第38話 まじかあ2
「まじかあ……」
「まじですわよ」
――そっか〜
なんて思いながらもやはり突っ込むべきだろう。
気になって気になって仕方がない。
「その口調なんなの?」
「……やっぱり変?」
「いや……何をどうやったらそんな口調になるのか自分でもわからないし……キャラ付け?」
「う……う〜ん……私ね貴族令嬢が主役の物語が好きだったの!」
「へ〜」
「小さい頃から友達もいないしね……ママと貴族令嬢ごっこしてたらこの口調になっちゃった。」
「ママ、よく許してくれたねその口調」
「まあ……私、小学校の頃からずっと引きこもっちゃってたし……」
「え?」
「小説の話をする時、活き活きしてたみたいだし。綾子楽しそうね!ってママも一緒にしてたよ!」
――そっか……私以上に引きこもってたワタシいたんだね。
「こっちに来たのは17歳のとき?」
「16歳だったと思うよ」
――あ、そこはやっぱり私だけなんだ……
でも、なんで小学校から引きこもってたのだろう。言いづらいことだろうし聞くに聞けない。
「はは……、なんで引きこもってたの?って顔してるよ。」
――バレちゃった?
「まあ子供の頃だった話だし……他の女のコにノルくんの初チューをとられちゃったし、それをね……見ちゃったの……」
「あ、あ、あ……それはツラい」
「わかる?」
「わかる〜」
それは引きこもってしまっても仕方がないと思う。
そんなことで?と思う人もいるだろうけど、これは篠村綾子的には大事件であり大災害の様な大災厄である。
そんなこんなで気づけば私達は話こんでいた。
そしてふと、このワタシをみて気付いてしまった。
「あのさ……、なんでくせ毛ないの?」
「え、あ……そうだった……」
「ねえ!どうして!?ねえ!ずるい!ねえ!ねえ!?」
「ちょっと……、怖いよ…」
――は!いっけな〜い!
「ごめん…、つい取り乱しちゃった……」
この左側頭部のやや上から生えている髪の毛のくせ毛が凄くて私や他の篠村綾子も編んでごまかしているのだ。
幼少期からこれがコンプレックスで仕方なくてね。
「わかるよ〜?私も癖毛あったし」
このワタシはいま過去形で言った。
「縮毛矯正でも、魔科学でも無理だったんだよ!?どうやって……」
「こればっかりは無理かもね〜。」
――くそ〜!羨ましい!
「貴女、話を聞くにデミゴッドなんでしょ?」
ま、エルフだった方の私の話だけど、世界の外側にいたことあるからデミゴッドなのだろう。
権能も少し使えるし。
って……あ!
「私、貴女を別綾子の中から……」
――消す為に来たんだった。
「まあ……、ごめんね……私が……」
「その口ぶりだとやっぱりアレは別人格とかなの?」
目の前にいるこのワタシからは一切の狂気が感じられない。ならば別人格とかそういった類なのかもしれないと私は思った。
「う〜ん、どこから話そうかね。あ、そうだ。一応、別綾子とその他のワタシは無事ですわよ〜」
なんていいながらこの子はベッドに視線を向けた。
ベッドには別綾子が眠っていた。
いつの間にか現れたのでビックリした。
あと別綾子以外にも3人いる、亡霊綾子かな?
「この身体のワタシ、別綾子の心が弱った隙に入りこんだみたいなんだけどね……『私』が。このままだと危ないから精神体は保護したの。」
「え……、そうなんだ……ありがとう。でも、危ないの?」
「そうだね〜、この扉の外はすっごい危ないよ?まあ私は大丈夫だけど私以外の篠村綾子は取り込まれちゃうよ?」
――取り込まれる?
「順番に話していくね?
まず、私は篠村綾子であり、女神の写し身なの。」
「え、ちょっちょっ!どういうこと?」
「順番に話すから聞いてよ」
――え、あ、うん……ごめん
「貴女と同じく、木の外側の世界に到達し、そこでデミゴッドのままではなく、神になったの。
貴女との違いは、それくらいかな?詳しくは言わないで置くけど。貴女の為にならないと思うし。
だから私は女神となったから癖毛はなくなったの。
それなりに権能も使えるよ。
女神になってしまうと木の外側からは写し身でしかこの世界にはこれないから、今の私は写し身だね。精神体タイプのね。
私は女神であると同時に篠村綾子だったから……色んな世界を渡り歩いて迷えるワタシ達、亡霊のワタシを私の中に取り込んだの。
でもみんなメンタルを壊しててね……。
だから私はみんなと融合しようとしたの。
みんな辛いなら私が引き受けるって。
みんなもそうしたいって言ってくれたし
でもね……」
――でもね?
「融合した結果、生まれたのは狂った私だけだった。」
「え?でも……ここで話してる貴女は?」
「融合してはみたけど私は融合されなくてね……、女神の写し身としては分離されたままの私だね。
別綾子を乗っ取ったのは私の記憶をとりこんだ篠村綾子の集合体。まあ素体としての私が濃すぎて、あの口調なんだよ。
貴女、いや貴女達も完全に融合できてないでしょ?片方がデミゴッドでも両方デミゴッドでも反映は出来ないからね。人間部分同士は混ざったりすると思うけど。」
「あ!そういうこと?だから融合しきれないの?でも今はなんか融合している感じだからどっちの自分なのかわかんない感じだけどぶっちゃけ。」
「女神としての私の空間にいるからでしょうね。まあ化け物を生み出しただけの、なにも出来ない役立たずだけどね……」
「あ……、まあまあ、仕方ないよ……え〜と……外のワタシの集合体はなんとかできないの」
「私や他のワタシの経験や記憶をとりこんで強力なんだよね……。私と繋がってるから権能も使えるし質が悪い。」
「なんとか出来ないの?」
「うん……、ごめん。どうやっても止められない……だから……」
――助けて欲しいの。
そう私に助けを求めた。
でも私にそれが可能なのかわからない。
けど試す価値がある手段は存在する。
――しかしどうしたもんか……
「ちなみに何人の私と融合したの?」
「250人」
――流石に多いね……
そんなに沢山の不幸な私がいたのだな。
なんて思って私は思い出した。
『――どいつもこいつもムカつく』
確かに敵はそんなことを言っていた。
まあ敵、というのも可哀想たけとね。
私達は生きてるし妬まれるのも仕方ないのだろう、なんて考えてしまった。
私達は、篠村綾子は弱い人間なのだ。
すぐ嫉妬する、ノルくん絡みで。
融合の果てに、化け物になったとしても同じ篠村綾子だ。
救いはないのだろうか?
このまま消してしまうことはできるだろう。
やっぱり、分離かな?仮想的に分離は出来るはずだろう。
「部屋の外にいるの?もしかして融合綾子が……」
「いるよ……」
「みていい?」
「いいけど……結界張るから待って」
女神綾子が結界を張ってくれた。
「すごいねこの結界、真似できないのかな?」
「権能だし難しいと思うよ?」
そっか〜、なんて言ってドアノブに手をかけて少し部屋の外を覗いた。
……けどそっ閉じした。
「なんかいたよ!?なに?こわ!!」
ドアを少し開けたら距離5cmくらいのところにワタシの顔があった。
目は血走り見開き、私をじっと無表情でみていた。
紅茶のカップを持っていたのがシュールだった。
「私と融合した篠村綾子の成れの果てだよ。」
「そっか……、めっちゃビビったしまさかそこにいるとは思わなかった。もう一回トライしよう。」
そっとドアを少し開く
「や、やあ……ワタシ」
「……」
――なんか言ってよ!!怖い!
「こ、紅茶飲むんだね……私はコーラばっかりだったから……」
「なんですの?そこから出てきていただかないとアナタのことがみえませんわ。ねえ、早く出てきてくださいまし」
「え、みえないの?」
「アナタはいったい誰なのでしょう?」
「私は貴女と同じ、篠村綾子だよ」
返答はない、――怒っちゃった?
「……しゃい」
――なんて?
「嘘おっしゃい!」
――ヒエ……お、おこっちゃった!?
「貴女が私と同じなら何故そんなにも笑っていられるのです!?貴女が私なら何故、そんなにも……、『希望』『未来』を感じる声色を発しているのです!?ズルいですわ!私は、私には……ノルくんがいない……ノルくん……ノルくんノルくんノルくんノルくんノルくんノルくん……妬ましい……幸せそうな貴女達が……」
ドアをそっ閉じした。
「え?そこまで聞いて閉じちゃうの?」
――え、だって
「怖いんだもん……」
「まあ、そうだよね」
女神綾子も大変だったんだろうな……。
でもワタシの集合体からは狂気以外にもどことなく儚い気持ち、まるでレモンの様に酸っぱい気持ちも伝わってきた。
「まあ消滅させるのが楽なんだろうけど……」
そう言ったのは、私ではない。
女神綾子でもない。
「別綾子?起きたの?」
「うん、起きたってのも変だね……。自分の体、魂の中っていうのに変な感じ」
――あ、そうだよね
「一応、ざっと記憶を読み取ったけど概ねは把握したよ。」
別綾子、サラッと難解なことやるけどどうやって記憶を読み取ってんの?
――プライバシーは?私のプライバシーは?
「あ、こんなこと出来るのは私の中に入ってることが前提だから安心して、若いワタシ」
また、顔に書いていたらしい。
「貴方もデミゴッド?ではないか……おかしいな、なんでだろ?気のせいかな?」
女神綾子が別綾子になにかを感じたらしい。
別綾子は色々とぶっとんでるから気にしたら負けだ。
「私の中とはいったけど、この空間は私の中じゃないけどね」
女神綾子の空間だよね、確か。
「じゃあさ、分離させてみる?」
なーんて思って口に出したものの……
「あの狂ったワタシが一時的におとなしくなるかもしれないけど、根本的な解決にならない気がする。基本的に妬ましい気持ちの塊だしね」
――まあ、そうだよねー。
「あのワタシの集合体の無念を緩和させることなんて出来るの?」
どうすっぺなー。どうすっぺなー。と別綾子と女神綾子と中身の無い話し合いをしながら唸っていた。
正直、どうすればいいのかわからない。
――消滅させるのがいいんだけどね?篠村綾子的にはちょっと思うところがあるじゃん?臭いものには蓋を、なんて言葉はあるけども、あるけども?
――それは最後の手段じゃん?
ちなみにどうすればいいのかわからん、なんていったのは半分嘘です。
「なんとなくだけど、一つ手はありそうな気がするんだけどね……。」
それとなく皆もそう思いつつ口に出さない雰囲気は感じられた。
「う、うん……わかる……けど」
別綾子はなんとなくわかってるのだろう。
「いいの?いいの?本当にいいの?いいんですのー!?」
女神綾子に至っては興奮気味でお嬢様言葉が出てしまっている。鼻息も少し荒い。
「いいかどうかはアーニアさん次第……かな?あとは部屋の外にいる血走り綾子が大人しくするかどうかも……」
「多分大丈夫ですわ!!私と繋がっているんですもの!!もう伝わっていると思いますわ!!」
お嬢様言葉が素なのかな?女神綾子は
「まあ……、アーニアさんが許してくれたらね……この世界の」
「うーん、五分五分だよね。あの子がどう思うかは。案外ノリ気になるかもしれないし、嫌っていうかもしれないし……」
「別綾子もそう思う?」
「そうだねー」
ちょっとドアを開けてみる。
血走り綾子が立っていた。
否、顔真っ赤っか綾子が立っていた。
「ほ、ほほほ、本当にいいの?そ、そそそそれ!?」
――あ、女神綾子と繋がってるからわかるのかな?お嬢様言葉じゃないな?あれ?女神綾子が素体とはいえこっちの素は私達と同じなのかな?
まあそれはさておき
「うーん、この世界のアーニアさん次第かなあ?あと貴女が大人しくしてくれないなら、それすら叶わないよ?」
「わかった!おとなしくする!!」
――お、こういう話になると話がわかるねえ
「じゃあアーニアさんにお願いするからこの身体は別綾子に返してね。大人しくしてないと出来ないよ?」
「わ、わわわ!わかった!!」
いつのまにか部屋の中に入っている顔真っ赤っか綾子――女神綾子が許可したのかな?
私達がなかなか口に出さなかったその方法とは
「アーニアさんに憑依してノルくんとデートかあ……、いいなあ羨ましいな」
「やっほーい!!!」
――まじかあ……アーニアさん次第とはいえ羨ましいなあ。
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