【神話】神話ではあるけど…現世でのお話


 とある年の、とある日

 女子が集まり会合を開いている。いわゆる女子会である。

 多分。

 生きてきた年月を言ってしまえば女子??と思うことだろうが見た目は少女そのものであり女子と称しても何ら問題ないはずだ。

 一人は大聖母(笑)と呼ばれ、そして一人はハイエルフだ。


 更に、女神の写し身が2人、精神体だけ来ている。

 強いて言えば、人としてこの世界で生きている女子二人も女神の写し身であり現身だ。


「で、集まったわけだけど?何用かしら?」

 大聖母と呼ばれている少女が高圧的に問いただす。

『いや、あのね?こっちのワタシが話たいことがあるんだって』

 この世界を管理する女神が言い出した。

 1年に一度、お菓子を食べる為に相談役として大聖母と呼ばれている少女へ憑依する例の女神だ。

 主導権は取れなかったようだけどね。

 代わりにホログラムの様な権能を使用し立体的に幽霊の様に仮顕現している。


 その女神に【こっちのワタシ】と呼ばれた少女もホログラムで投影されている。

『あ…あの…、その…えと…あの…あ、あ、あ、あ』

 すっごいコミュ障!!を発揮している。


 私は知っている。

 途方もなく永い永い時間、ずっと一人だったし――まあこうなっちゃうよね。

 私はとある篠村綾子に憑依した時に記憶や知識、経験を取り込んだからコミュ障は緩和したけど。


「がんばれ!ワタシ……」

 見かねて思わず【静寂の木の女神(わたし)】にエールを贈った。


『ひ……!!』

 軽く悲鳴をあげて気絶した…。

 わかる。まあ、私の【本体】だもんね。

 本体とは言え、私がだいぶ変質してほぼ別人の様に独立してしまったし、恐らくこのワタシにはいわゆる女神の写し身の経験を回収する【反映】は出来ないだろう。

 本体といっても【本体】から連続した記憶をもってる【写し身】だけどここでは本体と呼んでおく。


『あちゃ~、また気絶か?死んだフリじゃないよね?というか精神体なのに気絶出来るの凄いよね……』

 私も出来るけど。


「でさ、私の本体はなにがしたかったの?」

『うーん、貴女の元となったこのワタシがね?直接謝りたいんだって?篠村綾子達に謝りたいみたいだけど多分気絶しちゃうだろうから……貴女達にと。』


「え?というか私がもう謝ったよ?それに自分に謝るっておかしくない?私も当時は連続した自我を持ってたわけで……それでこの世界にやって来たんだよ?」

『それでも、謝りたかったんだって。わかるでしょ?』


 少し木の外側にいたときのことを思い出してみる。


「あ~……そういうことか」

 納得した。


「え?え?なんなの?私にもわかる様に教えてくれないかしら。」

 大聖母と呼ばれる少女はわかっていないようだ。

 わからないのも当然だ。


『まあ、そうなっちゃうよね。』

「そうなっちゃう?私の本体である貴女が責任をもって教えてくれないかしら?混沌の木と今は呼ばれているのだったかしら?その木の女神さん?」

『そうなっちゃうよね』

「そうなるに決まってるじゃない」


『いや、教えるのが誰かって話じゃなくてさ』

「え?どういうこと?」

 まあ、そうなっちゃうよね。私も混沌の木の…――この世界の女神が言わんとしていることがわかる。


『私は貴女の本体じゃないよ?』


「……」


 大聖母と呼ばれる少女は瞼ひとつ動かさない。

 どうしたのだろう?

 まるで時が止まっているようだ。

 恐らく、思考がフリーズしているのだろう。


「……――まじで!?」

 あ~理解したらしい。

 普段は「まじで!?」なんて口調になるキャラではないから、よっぽど驚いたのだろう。

『まじで』


「ちょっと貴女、黙ってたわね。」

 大聖母が私をみて睨む。

「だって、聞かれなかったんだもん。」


「本当なのかしら。一応聞くけど……そこの気絶している半透明の子が、私の本体っていうことよね?」

『本当だよ』

「え?別人すぎじゃない?じゃあこの世界の女神である貴女は何者なのかしら?」

 まあ大聖母も十分別人過ぎるけどね。


『私もワタシだよ。この子が木の外側の世界で私を写し身として生み出した。その時点ではこの子も私も差異もなく連続した自我とこの世界を作るまでの記憶は持っていたよ。単に自分が二人になっただけ。』

「なのに……どうして。」

『覚えていない?』


--------------------------

 とある巨木は何もない塵だらけで荒廃した世界。

 とある巨木では地獄のような悪魔の様な者たちが住む世界。

 私を導いたルナを責め続けていた時の自分の様な者たちが巣くう世界。

 私は「そんな世界はつまらない」とそれらの巨木を放置した。

--------------------------


『この木の世界を見つけるまで沢山の木を放置してきたじゃないか。【ワタシ】という写し身達と一緒に……』

 そう、放置してきた木にもワタシ達はいる。

 いつもいつも嫌がらせしてくるんだよね、あの子達。


「…――!でも、この木の世界を放置して行くなんて私なら考えられない。」

『別に、放置ではないんだ。この子は、このワタシは、この子と分かれる前の当時の私は【新しい木】を見つけたんだ。この世界と同じく綺麗に輝く大きな木を。』

「だから……」

 まあ、でもぶっちゃけ半分ノリ気じゃなかったんだけどね。


『そう、でもどっちが新しい木を担当するかはジャンケンで決めたんだけどね……』

 あれは、辛かったね。だって【あの人】がいる木を常に覗けなくなるんだよ?


「そうなのね。でもなんでまたこの世界、この木に戻ってきたのかしら?挙句にこの世界に侵入してきたわよね?」

 大聖母がこちらを見て話す。

 私が話すか。


「それはね、静寂の木の世界にこの【地球の様な惑星】があったの。でも、人が居なかったから。」


「え?それで戻ってきたの?」

「そう、混沌の木をカンニングしてどうにか人が居る世界を作りたかったの。」

「あー、なるほどねー。だからこの世界を観察したいっていってたのね?」

「そう、でもコミュ障拗らせた上に、人もいない世界を眺めすぎて永い時間を過ごす間に、道徳も忘れ、挙句はやり方が強引すぎてたけどね……」

「まあ、そっか、わかったわ。だから私達にも【創造神】としてしっかり謝りたかったってことね?そこのハイエルフさんが、ではなくて」

 うん、多分それで合っていると思う。


『そう…いぅ…こ…と』

 わ!!目覚めた!?しかし、この世界に来てから私も変わったせいか、改めて自分を見るともの凄ぐコミュ能力低下してるよね。

 この世界にとあるワタシを写し身として生み出した時は全然しゃべってたよね~。

 新しく管理した木にはルナもいなかったし世界にも人がいないし仕方ないよ…。

 あれ?私も結構、本体を別人として客観視してしまってるね。


『ごめんね』

「いーよ!ごめんね!私ばっかりちゃっかりこの世界に残っちゃって」

『ようやく謝ることが…出来た』

 お?その調子だよ!少し喋れるようになってきたね!


『それにしても静寂の木の女神の写し身、いや今は現身か。なんか私達が分かれる前のころの私みたいだね。篠村綾子の影響だろうけど』


「あー、確かにそんな感じだったわねー。」

 へ?そういえば?うーん、自分だとよくわかんないなー。


「逆に混沌の木の女神はちょっと貫禄というか威厳?というか落ち着きが出てるわねー。」

 確かに、少し容赦ない感じするね。

 なんか別綾子みたいかも?

 永い時間をかけると私もこうなる可能性があったというわけだ。


『あの……ワタシ…』

 大聖母!静寂の木の女神、創造神が呼んでるよ!

 大聖母は私をみている。なんで!?

「呼ばれているわよ、そこのハイエルフさん」


 やっぱり?なにか視線を感じるなあって思った!

『私も…ミルクレー…食べ…い』


 まあそうなるよね。

 そのくらいいっか。

 私は自身の精神体にプロテクトを念入りにかけた。

 一応、この女神、精神体とか魂核について異常なほど詳しい。

 なんてったって自分自身なのだからわかる。


 元々憑依させててホログラムでこの女神(ワタシ)を投影させてたけどそっちは消し、身体の主導権を明け渡した。別綾子の魂にリンク付けされているけど対策はしたし大丈夫だろう!多分!


「うわああああ!!おいしいー!!ほんと美味しい!!1年に1回食べてるなんて卑怯だぞ!!ワタシ!!」


『「!!!!!???」』

 いきなり流暢に喋りだした!?


『まさかと思うけど私の精神体をトレースしたね?記憶やら知識はプロテクトかけたから大丈夫だろうけど……』


「そうだよー!ズルしちゃった!!流石に貴女をそのままトレースするのはフェアじゃないと思ったけど【この世界で形成された貴女の性格】だけはトレースしちゃった!これでコミュ能力は治ったかも!」

 私としてはそれでいいかな?敢えて全てをプロテクトしなかったわけだし。けど本当にやるとは思わなかったよ。

 なんというか私の性格をトレースしてこの世界の木を管理していた頃に戻ったって感じかな?

 まあこの程度の変質なら元の性格に戻ったともとれるし反映はできるのかな?少し不安だけど。


『なるほど精神体で憑依すればそんな事ができるのか……』


「絶対にさせないわよ!」

 大聖母が警戒する。

 反映って感じのレベルだと、私や静寂の木の女神じゃないと出来ないと思うけどね。

 記憶覗いたりとか参考にするくらいのレベルなら出来るだろうけど。

 私は別綾子を完全ではないにしろトレースした結果、今の私が形成されている。


『ハハハ!じょ、冗談だよ〜。こんなに喋れる様になったなら連れてきた甲斐があったね~。じゃあそこの大聖母さん…その、私も……』

 混沌の木の女神もミルクレープ食べたいらしい

 ちなみに静寂の木の女神はもう満足して引っ込んだ。


「ダメよ!1年に一回の契約でしょう?」

『んー!!もう…!ケチ!!ワタシのわからずやー!!』

 その「ワタシのわからずやー」って、概念的自虐じゃない?

 混沌の木の女神(ホログラム)が今度はこちらを見る。


「わかったよー……でも報酬として私にも魂とか用意できない?私、精神体と肉体だけだから。」

 タダ働きは嫌かなー。本体はまあ特別に食べさしてあげたけど。


『いいよ、近い未来に、もうひと仕事お願いすることになるよ?その過程でしかそれは叶えられないけど、それでもいい?』

 うーん?よくわからないけど……魂を貰えるってことでしょ?でも詳しい私ですらその方法がわからない。どうしよう

「うーん、まあいっか。いいよ!」


 深く考えず私は了承した。

 この時の私はあんなことになるなんて、あんな方法があるなんて想像すら出来なかった。

 まあ、それは別のお話。

 混沌の木の女神もミルクレープを食べて私に主導権を返した。


「でもさあ、静寂の木に帰るのまだまだ先なんだろうけど帰る時はルナの写し身でも本体でも連れていきなよ?話相手はいたほうがいいよ!」


『それ!それ!さっすがワタシ!!』

 静寂の木の女神に褒められた。

 えへへ、それほどでもあるかな~?って…綾子が感染しちゃったよ。あの綾子いい子だしかわいいもん!真似しちゃいたくなる!!


 とまあその他諸々、【別の木の性格の悪い女神(わたし)に対する愚痴】とかを聞いたりしながらも解散となった。

 彼女らはだいぶ溜まっているらしい。

 まあ放置してきた木と女神、これも自身が招いた結果だからなんとも言えない気分にもなるのだけど。


 それはそれとして、私はもう女神ではないし、この木の中の世界で人として生きていかなくてはいけない。

 今は別綾子と魂がリンクされているし、どうしようかなあ。あの綾子に付いていくか、またはあの綾子についていくか。

 答えは出さないといけない。別綾子への贖罪もあるしなあ。

 今度相談してみよう。

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