最後の身体用意してもらってたし昨日降りてきた、あのワタシなんも言ってなかったの?」

「なんにも聞いてない」

 どうやらイロハちゃん、女神としての仕事があるらしく降りてきたみたい。

 ――なんでもありだな?


「シズルようやく目覚めたね、アッチから戻す前にその身体に魂も調整しといたからもう魂核あるはずだよ?まあ私は微調整でほとんどアヤネだけどね」

 ――アッチってどこだろう?別の世界?


「うん、あるね、ありがとう。これで心置きなく綾子についていけるよ。暴虐にも伝えといて」

「了解!どういたしまして〜」

 ――これで準備も終わったのかな?私達


「若いワタシ、シズルとのリンクが切れたんだけど……」

 別綾子がシズルちゃんに異変を感じたからか訪ねてきた。ちなみにここはシズルちゃんの部屋だ。私は3年前からここに寝泊まりしている。


「シズル、起きたの?それに……魂核がある?」

「別綾子、おはよ〜ごめんね、魂が出来たからたぶんリンクが切れちゃった」

「おはよう、そう、良かったねこれで次の世界に行っても安心だね」

「うん、今までありがとう」

「色々あったけど、今ではアレで良かったと思ってるよ結果的に」

 シズルちゃんが別綾子を乗っ取ってこちらにきてからも色々とあったね〜、そんな2人がこうも落ち着いて話をしているのをみるとしみじみしちゃう。

 用も済んだし「じゃあね」って別綾子が部屋を出ていこうとすると……

「綾子〜!!無視はひどいじゃないか!無視は〜!」

 身体の小さいイロハちゃんが後ろから別綾子の腰に抱きつく。

 別綾子、イロハちゃんに気付いていたけど終始ガン無視である。

「は、はなしなさい!っていうかなんで貴女がいるの!?エルフ綾子についていったでしょ!?」

「まあアレは派遣イロハだよ。調査の為に!私はまだこの世界に用事あるし」

「やりたい放題だね……、まさか私が自分の世界に帰る時についてこないよね?」

「……――ついていけたら魅力的な話だけど……、そちらの世界のアヤが嫌がるだろうから……」

 この世界のアヤも最初は嫌がってたね、確かに。

「まとわりついて、ごめんね。つい綾子をみたら嬉しくなっちゃったのかも」

 似た者には惹きつけられるとかそんな感じかなあ?

「篠村綾子ならいっぱいいたでしょ、なんで私なの?」

「あ、あ〜……――」

 イロハちゃん黙っちゃった、まあなんでなのかは私もわからない。


「別綾子、イロハにはほどほどにしとくように言っておくから、少しだけ相手してくれないかな?」

「う〜ん……――」

 シズルちゃんからフォローが入り別綾子が考えこんだ。シズルちゃんにはデレてるからね。まあ私ももう少しイロハちゃんにデレてくれると嬉しいかな?イロハちゃんかわいいじゃんね?


「わかった、まとわりつかなければ普通に接するから……――はあ、向こうの世界のアヤといい、イロハといいどうして私にまとわりつくのか……」

「わ〜い!やった〜!!」

 向こうのアヤってそうなんだね、面白い。それに別綾子って意外とツンデレ?的な?感じなのかな?

 イロハちゃん、さっそく別綾子の後ろについていっちゃった。


「綾子、この世界でやり残したことない?もう大丈夫?」

「う〜ん?もう大丈夫なはず……、植物の種とか食材は大量に持ったし……結社ポーションが作れなかったことくらいかな?」

「あ〜、あれはかなり難しいよね〜よくあんなの作れるよね」

 ――ポーションレシピ通りなんだけどなあ……なんでだろ?

 購買に入荷する度に私が半分くらい買い占めてるからストックなら今10万本あるし大丈夫かな?

 ――直ぐに無くなるなんてまず滅多にないだろうし、余裕余裕〜


 それにしても、この世界に来てあっという間の21年だったなあ。なんにも出来なかった私でもやればなんとかなる、というのが今までの人生で最大の収穫だったね。

 でもスタートラインにも立ってないしチュートリアルもこれで終了かあ……。


 後日、盛大に送別会をしてもらって、盛大に泣いて、私達が旅立つ日がやってきた。


 結社の裏山にある厳重に管理された施設、ここの最深部には『branch of originate』と呼ばれる『世界の穴』が存在する。

 私達はそこへ来ていた。

 この穴に入って私は次の世界を目指すのだ。この穴に入ればこの世界に戻る機会はほぼないだろう。

 ――まあお別れは済んだしもう行こう……


 見送りにはアーニアやノルくんにアヤ、ツムギちゃん、別綾子とノルくん、イロハちゃん、リリスちゃん、エレナ、セレナ、リナちゃん、結社のみんな、それにエイバナ村のみんなが来てくれている。


 それぞれ挨拶をして別れを惜しんでいた

「コトワリ、綾子様にしっかり仕えるのですよ?」

「姉ぶるなツムギ、この世界では私より古参だけど発生したのは私の方が先」

 相変わらずの『矯正力』姉妹である。

 リっちゃんは最近別行動で3年くらいみてなかったけどようやく合流出来た。

 ん?3年?まあいっか……


「アーニアさん、別綾子……いや、ワタシ達、ノルくんとしっかりね?」

「貴女もね?」

「うん、がんばる……」


 ノル君たちにも

「ノルくん達も元気でね、あのワタシ達をよろしくね」

「おう、綾子も元気でな」

「むふふふ〜、うん!」

「この世界のノルくん達お世話になったわね、いつまでも元気でね〜」

「…………お、おうシズルも元気でな」

 ――ん?なにか違和感があったけど……まあいっか

 じゃあ、そろそろ行こうかね

「あ!綾子〜!待つのじゃ〜!」

 ――誰?この声でこの喋り方の人って……記憶にないな?


 振り向けば、そこにはワタシ達篠村綾子によく似た顔よく似た声、多分同じ背丈の子がいた。髪の色は淡いプラチナヴァイオレットで銀髪に見えなくもない。また綾種かな……?横にはミントちゃんもいる。

 ――この髪色は、まさか?


「間に合いました綾子様〜」

「ミントちゃん、それに……もしかしてリノアちゃん?」

「お〜、流石じゃの綾子!妾はどうやら『ワタシ』の記憶を長いこと永いこと忘れておっての?どうやら暴食の木の女神の写身らしいのじゃ?本体が反映してきての?まあ記憶が後付けすぎてあまり自覚はないんじゃがな」

 最後の最後に衝撃の事実!!

「まじか〜、暴食か〜まああれだけ食べるならね〜」


「はあ〜!!?なにそれ!?」

 アーニアさん?少しうるさいぞ?お別れムードってものが……――あれ?周りをみると初耳だったのかみんな面を食らっている様だ。

 ――みんな知ってたんじゃないの?


「二人ともありがとね〜、最後に会えて嬉しい。はい、最後にチョコレートだよ。二人で食べてね。最後のレシピも今送っておいたよ」

「うう、綾子様〜、グスッ……お達者で」

「ありがとうなのじゃ、達者でな」

「うん、二人とも食堂頑張ってね」


「綾子……チョコレートのレシピはちゃんとこっちの綾子に伝えてるのかしら?」

 アヤがアーニアの背中に手を置き、私は問われる。

 ――あ、やべ!

「う、うん〜、大丈夫だよ……」

 こっそりレシピをアーニアさんに送信する

「初耳だけど……、チョコレート作れるの?今まで黙ってたな?ワタシ……それにレシピ今来たけど」

 ――すっかり忘れてた〜!!


「ご、ごごごごごめん!最新作の板チョコあげるから許して」

「ハハハ!ワタシって感じでいいね!ありがとう!元気でね」

「綾子〜、ありがとう〜!はむはむ、このチョコおいしいわね!レイワ堂に近いわね」

「アヤはレイワのチョコ好きだもんね?」

「そうよ〜!」

「綾子……、私も食べたい……」

「シズルちゃん?ちょっとまってね、はい!」

「ありがと〜!はむはむ、おいし〜!」


 ってな感じで締らない感じだけど私達は旅立とうと穴の前に揃った。


「リナ姉さん……グスっ……」

「ノア、元気でね?」

 まだ?そこの姉妹、まあ最後だもんゆっくり待とう。私も泣きそうだし早く行きたい。


「それにしても穴って感じだね?綾子姉さんも元気でね」

「うん、ありがと」

 リナちゃんが穴の中を覗きこむ。

 ――あ、近づいたら危ないんじゃない?大丈夫?

「そういえば……リナ……――」

 ――シズルちゃん?リナちゃん見送りなんだけど?どうしたの?

「シズル姉さん?どうしたの?」

「いや……、なんでも」


 さあ、そろそろ行こうかなんて思っても直にみんな話を始める。

「リノアおば……いや、姉さんも元気でね……その姿びっくりしちゃった!!すごいじゃん?どうなってんの?」

 締まらね〜、まあみんな別れはツラいし寂しいからね。少しは気が紛れる。

 あ〜、ノアが興奮しだしてリノアちゃんの周りをくるくる周りだした……

「どうなってんの?本当にどうなってんの?姉さんにしかみえない」

 穴の近くだから危ないしウロチョロしたら危ない……「きゃあああああ!」そんな声が聴こえた。

 何が起こったのか、一瞬わからなかった。

 ――それに……、あれ?リナちゃんは?アレ?


「……――リナちゃん、落ちゃった?」

「リナ!」「姉さん!」「リナ様」――


「リナ様〜〜!!!」

 アダムくん!?なんでこっち来るの?危ない危ない!え?え?え?え?――――アダムくん穴に飛び込んじゃった……


 みんなは呆然としている――


「ツムギ!コトワリ!力を貸して!」

「はい!」

「仕方ない」

 ――イロハちゃん!?どうしたの!?

 イロハちゃんとツムギちゃんとリっちゃんで何かを行使し、大規模な権能と思われるエフェクトが顕現し、光が穴を包み――僅かな余韻を残し消えていく。


「あぶね〜、仕込みが無駄になってやり直す事になるところだった……、でもリナがあっちに行っちゃったねえ……どうしたもんか」


 別にノアがぶつかったワケではない。

 リナちゃんは穴に落ちて、アダムくんは穴に飛び込んだ。どうすんだろう。


「一応、世界が枝分かれしないように、穴に入ったリナ達には存在をコーティングさせて貰った。」

 ――コーティング?

「そう、向こうの世界のどの時間についても世界が枝分かれしない様に」

 ――なるほど?


「でも混沌の、いやイロハ……二人はだいぶ因果に影響与えてたよ」

「あちゃ〜まじか〜……――シズル、貴女は見てきたんだよね……私、忙しくて観てなかったしなあ~。これも規程路線なのか……」

「因果バランスの計算し直してね……鶏が先か卵が先かは本当に読みにくいよ」

 ――なんの話だろう?女神の仕事っぽい話だし、まあいっか


「貴女達はそのまま行っても大丈夫、それじゃあ、元気でね?」

「う、うん……イロハちゃん」


 締まらないしリナちゃんは?アダムくんは?

「リナはなんとかするから大丈夫だと思うよ、ほら遅くなっても良くないから」

 イロハちゃんがそういうなら大丈夫だと思いたいけど……――アーニアさんやみんな混乱してるけど大丈夫?


「じゃあみんな機会があればまたね……」

 締らないまま、私達は次の世界へ向かった。


 穴の中ってこんな感じなんだ。

 正直、怖い。

 シズルちゃんに手を握って貰ってる。


 ノアも怖いのかレイちゃんにくっついて、シロも何故かレイちゃんに後ろから抱きついてる。ちなみにシロちゃん呼びは微妙な感じみたいなのでシロで落ち着いた。

 ナッちゃんとリっちゃんは余裕みたいだね。リっちゃんはすぐ隣にいるけどナッちゃんは……泳いでる?

 ちなみに凄く動きずらい


 もう落ち続けてどれくらい経ったんだろう?それは数分にも、1年にも、数千年にも感じる不思議な感覚だ。

 暫く経つと風の様な荒波の様なモノが私達を飲みこもうとする

「鬱陶しいわね」

「妨害するな……」

 シズルちゃんとリっちゃんが権能を使い守ってくれた。


「綾子……――」

「姉さん!」

「綾子様!」


 ――え?


 ――あれ?


 ――レイちゃん?ノア?シロ?どこ?


「くっ!仕方ない!ひとまず私に掴まって!」

 リっちゃんにしがみつく、――ナッちゃんどこ?あ、いた!

「ナッちゃんこっち!!」

「ここではぐれたら綾子様のご飯食べられなくなる気がするニャ〜!!嫌ニャ~!!」

 ――食い意地!!


 ナッちゃんが必死に泳いでなんとか私達にしがみつき、安堵した――

 その瞬間、私は……――空から落ちていた。



 第一章 チュートリアル編『理を超えて』 end





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