第17話 あれから2年

 この世界にきてから2年とちょっと経った。

 私は19歳になった。


 19歳にもなればスタイルも良くなって大人に一歩近いちゃうー!って思ってたけど見た目はちっとも変わらず全然ダメだ…。

 どうして。


 そして、私から見てもう一人の篠村綾子わたしことアーニアが目を覚ました。

 アヤと私でいつもの様にアーニアわたしの部屋でおしゃべりをしていたら――


「ノルくん、ここじゃダメ♡」


 ――とかヤバい寝言を言い出した。


「綾子??起きた?おはよう?」


 アヤが言ったのは私にでは無くアーニアわたしに対してだ。

 アヤは私に対してはアーニアをアーニアとして区別して話すけど本人に対しては綾子呼びなのだろう。


「アヤ?おはよう。ノル君は?ねむ…」


「眠いならまだ寝てたら?それともご飯食べる?お粥かなにか作ろうか?お粥つくるのはこっちの綾子だけど。ノル君は仕事じゃない?」


 とアヤは私に指をさした。

 人に指を指しちゃいけません!


「アレ?ジャバウォックは?確か…パンチして吹っ飛ばしたところまで記憶があるんだけど…。」

「それ、2年前の話だよ。わたし。」

「……?あなたが若い方の、ワタシ?」

「そう、その身体と入れ替わったりはしたけど対面するのは初めてだね。初めまして……?」

「おう、はじめまして、お腹すいた」


 ひとまずお粥なんてアヤはいったけどお粥も重いだろうから重湯を作った。

 すこし梅を入れてあるけど。


「おいしい……重湯なのに……おいしいぞ……――!」

「それはこっちの綾子が作ったものだしね。今や結社の暫定的な料理長よ。」

「私、レイちゃんが復活したことで日本にいたころの記憶から今までのほぼ全ての記憶があるんだけど、こんな重湯作れないよ。料理はそこそこ出来るけどここまではアレンジできないし。」


 アーニアわたしと私はなにか違いがあるのだろうか?


「ま、まあそれもそうなんだけど、私が死にそうだった時に身体を入れ替えてまで助けてくれてありがとう。私が今こうしていられるのも貴女のおかげ。」

 これはアーニアわたし自身に一番伝えたかったことだ。


「そっか、元気になったみたいだね。あまりにも不摂生の塊みたいな状態だったから大丈夫かな?って思ってたんだけど。健康にはなったみたいだね。あと、ごめんね!目が金色になったちゃったのは私がその身体で無茶しちゃったからハハハ。」

 そう、私の目はアーニア同様に金色になっている。


「いや、大丈夫、これかっこいいし、へへ」

「そう、それなら良かった。というか貴女、本当にわたし?」

「え?なんで?私は|篠村綾子(わたし)じゃないの?」


 その問いに対し、私は違和感を覚えた。

 だって他ならない|アーニア(わたし)自身が疑問に思っているのだから。


「確かにー、なんかここまで料理やお菓子を作れたり、あげく少しオタクっぽいしなんだろう、あと運動がとても得意ではなさそうで、おかしいなって思ってたわ。」


 アヤはそう感想を述べた。

 それらは1年間日本で引きこもっていた時に身に付いたり料理についてはそれから洗練されたものだしね。


「日本でノル君が居なくなってから1年学校も行かず引きこもってたしね……――それからいろいろとね。」

「ひきこもってた……??やっぱりこの記憶は貴女のものなのね。ワタシ。」

「そうだよ?アーニアわたしもじゃないの?」

「いや、私は引き籠ってないしこちらの世界、といってもここではないのだけど、こっちに来たのは16歳の時だよ?ノル君の家でママやレイちゃんとごはん食べてたらいつの間にかレイちゃんと私だけ貴女達の様にこちらのA87地区にいたんだけど。あれ、なんでいままでレイちゃんとママのこと忘れてんだっけ?擬似神格化の記憶封印にしては忘れ過ぎな気が……まあいっか。」


 こちらの世界に来て牛すじカレーのレシピが洗練されていないことや、料理をあまりしない、ということの違和感について合点がいった。

 前から料理はしてはいたけどそれらは引きこもっていた時に洗練されたものなのだから。

 お菓子作りなんて特にそう。


「そもそも私がこちらの世界に来た時に身体が入れ替わる、なんてことは起こらなかったわけだし。その点でちょっともやもやしていたんだけど。そこまで差があるならこういう事も起こるのかなっては思ってきた。」


 アーニアわたしがそう告げ可哀そうなものを見るような目を向けてきた。

 やめろ……、そんな目で私を見るな!


「貴女と入れ替わったことで貴女の記憶も私に多少残留しているんだけど、相当つらかったんだね……。でもノル君は生きているから……――安心して?」


 私の記憶を知っているだと?

 同じアーニアわたしだからいいんだけど…?

 なんかもやもやする。

 そもそもここの世界にアーニアわたしがいる時点で私が割り込む隙はない。

 ――って、アレ?私、この世界から出ていくんだっけ?


「あのさ、私、この世界から出ていくんだっけ?そこにノル君はいる?」

「いるよ、貴女のノル君はいるから。安心して。」


 やったー!!!私のノル君がいる!私のノル君!ノル君!!ノル君がいる体からなにかが漲ってきたー!!!

 ん?なんか魔法陣みたいなの浮かんでね??あれ?


 太く赤い光が北を向き放射された。

 多分、あっちにノル君がいる!


「なんで、術式『おにいちゃんと赤い糸』使えるの?」


 え、なに?そのヤバそうな名前の術式は?


「なにかノル君のことを考えると知らないうちにこれが出る様になった?あともの凄い威力のパンチも出来るよ?結社の皆さんには通じないけど今までの私では考えられない威力の――。」


「まあ何かが残留しているのはお互い様だし、それ以外にも残っている私の知識や記憶があればうまく使ってね。」


 確かに今まで知らなかったことが何故かわかったりしたことが何度もあったんだけど、入れ替わった時の名残みたいなものか…?

 わりとチートなんじゃない?


「それにしてもアーニアわたしって『お兄ちゃん』呼びじゃないの?」


「ああ、みんながそう呼んでるからそうなっただけで本人にもお兄ちゃんって呼んでるけど。心の中ではずっとノル君呼びだよ?まあ妻が夫に「お父さん」って呼ぶのと同じじゃない?」


「……!!」


 いい!それいい!私もお兄ちゃんって呼ぼうかな?いや――


「私は当分ノル君って呼ぶわ。」


 恋人、それを経て伴侶になり「お父さん」や「アナタ」って呼ぶならいいけどね…。


「私もそう呼ぼうかな?貴女の身体に入ってた時にノル君って久々に呼んだけどお兄ちゃんって呼ぶより反応良かった気がする。いま思えばかなり効いてたぞ!!」


 流石は私だなって思った。

 引きこもっていた、いない、と差はあるけど根本的なところは私なのだから。

 良くわかっている。

 ノル君会議が捗りそうだ。そう思わずにはいられなかった。

 私はキメ顔で微笑んだ。


「対面の挨拶も終わったことだし、ほかのみんなも呼ぶ?」


 アヤが切り出した。


「そうだね、2年も眠っていたんだもの。」

「それじゃあみなさんに挨拶しなさい」

「はーい。」


 ほんとアヤ、ママみたいで笑ってしまった。


 まあ2年も眠ってたのって私のせいなんだけどね。

 ごめんね|アーニア(わたし)。

 でも私のノル君はこの世界ではないところに居る。

 そう考えるだけでやる気が出てくるなあ、へへへ。


 その為には、いまこの世界にいる間に研鑽しておかなければならない。


「そっちの綾子もいくわよー」

「はーいママ」

「ママじゃないわよ!!私はずっとずっと処女なんだから……!!」


 そりゃあ私もだよ……!


 変なアヤ


 そう思いながらもみんなのところへ向かった。

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