第16話 あれから1年

 この世界に来てから1年が経った。

 あの月夜の出来事は夢では無かった、ノル君が元気に生きていた。

 それは夢の様な確かな現実。

 日本にいた頃の私は暗いどん底で生きている様な生きていない様な、まるでただ無いものにすがるだけの生活をしていた。

 当時に比べると多少は前向きになったとは思う。

 

 いや、多少ではなく物凄く心が満たされている。

 だって、ノル君がこの世界にはいるんだから。

 でもノル君に裸を見られてからどうにもノル君とうまく話せないし、顔を合わせられない。


 それでもいい。

 だって、ノル君が笑顔で毎日を過ごし生きているんだから。


 ……――がんばって近付いて話かけようと近付くには近付くんだけどね…アーニアわたしと比べられちゃう…!って思っちゃってどうも自信がないのだ。


 気の遠くなる様な時間を2人は支えあって過ごして来たのだ。

 例え同じ『私』でもそれは天と地の差だ。

 もちろん私は後者。


 私はそれを弁えている。

 どうせ私はこの世界から追い出されるみたいだし、別にいいよ。


 でも、私もそりゃあ悔しいのでまず不摂生の塊の様な状態から抜け出すために毎日ランニングしている。毎日10kmだよ!?

 始めた頃は100mでバテてたし凄い進歩でしょ?ね?凄いでしょ?わたし。


 他にもレイちゃんに剣術教わったり、ナッちゃんに体術を教わったり、アヤに魔力の循環や伝導について、エレナには魔科学についての基礎を教わっている。結構がんばってるでしょ?わたし。


 1年やそこらではまあ素人に毛すら生えない程度ではあるけど知らないことを覚えるのは楽しい。

 なんでかノル君のいる方角がわかって私にしか視えない赤い光が出てしまったり、もの凄い威力のパンチがたまに出来る程度だ。

 他の結社の皆さんの足元にも及ばない。


 毎日、運動もとい訓練やお勉強しているせいか顔つきもキョドった感じは抜けて来たかもしれない。

 なにより……――あの時比べたアーニア体型にはなっているんじゃないかな?

 って思って1年前から眠り続けているアーニアわたしをたまに裸にして比べている。

 その度に悔しい思いをしているわけだけどね。


 またまだだったとしても私は不摂生の塊みたいな身体とおさらばし、健康とは言える状態にはなっていた。

 本来、運動神経は悪くはなく、むしろ良い方なのだ。

 レイちゃんと比べるとそれは全然だけど体育の通信簿は1番上のAだったしね。


 ………でもね?

 

 アーニアわたしがアレ以来、まったく目を覚まさずにいる。

 それもあって詳細が1年経っても全く掴めない。

 まあ1か2の情報で10の事を知る、なんてことが私は割と得意な方なのだけど…まったくわからない。

 わかっているのはこの世界から私とレイちゃんは出て行かなければ行けないと言うことだけ。

 アヤに聞いてもアーニアわたしが目覚めてからと言うので致し方なく今すべきことを続けている。

 主にプロポーション改造ね。


 アヤは私と1年前に一緒に結社本部に来て以降、何故かずっと結社本部に残っている。まあ私がこの世界から出ていくまでは近くにいるそうなのだ。


 私の作るクレープとかお菓子が目的なのでは?そう思って聞いてみると


「ち、違うわよ!いや、それもあるけど、貴女達2人が心配だからよ……」


 やっぱりそれもあるんだ……、なんて思ったけど口にはしなかった。

 昔の私ならすぐツッコミを入れただろうね。

 大人になったでしょ?わたし。

 ちなみにアヤの言う2人とは私とアーニアわたしだ。


 それにしてもアヤはたまにアーニアわたしを毒づいてたし不仲なのかな?なんて思ったことはあったけど別にそんなことは無く、むしろ仲良いんだなと最近気づいた。

 みんなに「お兄ちゃん」と呼ばれていたのがノル君とわかり、アヤの好きな人=あの人=お兄ちゃん=ノル君となる。

 アヤと一緒にノル君会議をしていると、あれだけノル君を好きっていってアヤにも関わらず、アーニアわたしを応援している節があるし、そこまでガッついてないんだよね。アーニアわたしの次になんて考えていそうだ。


 まるでママと話している様な錯覚さえある。

 よくママとノル君会議している時もそうだったなあ。


 『ふふ、綾子が早くしないと私がノル君と付き合っちゃうからね!』

 って言ってたなあ。


 私にとっては最強に怖い発言だった。

 ママめちゃくちゃ可愛いから…。


 私が小学生の頃、ノル君中学生で、ママ見て顔赤くしてたの知ってる。

 私が高校生になりそうな頃には、ノル君も落ち着いてたからまあ良いんだけど。


 ママ、私が消えてどうしてるかな?


 あれ…?ママの顔全然思い出せないんだけど。

 私の中学のセーラー服来て私の振りしたりと中々お茶目で見た目も私と凄い似てるなあママなのに、流石ママ!って思ったのは覚えてる。

 同じとは言わないけど母親にしては反則級の若さである。

 ちなみにうちは母子家庭である。


 顔を思い出せなければ、不思議と心配な気持ちも沸かない。

 私は白状なのだろうか?

 でも意識して顔を思い出そうとすればするほど無意識に心配していた感情がなくなる。

 

 アヤがたまにママっぽいことを言ったりママを彷彿する仕草をする為、それでやっとママの存在を思い出せている。

 からかってアヤをママって呼んでみようかな?


 と、まあこんな感じでよろしくやっているよ!


 今日もアーニアの部屋で、アヤとクレープを食べている。なんだかんだで私がアーニアわたしの世話をしているし、アーニアの部屋が私の部屋になっている。自分の身体を他の人に触らせるのもなんか少し抵抗あるし、アーニアわたしには一応恩があるし…。

 アヤもなんだかんだと心配してアーニアわたしの身の回りの世話を手伝ってくれている。

 アヤの見た目は私達篠村綾子と似てるしなんとなくね、ママみたいだなって思ってから特に抵抗がない。

 ママじゃないんだけどさ。


「アヤさ、クレープ食べすぎじゃない?あとなんでアーニアわたしの服着てんの?」

「ふふふ、似合うー?左側の髪を編めばホラ!綾子そっくりよ!」

「アヤ前髪パッツンだからなあ……――顔も微妙に私達と違うし」

「そんなの些細な事よ!今日はこの姿でいるわよー!」

「あ、ママずるい!そのローブ私も着る!」

「な、だ、誰がママよ!一緒に着てノル君に会いにいくわよ!」


 ついママとか呼んじゃった。


 小学生のころ担任の先生をお母さんって呼んじゃう人の気持ちがわかった気がする…。

 私もアーニアわたしの服をきて今日はアーニアごっこデイだよ!


 でも、ノル君には会いにはいけないかな。


 それにアーニアごっごデイをしていたら、リリスちゃんに叱られた。

 中学の卒業式の日、式の後にママが何故か私の予備のセーラー服を着て集合写真に混じってた、なんてことがあったんだよね。

 「篠村が二人いる」って騒ぎになったあげく叱られたけど。


 その時のことを思い出していた。


「ママのせいでリリスちゃんに叱られちゃったじゃん」

「だーかーらー…!ママじゃないわよ…!でも…楽しかったわね!」

「楽しかったねアヤ!この装備で今度魔モノの駆除にいこうよ!!」

「いいわねー!たくさん駆除しちゃうわよー!!」


 私も魔モノくらいなら倒せるようになったのだ。

 一人じゃまだちょっと不安だけど…。

 なんて話を和気あいあいとしていたけど結局アーニアごっごで魔モノ討伐にはいかず2年とちょっとが経過した。


 2年とちょっとしたある日、アーニアわたしが目を覚ました。

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