第40話 先ゆく不安
「やっと来たみたいだよ!おたくのアーニアさんが」
私達が着いた途端、アーニアがそんな事を言う。
――伝えた先はもう一人のノルくんだ。
状況を理解していない私は、アーニアはアンタだろうに、なんて思っていた。
というか、アーニアさん?なの?
どこか雰囲気がいつもと違う様に見えなくもない。なんでだろう?
それにこのノルくん……もしかして?
「あれ?話に聞いてたより綾子……多くない?」
あ、やっぱりこのノルくんは……
あと正確には半分は篠村綾子じゃないんだけどね。
「お、おおおお……――おにい……おに……兄ちゃん……!?お兄ちゃんなの!?」
「アーニア!?」
別綾子が声を裏返しながらも叫んだ。
やっぱりそうか、向こうのノルくんなんだね?
へー……えへへ
ノルくんが二人もいる素敵空間だね此処は、なんてことを考えながらニヤニヤを我慢していた。
「先輩綾子、顔が気持ち悪くなってる」
そんなはずはない、なんて思いつつセカンドをみると気持ち悪い表情になっていた。
なにかを我慢しきれてないけど踏ん張っている顔だ。鼻の下や顎に気持ち悪いシワが出ては消える実に気持ち悪い表情だ。
なんてセカンドと双子漫才をキメて、ふと別綾子の方をみると
――別綾子、向こうのノルくんにわなわなと近づき、抱きついてた。
「おにいぢゃ〜ん、ふぇ〜んおにいぢゃ〜ん、会いだがっだよ〜ふぇ〜ん」
羨ましいな畜生!!なんて思っては……――ないけど羨ましいのと微笑ましいが混じって微妙な感覚だ。
私はどんな顔をしているのだろう?
――よし!ここでセカンドを見てみよう!
セカンドをチラリとみてみると微笑ましいものを見るような表情をしている……、でも私は騙されないぞ?
0.1秒に1回、瞼が力んでいる?ピクピクってしてる、ピクピクって。
そんなセカンドが私をみて口を開く。
「微笑ましいものをみる表情なのに歯を食いしばってる……」
「してないもん」
してないもん。
「でも先生綾子良かったね〜。再会できて」
「そだね……私達も行くべき世界へ早く行きたいね」
「うん……」
私達はどんな顔をしていたのだろう?
「あら、綾子達元気ないわね?」
アヤが撫でてきた。
「そうだよ〜、どうしたの?ノルさんが2人もいるんだよ?体調悪いの?」
アヤとシズルちゃんに止められた。
だって、別綾子が向こうのノルくんと……、アーニアさんもなんか雰囲気変わってノルくんと楽しそうにしてるし……
「あ、そっか〜、そうなるわよね……アーニアと別綾子と後で話しようかしら、今は別綾子が落ち着いたらね、少しだけ待っていよ?」
私は感情がドロドロしているのだろう。
セカンドも同じ気持ちだろうか?
8000年生きてるアーニアや別綾子とは違い、精神も未熟でお子様なのだ。
年齢でいえば30は過ぎたけどまたまだなのだ。
アーニアにデートを提案した件もあって心が磨耗しているのかもしれないし。
ごはん食べて早く寝たいな、こんな時は毛布に包まって夢をみて気持ちをリセットした方が良いのだ。
ワタシの幸せは私の幸せ。妬むことなんかしたくはないし理解はしているけど、――どうも不安定だ。
「あ〜……――綾子達もがんばれば、あ〜なれるわよきっと」
アヤが優しい。ママみたいにいつも優しいけど。でもママじゃない。
「そうだよ〜、綾子達ならすぐだよ!ファイト!」
シズルちゃんが気絶したアヤネを背負って応援してくれる。すごいシュール
そっか、そうだよね。なんて納得した。
私はこういうところは単純だよね。
「あれは、私達の可能性と考えればとてもいいものなのかも。」
「先輩綾子、そうだよね、そう思うと嬉しくなるかも」
我ながら単純だな〜とは思うけど、エルフ綾子の件でもそう思っていたじゃないか。
ワタシ達の幸せを考えるべきなのだ。
妬みは大人の女性としてはあるまじき思想だ。
「あれあれ〜?どうしたの〜?」
くっ……!アーニアさん……!
「あ、気持ちはわかるよ〜、私も向こうにいた時はそうだったし。というか貴女は割と私にも昔から突っかかってたし……まあ、貴女達には各々貴女達の大好きな……」
アーニアさん!後ろ!後ろ!
ノルくんがいる!!その話はいましちゃダメ!
「やあ!ノルくん!向こうのノルくんも来ちゃったね!びっくりだね?」
あっぶね〜!
さすがのアーニアさんも顔が赤い……、まあ篠村綾子としての概念的告白しちゃうところだったよ。
いや、しちゃってもよかった?
「ああ、流石にびっくりしたよ。少しむず痒いがな、ハハ」
まあ、あの光景を観ればそうなるだろう。
別綾子まだ抱きついて泣いてる。
「でも向こうのノルくん、どうやって来たの?」
アーニアさんが説明をしてくれたのだけどいまいち理解出来なかった。
自分を分解して?こっちで再構成?
「あっちの魔科学は進んでるよね〜、ノルくんいい機会だし向こうの技術は全て教えてもらおう?」
「ハハそうだな」
このアーニアにして、このノルくんあり!!ちゃっかりしてる!
心の底から羨ましいけど、心の底から微笑ましい。そんな感情でしばらくは笑っていられそうだ。
「ごめんね、みんな、スン……待ってて貰っちゃって」
別綾子が向こうのノルくんの服の裾を掴みながらこっちに来た。
泣いてはいるけど、幸せそうな表情をしている。
奥ゆかしい!奥ゆかしい!
手繋いだことあるんじゃないの!?
「お騒がせして申し訳ない、そちらのアーニアには話したけど、向こうの世界から来た。影響はほぼないと思うのだが……」
ツムギちゃんとリっちゃんがなにやらしはじめた。リっちゃんは何故か気だるそうだ。
「アーニア様、ノルワルド様、確かに影響は無い様にみえます」
「そっか、まあ来ちゃったものは仕方ないし、branch of originateまでそちらのアーニア共々よろしくな!向こうのオレ」
「ありがとう、世話になるよ」
さあ帰るべ!!もうお腹ペコペコだし!
その後は特になにもなく向こうの世界のノルくんを結社に迎えいれ、挨拶をして別綾子が張りきって料理をして、向こうのノルくんもそれで喜んでいたので、それをみてほっこりしていた。
よく考えると私はまだ生きているし、チャンスがあるのだしこのままいじけてたら亡霊と言われるワタシ達に睨まれてしまう。
だから素直に喜ぼう。
◇
ご飯を食べたあと、私は『自分』というものについて考えていた、私ってなんだろう。
女神に至った女神綾子もいれば、経営者エンジョイしてます的なアーニアさん、割と落ち着いてる別綾子、結構しっかりしているセカンド、いろんな平行世界の私がいる。
それに比べて私は……。
根本的なところは皆、同じワタシだけどどうも卑屈になってしまう。
私もアーニアや別綾子みたいになれるのかな?
「綾子~、どうしたの~?元気ないみたいだけれど……具合悪いの?」
間延びした声の女の子が話しかけてきた。
「シズルちゃん……、ちょっと将来について考えちゃって……まあ、ちょっと食べすぎてお腹も痛いかも……」
少し暴食してしまった感はある。
「将来?あー、branch of originateの先の世界のこと?」
「そう、いろんなワタシもいたみたいだけど、死んじゃったり途中でリタイアしちゃうのワタシもいっぱいいたり……それ考えるとアーニアや別綾子ってすごいんだろうなって……、ちょっとそれ考えてたら自信なくなってきちゃって」
「そっか~……――、亡霊って……いや、でも綾子はすごいから!!お料理も出来るし静寂の女神としての私が太鼓判をおしてあげる!だから一緒にがんばろうね」
シズルちゃんが頭を撫でてくれた。
えへへ、ママもこうやって撫でてくれてたなあ。
なんかまたママ思い出しちゃった。
「うん!がんばる!って一緒に?」
「あっ……、まだアーニアにも相談してないからまだ私やこの世界の女神と話てるだけなんだけどね、私も綾子と一緒にbranch of originateの先に行こうと思ってるの。」
え?ほんとに?
「うれしい~、いいの?別綾子の世界じゃなくて」
「うん、私はよくわかってないんだけどね、私の本体はそうした方が言いって言っててね」
「ふーん、そうなんだ」
「それに、私も綾子と一緒にいたいしね!」
「むふふ、うれしー」
シズルちゃんも来てくれるならうれしいな。
優しいしめっちゃ強いし
「綾子お腹もう大丈夫?一応、私のオリジナル権能で治してあげる。術式よりは身体への負担が軽いよ」
「え、ほんとに?」
「ほんとだよー、じゃあいくね、痛いの痛いのとっとと滅んでしまえ~♪」
わ、シズルちゃんなにそれ――かわいい
ってアレ?このオマジナイ……
いや、それはありえない。
シズルちゃんがしてくれたのは私がドジって転んだりしてケガした時にママがよくしてくれたオマジナイと同じだ。
でも、口調は違えどシズルちゃんに感じる懐かしさはそれで説明できる。
シズルちゃんの本体の顔もそうだったし。
「マ……ママ?」
「綾子……――ママって?お母さんってこと?」
「うん、偶然だと思うけど、そのオマジナイ、ママが使ってたからつい、えへへ」
ママも異世界に転生していた、とか実はママは……とかこの世界にきてから何回かは考えたことがある。
最初はアヤがママっぽい口調でそうなのかも?と思ったりもしたけどママはあんなにも語尾「わよ~」ってハッキリ言ったりしないしママはもう少しとってつけたような不慣れな「わよ~」口調みたいな感じだった
……――だから少し期待はしていた
「ははは!綾子~、私はママじゃないよ~!でも私、綾子好きだから故郷が寂しくなったらママって呼んでもいいよ!まあ私じゃ代わりにはなれないかもしれないけどね、えへへ」
まあ、そうだよね。そんなわけないか
やっぱりシズルちゃん優しいなあ。
私、少しホームシックだったのかなあ……
なんかママに会いたくなっちゃったなあ。
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