第15話 ふーんエッチじゃん

 これが夢じゃなきゃいいな。


 そう思っていた。


 この時間が永遠に続きますように。


 そう願わなければいけないほどに、月灯りの下での出来事は私にとっては嬉しいことだったのだ。


 アナタと再会した。

 月が落ちればアナタも消えてしまいそうで、ずっと昇っていて欲しかった。


 そう願いながらも、アーニアこの世界の私特製の回復薬をとっても疲労は全て取れなかったのか食事を摂った後、私は気が付けば眠りについていた。


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 夢から醒めた私は自分の身体に戻っていた。

 私は3日程眠っていたらしい。

 元の身体に戻った影響かな?ちょっと右手もまだ痛いね。


「そっか夢だったかー。」

 確かノルくんに再会して牛すじカレーを食べて、楽しかったのは覚えているんだけどそれも夢――ノルくんは私の夢の出来事なのだ。

 夢の中でも元気そうだったな……――まあでも、夢は夢。


 そう考えると涙が流れ口に伝ってくる。

 しょっぱい。

 よくこういうのは甘酸っぱいと表現される物語はあるけど、しょっぱいの間違いではないだろうか?


 感傷に浸っていると誰かの足音が聞こえる。この部屋に向かってくる様だ。


「綾子お姉さま、バイタルチェックを遠隔で覗いたら目が醒められた様なので来たのですが入ってもよろしいでしょうか?」


 誰だっけ?リリスちゃんだっけ?THE聖女様みたいなアーニアの妹だよね?

 でも夢の話だよね、確か。


 まだ夢?あ、やべ!!泣き顔拭かなきゃ!!


「う、うん!大丈夫だよ!」

 ゆっくりとドアが開かれ綺麗な綺麗なTHE聖女様なお姉さんリリスちゃんが入ってきた。

「具合はどうですか?お姉さま。」

「あーうん、もう大丈夫だと思う。ただ右腕がちょっと痛いかな?噛まれたとこ」

 酷い筋肉痛の様だ。そのうち治るでしょ。ただアヤに教わった魔力の循環みたいなのが勝手に発動している、そんな感覚があった。

「無理に直すのも今はお勧め出来ませんので気長に治療していきましょうね?」

「うん、ありがとう。」


 リリスちゃん優しい。膝枕されたい。


「昨日いただいたカレー美味しかったです。意識を失われていたのでお伝えできませんしたので……――」


 ふふふ、律儀だなあリリスちゃん。

 でもあれ?そっか!現実でもアーニアの身体に入ってた時にカレー作ったし辻褄はあうね!

 と、いっても現実だと初対面だしね。

「いやいいんだよ!美味しいって言ってくれて何よりです!あと改めまして篠村綾子です!よろしくね!リリスちゃん!」


 ちょっと敬語がいいのか普通に話せばいいのか迷うなこの子。

 私よりちょっとお姉さんっぽい見た目だし。


「まあ!こちらこそよろしくお願いいたしますね!綾子お姉さま!」


 よろしくね!


「ところでさ、リリスちゃん、あれが、いやあの人がアーニア?というかワタシ?」

 寝ていた隣のベッドには髪の長さを抜かせば私と瓜二つな人物が眠っていた。


 ここはアーニアの部屋なのだろうか?なんとなく私の趣味って感じの部屋だ。

 というか割と広い、15畳くらい?


「はい、アーニアお姉様です。貴女にとっては将来成り得る一つの可能性の姿、といいますでしょうか?」


「可能性?」


 可能性?そもそもアーニアはどうやってこの世界に来たのだろうか?

 どうやって今まで生きてきたのだろうか?

 というか、同じ世界に既に二人存在しちゃってるし……――。

 

 「私もアーニアお姉様に聞いた話で詳しくはわかりませんが、どうやらお姉さまも今の綾子お姉様と同じくこう当時アーニアお姉様と対面しているらしいのですよ……」

 

 おや?アーニアにも私みたいな時代があってアーニアに会ってわけわからなくなってたってこと?

 私は精一杯少ない情報から結論を出そうとした。

 でもこんな世界に来てしまったのだ。

 それもあり得る。

 けどあまり考えたくもない。

 だってここに居れば安全っぽいなとは思うもの。

 

 でもそれは、そういうことだよね。

 

「私は過去とか別の世界に行かなければいけない?」

 

「……アヤお姉様にもアーニアお姉様が目覚めてからお話するとは聞いていたのですが、そういうことに……なります。」

 

 バツの悪そうな顔、うっかり話してしまった様な顔をするリリスちゃん。まあ私がフォロー入れるから…。

 

「そっか」

「行くのは20年後か少し先くらいになりますが……――」


 20年!?私、37歳なっちゃうよ!?おばさんじゃん!??

 

「え!ちょっと……!」

「詳しくは落ち着いてからアヤお姉さまにお話ししていただくことにします。私が話しても混乱させてしまいますので…。」

 

 もう既に混乱してるから!!

 

「わ、わかった」

 

 パタパタとリリスちゃんは早歩きで逃げ、いや部屋を出て行った。

 リリスちゃんからはやっちまった感が出ていたので仕方がない。

 

「まじか……」

 

 語彙力のない私はそれしかつぶやけなかった。

 ふと眠っているアーニアをみる。


 私の可能性かあ。


 そう思いながらアーニアを観察していた。

 あの身体に入っていたわけだから知っていたけど。

 まんま私だね。

 いまは同じ様なガロンみたいなパジャマ?を着ているからか違うのは髪の長さくらいかな?

 

 アーニアの布団をおもむろに捲る。

 いいのいいの!同じ私なんだから!同じワタシだしどこまで同じなのか確認が必要なの!そう言い聞かせてパジャマも捲って剥いだ。

 私もパジャマを脱いで私と比べていったのだけど。

 

 うーん、やらなきゃよかった。知らなきゃよかった。

 というかこの身体に入ってたし一回見たことあるけど!!

 私よりなんか若々しい気がする…。なんで!?

 

 お腹周り!私よりシュッとしてる!

 頬っぺた!私より気持ち?シュッとしてる!

 

 脚!私よりシュッとしてるし肉付きがほど良い!

  胸!ここはほぼ同じ!!

 

 クソー!私に負けた……!人気投票があったら絶対負ける!

 そりゃーこのアーニアの身体なら動きやすいはずだよ。

 片や私は1年間引きこもって運動もしてこなかった身体だし当然っちゃ当然なんだけどさ……

 なんかちょっと体系はほぼ一緒なのになんかアーニアは色っぽいんだよな。

 私もこれくらいのスタイルにはなれる可能性があるということか。

 

 ふーん、エッチじゃん。虚しさが溢れ感情が爆発した。


「これも『お兄ちゃん』という人の為なのか!?ノルくんはどうしたんだよ!?ノルくん!!ノルくんは!!!??」


 ノルくんは夢だった、というやり場の無い気持ちを私(アーニア)にぶつけるしかなかった。

 というか叫んでしまった。

 アーニアだって強くなる過程でこうスタイルがよくなったのかもしれないじゃんね。


 私、メンタルやばい女じゃん……

 なんて考えていたら


 ドタドタドタドタドタドタ!!!


 もの凄い勢いで誰かが部屋に向かっている。そして勢いよくドアが開けられた。

「どうした!なにがあった!?というか呼んだよ、な?――あ」


 入ってきたのはノルくんだった。

「え?ノルくん?」

 どうしたの?ってアレ???まだ夢??え?え?どういうこと?あれ!?なんで目逸らすの?


「ごめん、ノックくらいするべきだよな?ほんとごめん……」

「え?ちょっと待って?ノルくん?本当にノルくん?夢じゃなかったの?って、ドア閉めて帰ろうとしないで!!」


 ちょっとまって!ノルくん!ノルくん!ノルくん!ノルくん!ノルくん!ノルくん!


 逃がさない!なんて思ってはいないけど私はノルくんを帰したくなくて近づいていった。


「綾子!!服!服!!って本当にごめん!!」

「え?」


 そうだった、私ほぼ裸じゃん!!!アーニアも裸にしたまま!!

 ノルくんに見られたの……?え?


「ノ、ノルくんのエッチー!!!!!!!!!!!!!」


「ごめん……!!」


 私が大声で叫んだ為に、いろんな人が集まってきてしまった。

 どうすんだこれ……みたいな状況にわなわなしていたけど、私の愚行を説明してノルくんのラッキースケベ事故は全て私が発端であることを説明した。

 ぶっちゃけこの騒動でノルくん執着行動はせずに済んだ。

 というかこのアーニアと比較されてしまう裸をみられたショックが主だったのだけどね。

 でもノックもせず入ってきたノルくんも悪い。


 しかし、まじかー。ノルくん夢じゃなくて現実だったのか。やったね!!えへへ


 あれ?夢じゃないとしたら、私がノルくんに対してしたあんな事やあんな発言やあんなムーブは……


 ――私、もうノルくんと顔合わせられないや。


 後からアヤがやってきて微笑ましいものを観るかの様に言ってきた。


「あらあらー、レイには聞いてたけど綾子積極的ねー。お年頃だものねー。ふふ、そのまま押し倒しちゃったら良かったのに。アーニアだけは加減なく怒りそうだけど。」


 アヤの想像では私が裸で迫ろうとか、なにかしら誤解しているのかもしれない。

 しかしアヤが言い放つそのありふれた発言には私にとってはなにか心地の良いものだった。


 アヤってなんかママみたい。

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