第41話 ママ


 翌朝、ホームシックでママが恋しい私はセカンドとママについて話をしていた。

 ちなみにセカンド、担当特務が知らぬ間に誰かに解決されたらしく落こんでいる。


「うん確かにママ心配だね。ママお料理全く出来ないし」

「そうだよねえ、ご飯炊いたりサラダとかなら市販のドレッシング使ったりでなんとかなるかもしれないけど……栄養偏らないか心配……」

「え……?先輩綾子のママ、話聞いてるとなんかウチのママより凄いしなんか違う気がするんだけど」

「え?なにがすごいの?」

 みんな一緒じゃないの?流石に、なんて思ってしまった。


「だって、うちのママ、ご飯炊くことすら出来なかったしそもそも台所に立たせたくないくらい不器用だったよ。あと『わよ〜』口調っていうよりは、語尾に『のよ』の割合が多い口調だったよ」

「え?まあ確かに『のよ』もうちのママも言ってたけど、まあアヤほどハキハキした感じじゃなくて緩い感じ。かわいかったなあ〜ママ」

「うちは生意気なお調子者な女子の口調だったね……まあウチのママも可愛かったけど、えへへ、ママ私いないとすぐドジしちゃうからかわいいんだ〜」

 お?ママ自慢大会?マウントのとりあいか?やるか?おぉん?


 それにしてもそんなにママって違うんだね。平行世界だからありえるのかもだけど、そんなにママが違うなら私とセカンドにあらわれる差は納得かも。

 セカンドはそんなママだったからしっかりしてるのかもしれない。

 私は、ママに甘えてばっかりだったな……


「アーニアさん達にも聞いてみようか、面白いかも」

「そうだね!どんな感じなんだろうね!?」


 というわけでアーニアさんのところに来た、といっても私の家なんだけどね。

 ※移動式ノルくんハウス

 アーニアさんはケガをした影響でノルくんに休めって言われたらしく暇そうにしてる。まあデートのプランがんばって練りなよ。


 で?

「アーニアさんのママってどんな感じ?」

「先輩綾子と話してたらママ面白いくらいに全然違うの!」


「は、はあ……ま、そそそそそうだね……、ママは、――あ、アヤみたいな感じだったかな?口調もそそそそそんな感じ」

 なんでか焦った感じになっている。

 アヤみたいな感じか〜

「あら〜?私の話かしら?」

「マ、ママ」

 アーニアさん?

「え……違うわよ」


 なんのコントだ?まあ私もよくやるけど

 へ〜、アーニアさんのママはアヤみたいな感じか〜。まあ、アヤはみんなが考えるTHEママって感じだもんね。うちのママとはやっぱりちょっと違って強気な感じだけど。

「あら?綾子、この三編み……?」

 アヤがおもむろにアーニアさんの三編みを触りだした。

 私やセカンド、全ての篠村綾子にあるであろうあの癖毛を束ねた三編みだ。

 アーニアさんの三編みね、なんかみるとペタンと垂れ下がってるのね。片や私やセカンドのは癖毛の影響でゴワゴワしてるしまず真っ直ぐに垂れ下がることなんてない。

 セカンドにいたってはセカンドの身体になった瞬間、癖毛になったし……、もはや呪いだ。


「アーニアさんもしかして?女神綾子の影響でかな?」

 女神綾子も真っ直ぐだったしそもそも束ねてなかったしね。羨ましい

 というか女神綾子一言もしゃべんなくなっちゃったな。


「そ、そそそそ!それ〜!女神綾子の影響!!」

「あら……あ、綾子、じゃあ……私の事……わかるの……かしら?」

 アーニアさんが黙りこくる……それにどういうこと?


「…………――うん、今の状態の私なら、わかる」

「そう………、少し向こうでお話、いいかしら?」

「うん……」


 って言って2人で謎の感動ムードだしめどこか行っちゃったんですけど?

 私達置いてけぼりなんですけど〜〜!?


「次!別綾子!」

「うん!そだね!」


 別綾子のところに来た。

「ノルくんが2人もいると壮観だね〜」

「わかる〜!」

 別綾子とノルくん達、お仕事かな?術式のレクチャー?


「貴女達、どうしたの?」

 いや、なんかお仕事中なのかな?ママについてインタビューしに来たとか言ったら怒られちゃうかな?


「先輩綾子やアーニアにも聞いたけどみんなのママ、口調も雰囲気も全然違うの!」

 セカンド正直すぎ〜!私達暇人みたいじゃん……、まあ暇なんだけど。


「ママの口調?ママの口調なら私みたいな感じだよ。まあ雰囲気はこの世界のアヤみたいな感じだけど『わよ』口調ではないね。まあ私はママに似たのかもね」

 へ〜、面白い!凄いじゃん!


「それにしても貴女達、暇なの?」

「「う…」」


 に、逃げろ!!


「あ、私は休憩中!お、お料理開発あるから!別綾子ありがと!ミルクレープ最新作おいてくね!」

「へへ、いいの?ありがと!お料理開発がんばってね!」


 あっぶね〜、絶対なんか仕事やらされるとこだったよ……

 それにノルくん2人もいるけど、昨日から私やセカンドは逆に心が苦しくなっている。別綾子やアーニアさんがノルくんといる時は極力避けなければ、と思っている。


 邪魔しちゃ悪いじゃん?


 まあママも違えば私達、篠村綾子も違うのだろう。セカンド、アーニアさん、別綾子を見てればそうだ。

 あ、そうだエルフ綾子忘れてた。


 ――仮分離術式、起動

『あのさ、ワタシ、私のこと忘れてたでしょ?』

「え?そんなワケないじゃん」

 忘れてたなんて言えない……

『ほらやっぱり忘れてた』

 ぎゃあ!心を読まれた!

 あ、これ昨日直した方の術式やつじゃない!

 ――仮分離術式心を読まれないやつ!再起動


「気のせいじゃないかな?」

『ふ〜ん』

 エルフ綾子にも聞いたけどエルフ綾子のママは少し幼稚というか鈍臭いらしい。セカンドのママと同じ感じなのかな?


 色んなママがいるのがわかったけど、いつかまたママに会えるといいなあ。


「お〜い、綾子〜!」

 この声は?誰だろう?

 シズルちゃんかアヤネなんだろうけど声が同じだからね?でもなんか違う幼い気も……

 声のする方向に視線を向けた。

 いたのはシズルちゃんとアヤネと……誰?ちっちゃいシズルちゃん?シズルちゃんもハイエルフの身体になった時最初ちっちゃかったけど……まさか?


「ふっふ〜ん!私だよ私」

 その子はドヤ顔で両手を腰に当てる


「え、ハイエルフ?でその姿?まさかこの世界の女神様?」

「さっすが綾子!わかってくれた!」

 何故か女神様はドヤ顔だ。

「女神様、アヤに怒られないの?」

「彼女には許可を貰ったよ、私はこの世界の女神だしね!なんてことないよ」

「駄々捏ねて泣きわめいてようやくだったけどね……」

「こ、こら静寂の…!」

 なんか小さい女神様かわいいな。

 私も小さいころこんな感じだったんだろうか?なんかお菓子上げたくなっちゃうな。


「はい女神様〜、新作のミルクレープですよ〜」

 頭を撫でてしまった、かわいい。

 セカンドもめっちゃ笑顔で撫でてる。

「わ〜い!綾子好き〜!」

「あらあら、混沌のはお子様ね〜っていだだだだだだ……!!なに!?今の痛みは!?」

「私がいま小さいからって馬鹿にしたよね!?」

 なんかどこかで見た光景だなこれ……


「ほら女神様〜、アヤネとは仲良くしないと〜」

「そうだよ〜、綾子に嫌われちゃうよ?」

「う……ごめん」

 私とシズルちゃんで諭す。

 どうやら女神様とアヤネは上下関係みたいなアレがあるっぽい。けど仲良くね。

 セカンドはスプーンで女神様に餌付けをしている。


「それにしても女神様、身体も手に入れちゃったんだね。」

「静寂も暴虐もいるのに私がいないのは嫌だし」

 まあ、そういうことか、そうだよね。

 まるで女神のバーゲンセールだ


「だからここにいる私はもう女神というよりはまあ現地調査員みたいなものかな?木の外からじゃ見えないところも見ておきたいし」


「女神様じゃないなら……なんて呼べばいいの?」

「私の名前……困ったなあどうしよう、そうだ綾子つけてよ」


「静寂でシズルちゃんでしょ?混沌……、う〜ん、意味的には混沌って色とりどり彩色豊かってことだから……『いろは』はどう?」


「いい!わたし!いろは!綾子達、宜しくね!」

「うん!宜しく!」


「なんで私、シズルなんだろ……静寂だからって安易だったなあ、私も綾子に名前つけて貰いたかった……」

「その点、私はアヤネだからぬかりないのよね〜……いだだだだだだだ!またいきなり痛くなった……」

 なんだろうね、既視感がすごい。


「シズルちゃんもアヤネも食べる?私ので良ければ」

 セカンドが自分で作ったショートケーキを異空間収納から取り出した。最近、セカンドも料理を頑張りはじめてるし誰かに食べて貰いたいだろう。


「セカンドのエルフ綾子優しいのね〜!ありがと!」

「綾子ありがとう!」

「おいしいわね〜!これ!」

 アヤネがもの凄い勢いでケーキを食べ始める。あ〜、お口の周りがクリームだらけ。

 拭いてあげよっかな、なんて思ってたらセカンドが拭いてくれた。なんでかセカンドが嬉しそうだ。エルフ同士仲良くしてね?


「ところで綾子、シズルから聞いた?シズルも次の世界に一緒に行くって」

「聞いたよ〜!私すごい嬉しい!シズルちゃん来てくれるなら心強いし!」

「そっか〜、よかったね〜シズル」

「ん?あ〜次の世界のことね!私も嬉しい〜!」

「ああ……、そっか静寂も暴虐も写身だと覚えてないんだったか……」

「なんのこと?」

「いや、なんでもないよもぐもぐ」

 いろはちゃんケーキまだ食べるの?

 セカンドに代わってさっきから私が餌付けしてる。セカンドは何故かアヤネに餌付けをはじめてるし……。


「食べすぎじゃない?お腹壊さない?」

「早く成長させないとね、私は私でまた別の身体をアヤネに用意してもらうし」

『あの……それって、もしかして?』

「エルフ綾子かな?この声、もしかしてだよ。あと貴女の世界も今は復活してるよ!まあ私は女神だからね!」

 まじで?まじで?自分のことの様に嬉しい。

『本当に…?本当に?でも――私、分離出来ないし……でも叶うのなら……叶うのなら……』

「まだ私達、仮分離なんだよね」

「ああ、それならシズルがあとなんとかするから」

 え?出来るの?いままで出来なかったのに?

「シズルちゃん……出来るの?」

「ん〜、あまりしたくはなかったけど……綾子の精神体を写身としてエルフの身体にいわゆるコピーして……エルフ綾子以外の部分を丁寧に消せば……なんだけど倫理的にどう思うかなんだけどね……」


『それって……』


「私のコピーをハイエルフの身体に入れてエルフ綾子以外の、つまりは私を消すってことだよね。」

「そう……どう思う?」

「私はそれでいいよ。」

『いやシズルちゃん、写すのは良くても消さないでいいからこの身体のワタシと逆の状態に出来ないかな?私が表層で』

「……――それなら出来るよ!そっちの方が簡単だよ!それでいいなら」

「いいの?エルフ綾子、私が残っちゃっても」

『いいよ、お互いの知識は役に立つでしょ?でも仮分離はお互いに永久に使わないようにしよう?お互いの為に』

 そうだね、いままでエルフ綾子も辛かっただろう……私に仮分離術式で無理やり叩き起こされて。

「うん、いままでごめんね」

『いや、感謝しかないよ!ありがとう!私の為に』

「こちらこそ本当にありがとう」


 良かったね〜、エルフ綾子〜本当に、本当に――


「あら綾子、大丈夫?」

「ひっぐ、えっぐ、だって、ひっぐ、わだじ〜……うれじぐで〜ふぇ〜んエルフあやごよがっだうわ〜ん」

 シズルちゃんが撫でてくれるのが心地よくてそのまま夢の世界に入りこんだ。


 そこでは私とママとノルくんとレイちゃんで楽しく晩御飯を食べてるの。


 そんな日がまた訪れます様に。


 そう願わずにはいられなかった。

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