第25話 あれから10年…ワタシは出来る女なのでドヤ顔なんてしない

 というわけで1週間ごはん抜きもなにも、リノアちゃんを1週間休みにしてもらった。

 というか…なんで皇龍姫がウチで働いていたのかは気になるけどまあそれは後ででいっか。


「なんじゃと……では綾子は食堂のグランドマスターなのか?」


「えへへ、そうだよ〜。」

 まあレシピ開発以外はほぼ引退してるから名誉職だけどね…。

 レシピ開発についてもアーニアやミントちゃん、リリスちゃんもやりだしてるのでそろそろ本格的に引退かな?

 私、この世界からいなくなるからね……。


 リノアちゃんはミントちゃんに「サボりすぎたから謹慎!ご飯も無し!」と言い渡され、途方に暮れてたから1週間だけこちらで預かることになった。

 もちろんミントちゃんと私達でそういう建前にして三文芝居しただけなんだけどね。

 「しっかり働かないとこうなるぞ?」という教育である。

 だってリノアちゃん逸材ではあるけど働いたことないんだから、しっかり研修は必要である。

 

「ミルクレープとショートケーキとやらはもう天にも昇る気持ちじゃった。」


 うっとりした表情でどこかをみつめるリノアちゃん。

 ふっふっふっ、気に入ったならまた食べさしてあげげないでもないかな?

 美味しく食べてくれる人には私は割と寛大なのだ。


「で、リノアちゃんさ、うちのリナちゃんが【身体】を見合ってないものに人化したせいで【精神体】のスリープモード解けないっぽくて、詰んでるんだけどさなんとかならない?」


「リナ?あ〜、確かに妾のコピーとして創った個体名がそうじゃったな。リナとノアじゃったかな?妾が判別しやすいように名付けた。」


「コピーなの?」


「コピーといっても妾が死にそうになった時に生み出した卵でな。妾の魔力で孵化させて同じ魂核に改造して精神体をリナに移して新しい自分として生きながらえるようとしたのじゃったが邪魔されてしまったのじゃ。」


 転生秘術のようなものとはアーニアが言ってたね。

 その為のリナとノアだったということか。


「ノアはバックアップだったのじゃが……それも卵の状態でアーニアに邪魔されてしまってな。」


 まあ、邪魔するよね世界滅ぼそうとしたんだもの。


「でもこう元の身体のままでいられて生きながらえておる……ツキヨミの……――感謝する」


「いや、お兄ちゃんがね」


「お兄ちゃんとは誰なのじゃ?まさかダーリンのことかの?」


 ダ、ダーリン?


「な、なんでもないよ。まあどういたしまして。」


 こちレイちゃんがさっとお礼を受け入れた。ダーリンって誰?くんくん、なにか匂うな?


「でも美味しいものが食べられるこの世界の為じゃ。贖罪でもなんでもする」


「じゃあ、ひとまずリナちゃんのとこ行こっか」



 私達が寝泊まりしている結社支部であり宿でもあるリナちゃん宅へ行った。

 別綾子やアーニア対策としてもちろんリノアちゃんの気配と魔力は隠蔽した。


「あれ?もう帰ってきたの?遺跡調査じゃなかったっけ?早くない?」

 着いたと同時に別綾子とエンカウントした。

 ラストダンジョンに入った途端にラスボスより強い裏ボスが現れた気分である。


「思ったよりなんにもなくてね」


 こちレイちゃんが言ってくれた。


「まあ、あそこは私も探したからなにもないと思ってたけど。そっちの子は?」


 あれ?気配と魔力隠蔽できてなかった?

 こちレイちゃん!!?


「あ、この子?新しく結社食堂で雇ったアルバイトの子。ウェイトレスなんだ。友達になったんだよねー」


 こちレイちゃんのアドリブもあまりキレがない……仕方がない、相手は別綾子だから…。

 なんで効かないんだよ、もうバレてるよ絶対


「お主は、妾を起こした……」

 リノアちゃん!シャラーップ!!黙ってて!


「妾?どこかのお姫様?まあ…、人にはそれぞれ事情があるもんね。」


 あれ?バレてない?セーフ?


「ハハハ別綾子、そう察してくれるとありがたい。」


 こちレイちゃんが乾いた笑いで返す。

 そうじゃゆっくりしていってねーって言いながら別綾子は出掛けていった。


「いや〜、心臓飛び出るかと思った……こちレイちゃんもだいぶ焦ってたね。」


「あの綾子は心臓に悪い。」


「あの、なのじゃが……別綾子と呼んでおったが、あれが話に聞いていた別世界のアーニアなのじゃな?妾を起こした。【身体】【魂核】【精神体】をビビビっと解析されたのじゃが大丈夫なのかの……怖かったのじゃが」


「そう、アーニアよりおっかないから……多分、誰も勝てない」


「アーニアよりもなのか……?」


 事前にリノアちゃんには別綾子について説明していたのだけど、それでも想像以上に怖かったらしい…。


「でもなんでバレなかったのかな?もしかして泳がされてる?」


「いや、顔は知っているだろうし……なんでだろ?」


「隠蔽操作がギリギリで作用してたのかな?」


 まあ、なんとかなったし良かったのだろう。


「レイちゃん、アーニアの……ワタシの様子みて来てもらえないかな?部屋だと思うけどリナちゃんとこと近いから。」


「ガッテンだよ!まあ引きこもり中の……扱いは慣れてるから」


 誰のーとは言ってないけど心にグサグサささる〜!でもレイちゃん頼もしい〜!


「ごめんワタシをよろしくねー。」

 レイちゃんにはハンバーガーとシャカシャカするポテトと黒い炭酸飲料を持って行って貰った。

 私が引きこもっていた時レイちゃんが買ってきてくれていたアレだ。


「お〜い!アーニア子ー!ハンバーガー持ってきたぞ!一緒に食べよ!?」

 

 ドンドンドン!ドアの叩き方もやかましさと優しさが絶妙で流石である!しかしドアは開かない

 それにアーニア子?


「シャカシャカするポテトもあるぞ〜!」

 ドアは開かない


「あの後、1年間にあった高校での未来について話すぞ〜!興味ない〜?」


 この世界のアーニアは16歳でこちらへ来た為にその後の未来は知らない。

 私も当時、休学中の出来事はレイちゃんによく聞いてたなあ〜。


 お?ドアが開いた!!


「お〜、アーニア子〜!思ったより元気だね!ってこの部屋凄いな!?なにかのマスコット人形?ぬいぐるみ?がいっぱい!?これはノ……――」バタン


 これはノの次はなに!?ドアが閉じちゃって聴こえなかった!!

 ま、アーニアのことはレイちゃんにお任せしよう。


「さてさてリナちゃんは……あ、アヤ、ツムギちゃん」


 アヤとツムギちゃんがいた。まあ、アーニアズじゃないから大丈夫だよね。


「あらあら〜、どうしたの〜?リノアまで連れて来ちゃって〜。」


 え?速攻バレたよ!?


「まあ、アヤやツムギちゃんにはこの程度の術式効かないんだよな」


 こちレイちゃんが言う。なんで?

 もしかしてアヤ達って凄い?


「綾子、なんで?って顔してるわよ〜?」


 わわわ……!また顔に出てた!?


「だってさ……別綾子ですら誤魔化せたのに」

「まあ、細かいことは気にしないの!大人の女性は細かいこと気にしないものよ〜?」

 あ、そうだね!大人な出来る女は細かいこと気にしない!

 ふふーん!私は出来る女なのだから!


「わかりやくてかわいいわね〜綾子、出来る女に近づいたわね〜!」

 あれ?また顔に出てた?


 とアヤに頭を撫でなられながらもリノアちゃんにお願いすることは忘れない!

 出来る女なのだから!間髪入れずリノアちゃんへ伝える。


「リノアちゃん!この子がリナちゃん!どうにかならないか診てくれないかな?」

 すまし顔感がでて出来る女っぽさが出てると思う。


「わかったのじゃ、でも何故綾子はそんなドヤ顔というか自信満々なのじゃ?単にリナを紹介しただけじゃろ?」

 ドヤ顔!?そんなのしてないよ!?出来る女の顔キメてただろ!?


「何故そんな驚愕しておる……まあよい、いまこの子の様子をみるので待っておるのじゃ。」


 リノアちゃんが解析術式?の様なものを使い始めた。

 けどこれ魔科学?なにこれ?習ったことないなあ、なんだこれ?

 そもそも術式というよりは現象?まったく理論がわからん


「なんじゃツキヨミの言っておった通りじゃ。身体の人化を無理に別の形にしておる。」


「やっぱりそうなの?」


「ふむ、何故かは知らぬが」


「孵化させた時に魔力を込めたのアーニアじゃったな?それで答えは出ておるんじゃが……この子はアーニアに全然似とらん。」


 あ、確かに。ノアは私達、篠村綾子に似てるもんね。

 レイちゃんも混じってるけど。


「ツキヨミの見解で間違いない。じゃがどう治すかだ。と言っても簡単だ。少し荒療治じゃが元は妾のものになる予定だった身体じゃし、妾の人化命令でも正しい姿にコンバート出来るじゃろ。」


 あ〜、これはリノアちゃんにしか出来ないね。あれ?ノアでも出来た?

 あ〜でもノアはわがままだしな……やってくれないかも。


「あれ?このリナちゃんは見納め?」


「そうなる……じゃがこの子が望めばまたこの形には出来る……スリープモードになるとまたこうなるのじゃがな……」


 なんで本来の姿にならないんだろう?

 いやなのかな?


「まあ、でも拉致が明かないし、治せるなら治してリノアちゃん。」


「あいわかった。」


 返答と同時に間を入れず、リナちゃんの人化をリノアちゃんが行った。

 光に包まれたリナちゃんの身体が姿を変えていく。

 本来、形成すべき人の姿へ徐々に。

 なんかね、こう…もやもやもやほわんほわんって感じ。

 光が消えて行き、コンバートは終わった。


 リナちゃんの本来の姿を確認した…

「綾子この顔……!」

「あらあら〜、リナ更に可愛くなっちゃったわね〜」

「まあ、そうじゃと思ってはいたのじゃが……これほどとはの……」


 その顔は私にそっくりだった。

 アホ毛の束は無いし髪は私より短いけどね。


 こちレイちゃんやリノアちゃんに元の姿に戻ったリナちゃんの状態を診てもらったけど特に問題なくそのうち目が醒めるじゃないかな?って言ってた。

 そして、本来あるべき姿となったリナちゃん。

 その姿は私と瓜二つ、ソックリ、と言えるくらいには私、篠村綾子に近い姿をしていた。

 リナちゃんが寝ている横に寝転んで並んでみんなにみてもらったんだけどアヤよりも篠村綾子にソックリでパッと見は「髪きった?」くらいに間違えるほど似ている。

 試しに私ソックリの髪型ウィッグを被せる。即席で作ったよ!?

 そうするとやっぱり私そっくりだ。


「まあ、綾子と並ぶとソックリではあるけど多少見分けは付くかな?綾子3人が並ぶと髪型以外で見分けはつかないけどリナは辛うじてわかるかな?でも凄い似てるね。」


 リナちゃん、私にソックリだったんだね。

 アーニアの魔力で孵化した神龍だし、ノアの例を見るとやっぱりそうなるよね。

 でも私と同じ姿なのが嫌だったのかな?そうだとちょっと悲しいかも。

 私はアヤに始まり、アーニア、別綾子、さらにはノアと綾種がいっぱいいるから今更なんだけどね。

 どこのソーシャルゲームガチャだ。

 篠村綾子は同一人物としても同じ顔で別人の人はもう現れないよね?

 もしこれ以上何人も増えたら……


「まるで綾種のバーゲンセール!?私が一番弱いんじゃね!?レアリティはR!?」


「む?なんの話じゃ?綾子」


 は、声に出してしまっていた。


「綾子はUSRだから大丈夫よ。」

 アヤが私を撫でてそう言ってくれた。

 というかなんでアヤがソシャゲネタ知ってるんだ?

 でもUSRってウルトラスーパーレアでしょ?


「ふふーん、アーニアや別綾子という可能性を見ると私にはポテンシャルがありますからね。」

 今回はドヤ顔の自覚はある。

 ま、私は大器晩成だからね!


「あらあらー、あっちの綾子、アーニアがソレ聞いたら喜ぶわよ~」

「え!?そうなの?まあアーニア、ちょぴっとだけおツンデレだもんねー。」

「それ、ブーメランだから」

 こちレイちゃん!?

「え、私、ツンデレ要素なんてあった!?」

「まああっちの綾子がそうならこっちの綾子も素質はあるでしょ。お兄ちゃんにツンツンしていた時期もあったよ?」


 うわあ、黒歴史じゃん。

 アーニアのことを私がいうと自分に跳ね返ってくる。

 気を付けよう。


「私はツンデレになってしまうルートからは外れたいと思います。いや、ありえないっしょハハハ」

「うむ、フラグというやつじゃな?」

「やめて!?」


 なんてリナちゃんそっちのけで雑談していた。

 私はリナちゃんの隣で寝転んでまだベッドに潜ってるんだけどね。

 眠いな~、ちょっとだけこのままリナちゃんと寝ていようかな~?


「ん、え?姉…さん?それに……」


 お?この声はリナちゃん?こんな声だっけ?


「おはよ~リナちゃん。大丈夫そう?」


「少し頭が痛いかも、あと声があ…れ?風邪かな?姉さん、私、声が変じゃない?」


 確かに前にあった時の記憶にある声と少し違うかも?


「顔だけではなく声も似ておるのじゃ。」


 え?あ…、どこかで聴いた声だと思ったら私と似てるじゃん?


「え?顔?なに?」

「ほーらリナ鏡よー。」

 アヤがリナちゃんに手鏡を渡した。

 リナちゃんが自分の顔を見る。


「あ、あ~……ダメ!!この姿はダメ!!!」

 はぅ!!


「あ、あ、あ、あリナちゃん……」

 リナちゃんから痛恨の一撃を食らい、私はなんてどう答えたらいいかわからなかった。

 私の残HPは1となった。

 ステータス上はレベル1なんだからすぐ死んじゃうー!?瀕死である。


「ダメなの!この姿でいるとダメなの!」

 リナちゃんベッドから駆け出して窓から飛び降りてしまった。早まるな!

 みんなは突然のことで、どうしたらいいかわからず固まっている。


「あ、やばい!ここ5階だよ!?」

 ダッと窓から下をみたらリナちゃん普通に走ってた。

 まあ、5階くらいからじゃなんてことないよね~。

 知ってた。私は怖いからやらないけどね。

 なんてホッとしているうちにリナちゃん皇都の人混みに走っていって見えなくなっちゃた。

 思ったよりあまり速く走ってなかったから本調子じゃないのかな?大丈夫かな?

 もしかして、リナちゃん家出?夕飯までには帰ってくる??

 

 リナちゃん割と大人しいイメージだったけど取り乱すんだね。

 私と同じ姿が本当に嫌なのかな。

 私、悲しい。


「みんな?大丈夫?」


 みんな、固まっちゃってた。


「たまに帝国にきてリナに会ってはいたけどあんな大声だして取り乱してるの初めてみたからね…びっくりしちゃって反応できなかったわよ。」

「私もです。まあ私も気持ちはわかりますけどね」

 アヤとツムギちゃんですらそういう。

 私もそういうイメージだった。

 けど心の中ではなにか抱えていたのかも。

 私に似た姿であることを隠していたくらいだしね…。


「でもなんで、リナちゃん私と同じ姿じゃダメって言ったんだろ。」

「ルーンのAIに紛れていたころからリナを観ていたけど私にもわからない」

 こちレイちゃんもかー。


「妾には実際のところ分からぬが……アーニアに関連するなにやかも知れぬな。」

 まあそうなるんだよね、でもアーニア=私でもあるからなあ。


「アーニアに聞いてみたいところだけど、肝心のアーニアがいまアレだからなあ。しかもリノアちゃんいるしだいぶ拗れてきたね…」

「アーニアはいま調子が悪いと聞いていたが、妾が関係するのか?」

「あ、あー、うーん、なんというか。私はよく知らないんだけどね。」


 リナちゃんは家出っぽいし、肝心のアーニアは引きこもり中。

 結社のお偉いさん方はガタガタである。特に綾種が。

 ひとまずリノアちゃんにはアーニアの引きこもり発端を教えてあげた。


「うーむ……そうじゃったのか。妾はそこまで嫌われておったのかじゃな」

 リノアちゃん、哀しそうな表情で少し表情が曇っていた。

 私はリノアちゃんいい子だと思うんだけどなあ、今のところは。


 リナちゃんについてはツムギちゃんに、一応護衛という形で近くで見守ってもらうことにした。

 居場所特定マップで場所もわかるしね。

 それよりもリナちゃんの情緒に影響あるかもなんて考えたりしてなんて話したらいいかわからないし、私の姿じゃダメって言われたのが未だにグサグサ心に刺さっている。

 メンタルは10年この世界で暮らして多少は強くなったつもりだけど

 ちょっとね……


 どうすっぺなーってみんなで答えの無い会話を続けていたら


「そんなことだろうと思っていたけど皇龍姫をよく見つけられたね。」


 げっ!別綾子!!


「あ、あ、あ、あ」

 テンパって「あ」を繰り替えすことしか出来なかった。

 場に緊張感が張り詰める。

 アヤだけはニコニコしててツムギちゃんはいつも通りだ。

「そんなに警戒されると本当に傷づく…。私だってアーニアだし篠村綾子だし。」

 別綾子、すこし膨れ面で間をおいてため息を吐いた。


「は~……神龍の子がリナがそうなっちゃったのも私のせいだし?私も皇龍姫のことを探していたんだよ……責任感じてね。」


 へっ?そうなの?早く言ってくれよ~。


「そ、そうなんだ。別綾子も探していてくれたんだ……。」

 街ですれ違った時、めちゃくちゃ怖かったけど?

「さっき玄関であった時も街ですれ違った時も気づいてはいたけどね……」


 やっぱりバレてた!!


「まあこの世界の術式はセキュリティが甘々だからね、帝国郊外でやってた大規模な術式も検知できたよ。」


 そこまでバレてた!?


「それよりも、貴女がこの世界の皇龍姫なんだね。私が憑依されて貴女を起こした時の記憶が朧気なんだけど、実際にしっかり見ると私の知っている皇龍姫とは少し姿や雰囲気が違うね。それに言葉遣いも……のじゃっ娘?」


「妾を起こした、別綾子か……起こしてくれて感謝する。でも妾のこと」

「いや、なんというか、私の知っている皇龍姫と全然違うから拍子抜けしたわ。なんというかなんでこの世界のワタシは嫌ってるんだ?それともいまはマトモなフリをしているだけ?」


 別綾子の言う通り、なんでアーニアはリノアちゃんを嫌っているのかわからない。 別綾子はまだちょっと警戒してるっぽい感じはするけど、そこまで険悪な感じも出していない様には見える。


「昔ちょっとヤンチャをしてしまっておってな。そのことで妾を嫌っておるのじゃろ。今はそんなヤンチャなことする気になれん。ミルクレープや美味しいもものがたくさんあると知ってしまったからの。」


「ミルクレープ……それは私もわかる……好き。この世界の皇龍姫は話がわかりそうだね。リオナだっけ?よろしくね。」

「ミルクレープのことをわかってくれるのじゃな?あと妾のことはそっちの綾子と同じくリノアちゃんと呼んでくれると嬉しいのじゃが。ちゃん付けの方が心地よいのじゃ。」

「わかった!よろしくねリノアちゃん!!」


 あれ?別綾子そんな怖くないね。そりゃ、私なんだもの。

 これはこれ、それはそれって考えだもんね。

 じゃあアーニアはなんでリノアちゃんのこと嫌ってるんだ?

 まあいっか、そのうちわかるでしょ?

 今はリナちゃんとアーニアをどうにかしないとね~。


 別綾子も加わって悩んでいたんだけど、一向に答えは出ない。

 かなりデリケートなだけにどうしたらいいのか答えが出ないのだ。

 まあなにか糖分ほしいよね?

 別綾子もリノアちゃんもアヤもチラチラこっちみてきてるんだよね。

 わかった、わかったよー!


「はい、みんなミルクレープversion31.2Rだよー。これはね、少し植物性の油脂とミルクの配合バランスを変えてクリームがいつもよりフワッとしててカラメルにハチミツ混ぜた合成品じゃなく楓からとったメイプルっていうシロップを使ったんだよ。あと生地つくるときに卵はふんわりとちょこっと一工夫。これ以上は企業秘密かな?」


 この世界にきてメイプルシロップがないからカラメルにハチミツやら色んなもの混ぜたパチモンメイプル風シロップで代用していたんだけど、ミントちゃんがやってくれました!

 糖楓の木がここの大陸にしかないんだよね。位置的にはアメリカ大陸。


「よくわからないけどいつもより美味しいってことだね!?ワタシ!そのドヤ顔は信頼してる!」


 別綾子の食いつきがすごい!同じワタシなのに食いしん坊キャラが定着しそうだぞ?

 それにワタシは出来る女なのでドヤ顔はしてないんだけどな……おかしいな。


「この前食べたのより美味そうじゃな。これがめいぷる?とやらの匂いか?香ばしそうな甘そうな」


 そりゃうまいよ?だって本物のメイプルシロップだぞ?

 スプーンですくってついつい舐めちゃうぞ?

 あ、リノアちゃんヨダレ!お行儀悪い!


「んー?アーニア様?いい匂いがする、あ、綾子様かー。あ!ずるーい!私もそれ食べたーい!」

 ノアがいつの間にか起きて匂いを嗅ぎつけてきやがった。

 数日寝てた割に元気だな!?


「ノア?おはよう。大人しくいい子にしてるならあげるよ?」


「私、いつもいい子だもん!!でももっといい子でいる!!」

 いつもワガママだけど?誰に似たんだ誰に!

 リノアちゃんか?

 アーニアか?それとも?

 おっと、これ以上は私に響く……


「ほらノア、私の膝に座りな!」

「レイちゃん?じゃなくてレイ様の方か~。レイ様のお膝~!!えへへ。」

 ノア、こちレイちゃんのことはレイ様って呼ぶらしい。


 とまあそれは置いといて、みんなに試しに作ったものを食べてもらったけどやっぱりいつものより格段に美味しかったみたい。

 これはグレード別けをして倍の値段で売り出そうかな?

 それとも、アーニアとのノルくんグッズの取引材料に?ぐへへへへ

「こら綾子~、顔が気持ち悪くなってるわよー。」


 アヤに叱られちゃった。

 お仕事?の話はいっか。


 中身のない会議は続きそろそろ空も茜色に染まってきた。

 リナちゃんの様子みながら飯にすっぺと思ってたらレイちゃんが来た。


 その後ろには

「やっぱりリノアがいるね、なにやら聞こえてくるなあとは思ってたけど。別綾子も普通に一緒にいるし。」


 アーニアが部屋から出てきた。

 グッドタイミングでありバッドタイミングである。

 以外と出てくるのが早かったな!?

「いやあ、アーニア子と話しこんじゃってさー!この世界での冒険譚聞いて楽しかったよー!」

 レイちゃんグッジョブ!!でもこんなに早く出てくるとは思わなかった!!


「で、リナは治してくれたの?」


「ああ、妾が治した。そしたら面白かったぞ?お主にて可愛い子に育っておるの?」

「な!?なにいってんだよ!可愛いとか…。」


 おや?そこまで険悪じゃない?しかもツンデレっぽいぞ?

 私は自分で見てて恥ずかしいぞ?

 私は絶対にツンデレルート回避するからな?


「でも、ありがとう。だからって昔のことは忘れたわけじゃないからね…。」

「うむ、それは仕方ない。でも殴りかかってくるものかと思っておったのじゃが。」

「まあ治してくれたんだし、邪見には出来ないからね、ここで邪見にしたらノル君に嫌われるしなによりも私のプライドがね。」


「そ、そうか……それは良かったのじゃが」

「はい、この話は終わり。ワタシもリノアちゃんもこのくらいにして今はリナの家出をなんとかしようね。」

 別綾子が間でとりなした。


「ちゃん付け……ずいぶん仲良くなったみたいだね、ワタシ。裏切者」

 そこは別綾子も思うところがあるのか冷や汗をかいていた。

 まあアーニアからみたら手のひら返したような感じには見えるんだろうね…。


「は~、それより家出ってリナが?なんで?」


「それはかくかくしかじかで」

 アーニアに説明をかいつまんでした。


「まさかリナがね~、実際、見てないからアレだけど私がまた増えたような感じかなハハハ」

「まあそんな感じしたね、私も。」

「でもそんなに私と同じ姿が嫌なのか……私、哀しい」

「私も」


 結局アーニアもリナちゃんが本来の姿を隠していた理由はわからないみたい。

「リナお姉ちゃん、確かにコンバート別のに変えてたよね、私も神龍だからリナお姉ちゃんの本当の姿ってなんとなくわかるんだけどね、ずっとなんでだろ?って思ってたー。」


 ノアは知っていたらしい。でも答えは出ない。


「まさかノルくん絡みじゃないわよね?」

 アヤが切り出した。


「まさかね」

「それはないんじゃない?」

 本当にまさかだよね。綾子ズの意見は一致した。

 それはないかな?なんとなくそうかも?

 なんてみんな多分思いながらもみんな口に出さない感はあったけどね。


「うーん、ありえないこともないかな~。」

 こちレイちゃんがそう話を盛り返した。


「私はこの【身体】を眠らせていた時にAIのルーンに精神体だけ憑依してた時なんだけどね、色々知ってるんだよね。」

 なにを?


「まあ、そこは本人から直接、言ってもらわないとね……正確にはお兄ちゃんと綾子に関することだから綾子達が考えていることとはちょっと違うかもだけどね。」


「アーニアさん、お願いできる?」

 これは私や別綾子じゃダメだよね?私達はこの世界のアーニア、いや篠村綾子ではないんだから。

 でもアーニアと直接話しても大丈夫かな?なんて思いもある。

 でもこれはアーニアにしかダメだろう。

 アーニア以外の人間が間をとりなしたらアーニアとリナちゃんの間に溝が生まれそう…な気がする。

 これに正解不正解なんてないのだろうけど、役回りとしてはアーニア以外では役不足だと思う。


「……わかった、私がリナと直接話をしてくる。明日でもいい?心の準備がさ……」


 まあ、ワタシだもんね、わかる。

 でもここは直ぐに


「でもさアーニアさん、いやワタシ」と生意気ながらにも私は諭そうとした時に


『アーニア様方聞こえますか?アヤ様より状況は聞きましたが全員お揃いしたようですね。リナ様は現在、私と郊外の宿に同室させていただき安静にしておられます。元のコンバートしようにも今の身体だとうまく魔力を練られない様で、姿はそのままです。特に事情等は私からは聞いていませんので明日にでもよろしくお願いします。』

ツムギちゃんがリナちゃんを確保してくれていた。


「じゃ……じゃあ明日でいいんじゃん!?ワタシ?」

 良かったね!少し心の準備してから行きなよ!!


「そうさせてもらうよ……はあ~。」


 気が重そう……

 まあ仕方ないよね。

 仕方ねえ、私がおいしいものでも作ってやるか。

 おいしいごはんは世界を平和に出来るからさ。


「というわけで願掛けの料理を作りました。明日はがんばってね。ワタシ。これで勝てるよ!?がんばってね!?」


 これはレシピにも入れていないスペシャルな料理なのだ。

 当初、私がこのノルくんだけに食べさせてあげるんだ!って企んでレシピに追加していないものが数々ある。

 まあその後は忘れてただけでレシピに入れてないだけなんだけどね。

 そのうちの一つだ。


 その料理の名前はカツ丼(極・特上)である。

 ノルくんの好きだった日本のお店のものを再現したカツ丼だよ。

 ノル君バイト代入ったらこれ食べにいってたしママやレイちゃんと一緒に連れていってもらったこともある。

 あれは本当に美味しかったんだよねー。

 でも普通のカツ丼(普通)はレシピにあるしアーニアもレシピなしでもうっすらとした知識で作れる。

 でもこれは私が引き籠り中に再現したものであって、食堂レシピは色々工程や調味料を省いているのものなのだ。

 だから美味しいには美味しいだろうけど他の美味しいメニューに隠れて食堂でも人気がない。

 ノルくんもあまり食べない。

 よってアーニアもノル君カツ丼好きなことは知っているだろうけど興味を失っていた。

 ただ好きな人は好きなのでメニューには残っているけどね…。

 特上もなにもこれが私が知る本来のカツ丼なのである。


「あのさ、これノル君が好きなお店のカツ丼の味だよね。いままで黙ってたな……ワタシ。」

「ひ、ひえごごごごめん!カツ丼(極・特上)は追加しておくよ」


 ジロっと睨まれた。まあほかにも追加してないものあるんだけどね…。

 アーニアさんの威圧で私は目を合わせられない。


「ほかにも内緒にしてるレシピあるでしょ」

「な…ななな、そ、そんなわけ……、ってなんでわかるの!?」

 なんで!?


「いや顔見ればわかるから……」

 あらやだ!!また!?そんな顔に出やすいかなあ私。


「あのさ、ワタシ」

 お、別綾子さん!!なんっすか?


「のう綾子よ……。」

 リノアちゃんまで??みんなどうしたの!?神妙な顔してさ!


「綾子~、さすがにわかってるわよね~。私もまたそのカツ丼食べたいわ~。」

 また食べたい??アヤに作ったことあったっけ?アレ?

 開発の試食でアヤに間違って作っちゃったことあるのかな?

 記憶にまったくない。


「あ、あ~、みんなも食べたかったの?」


「「「え」」」

 まじかこいつ!?を通りすぎてみんな無表情になってしまった。

 いわゆる茫然という表情なのだろうか?

 レイちゃんズは爆笑していたけど……やかましい。

 私は空気の読めなさ加減を調整して普段は知らない振りをして、後から知ってたよーってのはやるんだけどね。

 今回はアーニアに頑張って欲しかったからアーニアだけに作っていたのだ。

 だからまじで気が付かなかった。

 だって!必勝祈願とか願掛けとかのつもりだったからさ!『願』が薄れるだろ!?

 

「し、知ってたよ!?みんなにも作ればいいの?カツ丼(上)でもいい??これはアーニアへの願掛けだからさ!?」


「ぷふっ、ハハハハ、いいよワタシ!みんなにも特上で!ありがとね!なんか今のでだいぶ気が楽になったよ。ハハハ」

 アーニアさん!?どうしたの?デレなの?それ、デレなの!?


「じゃ、じゃあみんなにも特上ね。別綾子さんは手伝って!ノルくんこれ好きなのは知ってるよね!?覚えた方がいいよ?」

「うん!私も手伝う!」

「私も見学する!」


 レイちゃんズ見学で加わり料理はじめたら

「いい匂いがするから郊外から走ってきたニャー、おや?綾子それは?」

「アーニア様なに食べてるのですニャ?これは?食堂のカツ丼とはちょっと違うような……」


 ナッちゃんズがさも狙ってきたかの様に入ってきたので追加だけど、まあナッちゃん達も食いしん坊だからね。

 食いしん坊多くね!?


 まあ仕方ない。平和の為に料理はするしかない。

 カツ丼はいいぞ。


 まあこれで明日はアーニアさんがんばってくれ。

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